異世界必須のスキル『アイテムボックス』
『もう、トラックに轢かれなくても異世界に行ける時代が来た!』
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ギルドに戻った瞬間、俺は気が付いてしまった。
そう、この後、元メンバーとイベントが起きるんだ。
展開は俺とアリスちゃんがギルドに戻った直後に元メンバーと遭遇。
で、元メンバーの“いかにも序盤で主人公を見下して、後で痛い目を見るタイプ”君が主人公の隣にいるアリスちゃんに一目惚れ。パーティーメンバーにいれようとして、それを止める主人公。
そこで争いになるんだけど、自分の能力を知り覚醒した主人公は元メンバーのリーダー”痛い目見るタイプ”君をぼこぼこにして、結局覚えてろみたいなセリフ履いて去っていくんだよね。
案の定、”痛い目見るタイプ”君、もういいや、リーダーで。
リーダーはアリスちゃんに歩み寄り、軽薄な笑みを浮かべる。
「君、うちのパーティーに入らないか?」
……来た。テンプレ勧誘イベントだ。
いいのかよ、アリスちゃん誘っちゃって。
さっき助けたまんまだから全身泥だらけのびしょ濡れだぜ。まずそっちの心配してやれよ。
「この変態なんかと組むよりも断然いいぜ?」
「ぶふっ!」
「なに笑ってんのよ、この変態!」
「やめて、名前呼ばないで……」
必死に笑いを堪える俺。
それを見た元メンバーたちは顔を真っ赤にしている。
「この変態! アンタってホント、生意気なのよ!」
金髪ロールの少女が魔法の詠唱を始めた。
あー、そういえば。
本来ならここで主人公が魔法を『収納』して、相手にそのまま返すイベントだったっけ。
せっかくだし、試してみるか。
俺はスキル『収納』を発動した。
『水を取り出しますか?』
▶はい いいえ
……あ。
次の瞬間――
ドパァァァァァン!!
とんでもない量の水がギルド内へと放出された。
「うわぁぁぁぁっ!?」
「な、なんだこれぇぇぇ!?」
濁流と化した水はテーブルも椅子も客もまとめて飲み込み、そのまま入口を突き破って外へ押し流していく。
もちろん――
「きゃあああああっ!?」
メインヒロインも一緒に。
「あれ、僕何かやっちゃいました?」
一度でいいから言ってみたかったんだよな、このセリフ。
詠唱不要。
魔力消費なし。
しかも威力はそこらの水魔法より圧倒的に上。
確かこの主人公は、収納で魔法を大量に溜め込んでそれを一気に放って戦うっていうスタイルだから、間違いではないんだけど。
別に収納するの、魔法じゃなくてもよくね?
川の水とか。
湖の水とか。
海水とか。
「く、クソ、覚えてやがれ」
あ、ちゃんとセリフはいて逃げていった。でも、どうすんだよこれ。絶対想定されてないと思うんだけど。
「へぇ~、あのSランク、純白の翼のリーダーを倒すなんてすごいわね。この変態」
「ぶふっ!」
全身びっちょびちょに濡れたギルドのお姉さんに褒められつつ侮辱された。
いや、まずこの惨状について言及してくれよ。
俺がそんなことを思っていると、周りの客は当たり前のように店に戻り、当たり前のように酒を飲んでいる。あ、彼らはモブということね。はい、分かりました。
「だけど、マズいことになったわよ」
いや、マズいのはギルドのお姉さんの服装です。透けて色々見えてますから。
そんな俺の考えを無視してギルドのお姉さんは話を続ける。
「純白の翼にいたあの女の子いたでしょ。実はあの子、王の娘なのよ。その子に手を出したことが知れたら……」
ああ、そうだった。
確かそんな設定だったな。
元メンバーの少女は実はお姫様。
そして彼女に手を出したと誤解された俺は、衛兵に捕まって冤罪を着せられ、一度牢屋送りになる。
ちなみにメインヒロインも巻き添えで捕まる。
……いや、あいつ何も悪くないだろ。
「貴様だな! 大人しくしろ!」
お、来た来た。
ここで抵抗するべきか?
それとも大人しく捕まるべきか?
確かこの後、地下牢にいた猫耳の盗賊娘が協力してくれて脱獄イベントが発生するんだよな。
うん。
よし、面白そうだし捕まってみるか。
「あ、はい、大人しくします」
俺は両手をあげ降参の合図をする。すぐさま俺は衛兵に拘束された。
……だからなぜメインヒロインちゃんも一緒に捕まってんの?
***
そのまま、王様の前へと引きずりだされた俺。
目の前には玉座に座った王様と元メンバーのお嬢様風の女。
しかし毎回思うんだけど。
なんで自分の娘を冒険者なんかにしてるんだ?
お忍びならまだ分かる。
だがギルドのお姉さんは正体を知っていたし、どうやら国民も普通に知っているらしい。
それ、ただの姫様の社会見学じゃないか?
何かあったらどうするつもりなんだ、この国王。
「貴様か、我が娘に不埒な行いを働いたのは」
「そうよ、パパ。この変態があたしに魔法を撃ってきたのよ」
「ぶふっ!!」
変態が魔法ってどんな魔法だよ。……ああ、一瞬で洪水を作るから十分変態魔法だわな。
「この変態よ、貴様の罪は分かっているな」
この名前自体が罪なんじゃねえの?
目の前の王様が睨みつける様に俺を見下し、ドシリアスの場面で俺を『この変態』と言ってくる。
もう俺は名前を呼ばれるたびに笑いをこらえるので必死だ。
「この変態、貴様を死刑に処す」
「ぶふっ!」
思わず吹き出した俺を見て、姫は鼻で笑う。
「ふふん! ざまあないわね、この変態」
「頼む、それ以上連呼しないでくれ」
「あら、泣いて懇願しても無駄よ。この変態」
だからやめてくれ、このシリアスの場面で変態変態連呼しないでくれ。処刑の前に笑い死ぬわ。
「こいつを地下牢へ連れていけ、処刑は明日行う」
こうして俺は、笑いを堪えながら兵士に引きずられ、地下牢へと連行された。
……もちろんメインヒロインちゃんも。
地下牢はカビの匂いが鼻を突き、壁に掛けられた松明だけが唯一の明かりだった。
俺は牢屋の中に入れられ、メインヒロインちゃんは別の牢に入れられる。
しかし、創造神(涼太)、この世界色々設定がおかしなところあるぞ。
俺は心の中で突っ込みを入れておく。
「あれ、アンタもドジ踏んだ口?」
対面の牢屋で声がする。この子が2番目のヒロインちゃん。名前は……なんだっけ、忘れた。早く名乗ってくれ。
「私の名前はミア、よろしくね」
ああ、思い出した。ミアね。で、この後、この子の手を借りて牢屋から脱出するんだけど……。
突如、ウィンドウが表示された。
『名乗ってください。あなたの名前は【この変態】です』
またこれかぁ。このままじゃイベントが進まないので俺はミアに名前を教えることにした。
「俺の名前は『この変態』だ」
「この変態、いい名前じゃない」
どこがいい名前なのか俺に説明してくれ。
これから会う人全員に『この変態』と罵られるんだぜ。
「この変態はとても優しい方なんですよ。私のことを助けてくれましたし。ね、この変態」
メインヒロインことアリスちゃんに褒められて持ち上げられて罵られる。なんだこのクソゲーみたいな設定。
何とか笑いをこらえつつ、俺は次のイベントを思い出していく。
確かこの後、ここからミアが鍵を開け、脱獄ルートが始まり、俺たちは“賞金首”として王国を追われる。
逃亡の果てに仲間を増やし、いつの間にかハーレムパーティが完成するやつだ。
もう見飽きた、親の顔より見た展開だ。
そして、そのうち元仲間と王国は気づくのだ。
「主人公の“収納スキル”がなければ国家が回っていなかった」と。
そして手のひらを返して「戻ってきてくれ」と泣きつく。
――だが、もう遅い。
仲間もいる。居場所もある。
そんな王国に戻る理由なんてない。
そして、俺を貶めた王国は崩壊していく。
そういうざまあ展開が待ち受けているのがこの世界。
「で、タイトルで全部ネタバレ喰らってんだよな」
この世界のタイトルが『俺のスキルを馬鹿にし“荷物持ちしかできない無能”としてSランクパーティーを追放された俺、実は《収納》スキルの中に時間停止空間を作れる唯一の存在だった ~俺が抜けた瞬間に兵站崩壊したらしいけど、美少女冒険者たちとの新生活が忙しいので知りません~ 』だっけ?
クッソ長えよ! 舌嚙み切るよ!! もうネタバレしてるよ!?
はあ、飽きてきた。違う世界に行こうかな……。
と言っても、今持っているものは大量の水だけ。こんな狭い空間で使ったら俺まで溺れてしまう。
ってか、このゲーム、主人公が死んだらどうなるんだ?
俺はステータス画面にあるヘルプ欄をタッチする。
「ええと、ヘルプで検索っと……、お、あったあった」
俺はヘルプの欄を確認する
1:この世界で主人公が死ぬとセーブポイントに戻されます。
2:セーブは任意、または自動で行われます。死亡時は最新のデータからロードされます。
なるほど、セーブ機能付きか。とりあえずセーブしておこう。
俺は心配性であり。セーブは基本3つくらい作る。で、進めていくうちに気が付いたら10個近くになってしまっている。
さて、セーブも完了したし、試しに色々試してみるか。
俺は立ち上がって牢屋の鉄格子に手を触れてスキルを使う。すると、目の前に俺を塞いでいた頑丈な鉄格子がふっと姿を消す。そのまま、アリスとミアの鉄格子も消していく。
「『収納』というか、全ての異世界のアイテムボックスってぶっ壊れ性能だよな」
「よし、開いたわね。さあ脱出するわよ」
いやいや、ミアさん。さも自分が開けましたよみたいな感じで先頭走るのやめてくれませんか?
俺たちに気が付いた兵士が槍を構える。
「貴様、どうやって脱出した」
いや、鉄格子が無くなったんで普通に……、と言っても信じてくれないよな。
とりあえず邪魔なんで俺はアイテムボックスから鉄格子を取り出し、投げた。
突如現れた鉄格子を避けられるはずもなく。兵士に直撃し、そのまま気絶した。
そういえば、生物って『収納』出来ないんだっけ。確かこの世界の『収納』、つまりアイテムボックスの説明は結構あいまいで生物は収納出来ないって設定だった。つまり生きた人間などは収納出来ないという訳だ。逆にどんな巨大なモンスターでも、死体なら収納できるという設定だ。
もし、この気絶している兵士を収納しようとするとどうなるのか。非常に興味が沸いてきた。
俺は気絶している兵士に手を当てスキルを発動する。
「……っ! ぶふっ!!」
結果は実にシンプルだった。
気絶した兵士は、そのまま“装備だけが剥がれた状態”で転がった。
要するに、全裸である。
いや、ダメだろこれ。色々とダメだろ。しかも地下とはいえ、ここには女の子二人もいるんだぞ。
……まあ、薄暗くてほとんど影になっているのが救いだが。当の本人たちは特に気にした様子もない。ある意味すごい適応力である。
「なるほど。想定外の挙動はAIも判断しきれないってことか……」
妙に納得しつつ、俺たちはその場を離れて扉へ向かった。
そして扉を開けた、その瞬間だった。
「む!? 貴様、いつの間に!」
次の兵士と、真正面から目が合う。
反射的に、俺はその兵士の鎧へと手を伸ばし、スキルを発動した。
一瞬で鎧が消失し、兵士は例によって“装備を失った状態”になる。
しかも都合のいいことに、下半身だけ謎の光が仕事をしていた。
……いや、待て。おかしいだろこの世界の倫理設定。
「脱獄だ。この変態が逃げたぞ!!」
「ぶふっ!!」
やめてくれ。
シリアス顔の中年全裸兵士に、全力で「変態」呼ばわりされるのは精神的にくる。
全裸兵士の声を聞き駆けつけてくる兵士たち。その中に混ざる。中年全裸兵士。
頼む。俺の腹筋を返してくれ。
シリアスの中に一人だけコメディが混ざっているだけでこうも酷いものなのか。
「ふん、逃げられると思っているのか。この変態よ」
声をした方を見るとそこには王様と元メンバーのお姫様。
――さらに
「随分と暴れまわっているじゃねえか、この変態」
「ふふふ、前回は油断しましたが、今回はそうはいきませんよ、この変態」
元メンバーのリーダーとインテリ眼鏡の二人も追加された。
ってか、きっちりと名前を呼んでくれる辺り、実は主人公のこと好きだろこいつら。
「この変態を捕らえよ。なんなら殺しても構わん!!」
兵士が一斉に俺たちに迫ってくる。
たしか、この後の展開は、主人公が自分も含む味方全員を『収納』して姿を消して逃げ出すんだっけ。
おお~い、創造神(涼太)早速、設定崩壊してるぞ。『収納』は生物が入れられないんじゃなかったのか?
いや、確かここで主人公が覚醒しそういう能力になったとかだったかな。
まあいいか、そういうご都合主義があるのも異世界ノベルの醍醐味だ。さて、ここは小説通りに味方を『収納』して……。
――いや、待てよ。
もし、ここで違う行動を取ったらどうなるのだろうか。
例えば、そう、全て水に流して解決しましょう。ってことで……。
俺はパネルを操作し、セーブボタンを押す。
次にスキル『収納』を発動する。
『水を取り出しますか?』
▶はい いいえ
ドパァァァァァン!!
流れる大量の水、それにかき消される大量の悲鳴。
そして、一緒に流される二人のヒロイン。
城内は阿鼻叫喚の地獄絵図と変わった。
「う~ん、なんか違うんだよな」
俺はパネルを操作しロードボタンを押し、時間を戻した。
「この変態を捕らえよ。なんなら殺しても構わん!!」
再び、兵士たちは俺たちに迫ってくる。
俺は城の柱に手を触れ『収納』を発動する。
次の瞬間。
城が消えた。
「な、なに!? 消えただと!!?」
「うそ!? どこに消えたというの!?」
マジかよこいつら。主人公が『収納』で姿を消した時と同じ言葉発しているぜ。
まあ、消えたのは俺たちじゃなくて城なんだけど……。
「とりあえず、城はお返ししときますか」
『城を取り出しますか?』
▶はい いいえ
突如、彼らの上空に巨大な城が出現した。それが重力に引っ張られ落下する。
巻き込まれるのは嫌だし、『収納』で逃げることにしよう。俺はそのままアイテムボックスの中へ逃げ込んだ。
あ、ヒロインちゃんたち忘れてきた。ま、いっか。




