『俺のスキルを馬鹿にし“荷物持ちしかでき――長いので省略』
この異世界のタイトルは『俺のスキルを馬鹿にし“荷物持ちしかできない無能”としてSランクパーティーを追放された俺、実は《収納》スキルの中に時間停止空間を作れる唯一の存在だった ~俺が抜けた瞬間に兵站崩壊したらしいけど、美少女冒険者たちとの新生活が忙しいので知りません~ 』です
「――遅いんだよ、この鈍間が!」
ログインした瞬間、いきなり罵声が飛んできた。
視線を向けると、そこには“いかにも序盤で主人公を見下して、後で痛い目を見るタイプ”の男が立っていた。
「まったく、これだから荷物持ちは使えないのよ」
さらに、その隣には金髪縦ロールのお嬢様風少女までいる。
「本当に足手まといだね、君は」
インテリ系眼鏡の魔法使いまでいる。
……ああ、思い出した。
これ、涼太が書いた異世界小説の冒頭だ。
確か、主人公が無能扱いされて、パーティから追放される展開だったはず――。
そんなことを考えていると、不意に目の前へ半透明のパネルが現れた。
『あなたの名前を設定してください』
「おおっ!」
思わず声が漏れる。
名前を自由に決められるのか。
つまりこれは、“異世界ノベルの世界に自分自身として入り込める”ってことだ。
美少女に名前を呼ばれるのも、魔王として名を轟かせるのも、最強の仲間たちに慕われるのも全部、自分の名前で体験できる……!
「なるほど、面白いじゃねぇか」
俺は迷わず名前を入力した。
――『この変態』と。
「おい、さっさと歩けよ。この変態!」
「この変態、アンタって本当に荷物持ちしかできないのね。収納スキルだっけ?」
「……っ、ぶふっ!」
ダメだ。
一瞬でシリアスな空気が崩壊した。
仲間――いや、これから俺を追放する予定の連中が、真顔で“この変態”を連呼してくる。
破壊力が高すぎる。
「おい、何笑ってんだよ、この変態」
「この変態、あたしたちを馬鹿にしてるの?」
しかも、俺の反応に合わせて会話まで自然に変化している。
すげぇな、このゲーム。
かなり高性能なAIを積んでるらしい。
いや、それより――。
「ダメだ……『この変態』って呼ばれるたびに笑うんだが……!」
「ちっ、もういい、この際はっきりしようぜ」
「そうね、もう私も限界よ」
「そうですね、私も賛成です」
しばらくの沈黙の後、リーダーの男――名前は確か……忘れた。
「チーム『純白の翼』に、この変態はいらねえ」
「ぶふっ!」
ダメだ、また吹き出した。
いやいや、そんな清廉そうな名前のチームに変態を入れるなよ、と全力でツッコミを入れたくなる。
「賛成のやつは手を挙げろ」
全員が手を挙げた。
そう、全員だ。もちろん俺も含めて。
俺は誰よりも堂々と、勢いよく手を挙げる。
その瞬間、周囲のメンバーたちは唖然とした表情を浮かべていた。
「あー、じゃあ俺、そろそろ抜けていいっすか?」
「え? あ、うん……」
「それじゃ、お疲れっしたー」
俺はその場を足早に立ち去る。
この後の展開は知っている。
散々罵倒された挙げ句、大衆の前で主人公――つまり俺の名前と弱さを延々と言いふらされるのだ。
しかも、あろうことか『この変態』呼ばわりのままで。
いや、それは普通にキツい。精神的に耐えられん。
ええと、この後は・・・・・・・
確かメインヒロインとあった時に、自分の能力を改めて確認して、実は“時間”や“空間”を操るチート能力だった、というオチが来るんだよな。
そして、この『収納』能力。
要するに、異世界モノでよくある『アイテムボックス』だ。
しかも無限収納付き。
……うん、知ってる知ってる。
なろう系は履修済みだから、使い方くらい完璧に理解している。
「いや、別に時間とか空間を操れなくても、このアイテムボックスだけで十分世界攻略できると思うんだが?」
あ、そうそう、そのメインヒロインに会うイベントはというと、この街の冒険者ギルドにある依頼を受けることで出会える。
ちなみにいきさつだが、元いたSランクパーティからは、「役立たず」「荷物持ちしかできない無能」と散々罵倒された挙げ句、半ば追放同然に除名。
さらに連中は、「あいつは俺たちのおこぼれで成り上がっただけだ」などという噂まで流しやがった。
その結果、ギルドからの評価も地に落ち、俺の冒険者ランクは最低のFランクまで降格。
同じFランクのメインヒロインが魔物討伐に一人でいってしまった。誰か助けてくれからの、助けに行くというのが本来の流れである。
「とりあえず、流れに沿って動いてみるか」
ギルドの扉を開けた瞬間、酒と汗の入り混じった匂いが鼻をつく。
周囲の冒険者たちが一瞬こちらを見たが、すぐに興味を失ったように視線を逸らした。
俺は受付へ向かう。
「いらっしゃいませ。ご用件は――あら」
受付嬢が俺の顔を見た途端、露骨に眉をひそめた。
「この変態じゃない」
「ぶふっ!?」
開幕から罵倒である。
だが知っている。
この受付嬢は最初こそ主人公を見下しているものの、後々態度が軟化していき、最終的には好感度がカンストするタイプだ。
つまり今は“イベント序盤”ってわけだな。
「アンタみたいなFランク冒険者が受けられる依頼はこれだけよ」
乱暴に渡された依頼書には、洞窟内の魔物討伐と書かれていた。
――来たな。
このクエスト。
たしか現地でメインヒロインがピンチになっていて、主人公が颯爽と助ける展開だったはずだ。
……しかし、改めて思う。
同じ依頼を複数人に出してるの、普通に危なくないか?
ギルドの管理どうなってんだよ。
まあ、異世界にコンプライアンスを求めても仕方ない。
あとで、俺からこの世界の創造神である涼太に言っておくから。
「この依頼、受けます」
「ふん。せいぜい死なないように頑張りなさいよ。この変態」
「ぶふっ!!」
会話のたびに『この変態』を挟むのやめてもらえません? いや、そう設定したの俺だけどさ。
ギルドを出た俺は、洞窟へ向かう――のではなく、途中で川へと進路を変えた。
「さて……まずはスキルの確認だな」
主人公である俺の固有スキルは『収納』。
あらゆる物を内部へ保管できる能力。
しかも容量制限なし。
そのせいで「戦闘向きじゃない雑魚スキル」と判断され、パーティを追放されたわけだが――。
「いや、どう考えても壊れ性能だろ」
収納容量が無限。
つまり理論上、“質量”を無限に扱えるということだ。
こんなの兵器以外の何物でもない。
俺は川辺にしゃがみ込み、そっと水面へ手を沈めた。
すると視界の端に半透明のウィンドウが表示される。
【水を収納しました】
【水を収納しました】
【水を収納しました】
無限に流れ込んでくる水が、次々とストックされていく。
数分後。
俺は目的地である洞窟前へ到着した。
中からは魔物の唸り声と、かすかな悲鳴が聞こえる。
どうやらイベント進行は予定通りらしい。
俺はステータス画面を開いた。
【収納物一覧】
・岩×1
・水×8,534,215,996
「うん。十分だな」
まずは入口付近に立ち、水の収納ついでに拾ってきた岩を取り出す。
『岩を取り出しますか?』
▶はい いいえ
迷わず“はい”。
直後、ズドォンッ!! という轟音とともに巨大な岩が出現した。
洞窟入口の大半を塞ぐ。
だが完全ではない。
上部にわずかな隙間が残っていた。
「まあ、それで十分か」
俺は岩の上へ飛び乗る。
そして再びメニューを開いた。
『水を取り出しますか?』
▶はい いいえ
当然、“はい”。
次の瞬間。
ゴォォォォォォォォッ!!!!
濁流と化した大量の水が、隙間から一気に洞窟内へ流れ込んだ。
圧倒的水圧。
逃げ場のない密閉空間。
悲鳴と断末魔が奥から響き渡る。
「よし。クエストクリア」
今回は、半分ほど実験目的でこのクエストに挑んでいた。
検証その一。
――この世界は、どこまでシナリオ通りに進むのか。
例えば、メインヒロインちゃんがピンチの所に俺が颯爽と現れ、収納スキルを覚醒させ魔物を倒し、その姿に惚れてしまうという設定だ。うん、よくあるテンプレ構造だな。
では、そもそも現れるどころか、魔王みたいな行動を取り続けたらこの世界はどうなるのか。
それが気になって仕方がない
数分後、水と共に入口へ流されてくるメインヒロインちゃん。
気を失っているが息をしている。
……いや、あれで生きてるとかすげえよ。確かこの子、設定は人間でしょ?
やがて目を開けるメインヒロインちゃん
「あれ、ここは……確か私、魔物と戦ってて」
「あ、私がまとめて水で流しました」
メインヒロインちゃんの思考が停止する。……え、なに、読み込み中?
やがて……
「あなたが助けてくれたんですね!」
「いえ、水で流しただけです」
「素敵。あの私アリスって言います。あなたのお名前は」
すげえ、全然話がかみ合ってねえ。かみ合ってねえのに話が続いているよ。
前言撤回だ。このゲームのAI、けっこうポンコツだわ
ああ、このメインヒロインちゃん、アリスって名前だっけ、忘れてたわ。
で、だ。俺、名前教えないといけないわけ?
しばらく沈黙していると、ウィンドウが表示された。
『あなたの名前は【この変態】です』
あ、これ、イベント回避不能な奴だ。
「わたくし、『この変態』と申します」
「この変態ですね。ありがとう、この変態」
「ぶふっ!」
なにこれ、感謝されてんの? それとも侮辱されてんの?
メインヒロインちゃんにまで変態って言われるんだけど。
とりあえずギルドへ戻って報告しないとね。




