十四話 二月三十七歳《報酬と宴》
森林地帯から少し逸れた草原でヴィリアルたちが魔獣と交戦していた頃――
そこから少し離れた森の中で一つの人影がその戦いを見つめていた。
「うわっ……なんだよ、あいつら」
その影の正体は十歳前後の人間の子供と変わらない背丈が特徴のピクシーの少年。
彼は木の枝に腰掛けながら戦闘を観戦していたがその目はやがて瞠目に変わっていた。
目の前ではフォレストウルフが次々と倒れ、オウルベアも双剣によって切り伏せられていく。
さらに空では巨大なロックバードへ雷が落ちた。
「えぇぇ!?」
「あれって前にも居た!」
青年は悔しさを隠しもせずに頭を掻きむしる。
「くそーやっぱりそうだ!前に邪魔してきた奴らじゃないか!」
ロックバードが地面へ落ちる。
そこへ四本腕の巨漢が飛び込み、一気に斬り伏せた。
「あーもう!」
青年は悔しそうに爪を噛む。
「また全部やられちゃったじゃん!」
やがて両手でぶんぶんと空を殴りながら叫んだ。
「もういい!違うところで遊ぼっと!」
青年は振り返り指を鳴らす。
「彼方へ繋げ──ワールドステップ」
空間が水面のように揺らぐと青年の身体は光へ溶け込み、そのまま跡形もなく消えていった。
◇
季節は巡り冬の厳しさが残る道行は今だに真っ白い雪景で描かれている。
約半年に及ぶ護衛依頼を終えて真冬の旅は自然との戦いで魔獣との戦闘は数える程しかなく足早にエイドルを目指した。
そして僕らはようやくエイルド商業都市へ帰ってきた。
高い城壁が見えた瞬間、思わず力が抜ける。
「やっと……戻ってきた」
「ハハハ!初めての冬の長旅だったがよく頑張ったな!」
思わず漏れた僕の呟きを聞いて声を掛けたのは調教済みの魔獣、ジャイアントホースに跨る多腕種で剣闘士のフォーさんだ。
「はは、ありがとうございます.......しかし本当に寒くないんですか?」
褒めてくれるのは嬉しいが何度確認しても大丈夫だと言うフォーさんに再度確認する。
「ん?問題ないと何度も言っているだろ、心配性な奴だなぁ」
そりゃ何度も確認したくなるでしょ!と心の中で反発し隣で笑うフォーさんの姿をじっと見つめる。この人は真冬の旅を素肌に魔獣の毛皮で作られたショートコート一枚を羽織るだけでここまで駆けてきたのだ。
(見てるこっちが凍えてきますが?)
怪訝な顔で見つめる僕にエフティルさんが声をかける。
「無駄よ、寒さに強い私たちでも信じられないわ。きっと身体のどこかおかしいのよ」
「そうだ、フォーは昔からおかしい」
寒さが応えているのか心なしか元気のないフラミルさんも同意したことで、もはや気にしないと心に決めた。
そんなこんなで長旅は楽しく、毎日馬へ乗り続ける生活は想像以上に疲れた。
(はぁー早く皆に会いたいなぁ)
その一心で帰ってきたのだ。
「ありがとね。マーニ」
そして優しく馬を撫でる。気持ちよさそうに手に首を寄せるこの馬の名前は【ラスクマーニ】都市についたらまた売る予定で王都で購入したが二ヶ月の旅を共にしていつしか愛着が湧いて名前を付けてしまっていた。
昨日フォーさんにマーニのことを相談すると馬主になっても毎月金貨二枚程度の管理費だと聞きそのまま僕の愛馬にしようと決めた子だ、そしてフォーさんの馬【ゼルロム】を預けている馬宿を紹介してくれた。フォーさんも自分が乗れるジャイアントホースを都度探すのは大変らしく金貨五枚でお世話をお願いしていると教えてくれた。
フラ・エフの二人も【ミル】と【ティル】を馬宿に預けていた。この子達もフォーさんの愛馬ゼルロムと同じく以前から馬宿に預けていたらしい。
そして僕らは馬宿でしばしの別れを告げてギルドに向かった。
冒険者ギルドで依頼完了の報告を済ませるとユウナさんが帳簿を確認しながら微笑んだ。
「依頼達成、お疲れさまでした」
「報酬は金貨二百五十枚」
「魔獣討伐証明と魔石買取は下級十三、中級五、上級八、将級一で金貨七十枚」
「ギルド手数料一割を差し引きまして、金貨二百八十八枚となります」
トレイに綺麗に積まれた金貨に思わず目を見開いた。
(すごい……。)
一度に見る金貨の量じゃない。
「ありがとよ、嬢ちゃん」
僕らを代表してフォーさんが慣れた様子で袋に入れるとお礼を言って受け取った。
そのまま酒場の席へ移動したので僕たちも後へ続いた。席へ着くなりフォーさんが豪快に笑う。
「よーし、報酬の分配式だ!」
全員が自然と姿勢を正した。
「まずフラ、エフ!お前らは合わせて百二十枚だ。半分ずつ持ってけ」
「やったぜ!今回は山分けだな!」
フォーさんが並べた金貨から取り分を積み直して一人づつ報酬金額を伝える方式だ。その金貨をフラミルさんが嬉しそうに抱き寄せる。
「いいの?私たちは三星級よ、多過ぎでは?」
一方、エフティルさんはそんなフラミルさんを横目に計算の間違いを訂正して少し遠慮がちにフォーさんに尋ねた。
フォーさんは鼻で笑う。
「あぁ。」
「今回、オレはほとんど魔獣とも戦ってないしな、お前らの方が動いてたから当然だ」
そして今度は僕に視線を向けられドキドキしながら身構えた。
「オレも六十枚でいい、残りは坊主にやる!」
「えっ!?」
思わず立ち上がった。
「僕が一番多くなりますよ!?」
フォーさんの計算間違いを本気で疑い間違いだと指摘した。しかしフォーさんの顔は真剣だった。
「あぁ、それでいい、今回お前さんのおかげで怪我もなく安定した依頼の進行となったのは間違いねえ。それだけで十分価値がある」
さらにフォーさんが笑いながら続ける。
「それに、お前さんは色々入り用だろ」
旅の途中。
僕は自然と皆のことを話していた。
アルたちのことや孤児だったエレナとカイのこと。
森から一緒に来てくれたエマのこと。
フォーさんは全部覚えてくれていた。
「いいから貰っとけ!」
呵々と笑いながら僕に金貨の詰まった袋を押し付ける。みんなのことを想ってくれるフォーさんに胸の奥が少し熱くなる。
「……ありがとうございます」
僕は深く頭を下げた。するとフォーさんがニヤリと笑う。
「それでだ、今からお前さんの仲間を呼んで帰還祝いでもしねぇか?」
◇
その日の夜、僕たちはフォーさん行きつけの酒場へ集まっていた。
その酒場は巨人族のフォーさんが寛げる広々としたテラス席が裏庭にありフォーさんの行きつけと言うだけあってお酒もとても美味しかった。
アル、ロベル、エレナ、カイ、エマ。
そしてフォーさんにフラミルさんにエフティルさんの九人で賑やかな宴が始まった。
「お前さん剣士になりたいんだって?」
フォーさんがアルの肩を豪快に叩く。
「はい!前に見たフォーさんの戦い、すっげぇ格好良かったです!」
「ハハハ!そーかそーか!オマエさんも毎日剣振って戦い続けりゃ、そのうちオレみたいになれる!」
アルは目を輝かせながら何度も頷いていた。
一方その隣では――
「アンタ回復魔法使えるんだってね!」
フラミルさんがエレナの肩を抱きながらエールを呑んでいた。
「は、はい。エマさんに教わりながら……」
「偉いじゃないか!恩返しのため、仲間を死なせないよう守ろうとしてるんだろぉ⁈その心意気、あたしは好きだよ!」
エレナはフラミルさんに気に入られ少し照れながら笑っていた。
さらに別の席では。
「カイ、これ美味しいのですよ」
「こっちも食べてみる?」
エマさんとエフティルさんが甲斐甲斐しく料理を取り分けている。
「えっ……でもお姉ちゃんは?」
「大丈夫よ」
「今日は楽しむ日なのですよ!」
その様子に周囲から笑い声が上がった。
僕はロベルと並んで料理を食べながら話していた。
「どうだったんだ、王都は?」
「大きかったよ、でも護衛だったから王都はほとんど見られなかった。だから今度は皆んなで王都に行って観光しよう!」
「いいな、それ」
僕らは王都にみんなで行ける日を夢見て二人で笑っていた。
「おー、いい考えだ!」
突然大きなフォーさんの声が聞こえて来た。
「オィ坊主!いいことを思いついたぞ!」
四腕巨人のフォーさんが大きな声で歩いてくる。優しい人と分かっていても少し怖い。
その後ろではアルまで頷いていた。
「俺も賛成だ!」
「何ですか?」
僕が首を傾げるとフォーさんは腕を組み笑みを浮かべて仁王立ちで発言した。
「ふっ俺たちで――クランを組まねぇか!」
「……クラン?」
また聞き慣れない言葉だった。僕だけでなくロベルたちも同じように首を傾げる。
フォーさんは酒を一口飲むとゆっくり説明を始めた。
「パーティーてのは三〜六程度の班のようなもんだ、基本一緒に行動する仲間だな。だがクランは違う、複数のパーティーが集まった、一つの組織、隊だ!」
「依頼は別々でもいいし合同でもいい、困った時は助け合う、情報も装備も共有する。育成もできる!つまり、お前らの今の悩みも解決できるってこった!」
その言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。
僕は四星級、アルたちは一星級。
同じパーティーでは依頼を受けづらい。
だけど――クランなら。
別々の依頼を受けながら、それでも同じ仲間として歩み続けられる。
僕は思わずアルたちの顔を見た。
アルも、ロベルも、エレナも。
三人とも驚きながらも、どこか希望を見つけたような表情を浮かべていた。
僕たちの旅は、また新しい一歩を踏み出そうとしていた。
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