ネット小説の世界へ
高校の昼休み。俺はスマホを片手に、いつものようにネット小説を読んでいた。
プロ、アマ問わず、あらゆるジャンルの小説が投稿されているネット小説サイト。
その数はもはや星の数ほど存在すると言っていい。
俺――日高健一の趣味は、そんなネット小説を読み漁ることだ。
特に好きなのは異世界ファンタジー。
剣と魔法、チート能力、冒険者ギルド。
そういう王道展開が昔から大好物だった。
……だったのだが。
「はぁ……またハーレム展開かよ」
思わずため息が漏れる。
最近の新着小説は、どれもこれも似たような内容ばかりだった。
異世界転生した主人公がチート能力を手に入れて、美女に囲まれて、気づけば最強。
もちろん、そういう作品が悪いわけじゃない。
でも、さすがに毎回同じ流れだと飽きてくる。
「なんだ健一。またネット小説読んでんのか?」
後ろから声をかけてきたのは、俺の幼なじみ――月本涼太だ。
「そういうお前こそ、ちゃんと小説更新してんのかよ」
涼太は、俺がいつも見ているサイトに自分でも小説を投稿している。
ちなみにジャンルは異世界ファンタジー。
俺も読んではいるのだが……。
正直に言うと、あまり人気は出ていないらしい。
「うっせぇ。今ちょうど新作考えてんだよ」
「どうせまた異世界転生だろ?」
「悪いかよ。今は異世界が流行ってんだから仕方ねぇだろ」
まあ、それは事実だ。
ランキング上位を見ても、ほとんどが異世界系で埋まっている。
そんな会話をしながら、俺は再びスマホの画面へ視線を落とした。
正直、ネット小説にも少し飽きが来ていた。どれも似たような異世界転生、似たようなチート、似たようなハーレム展開。
――いっそ自分で書くか?
そんな考えが一瞬よぎる。
……いや、無理だ。文才なんてものは、俺には欠片もない。
「そんなお前に朗報だ。これ見ろよ」
不意に、涼太がニヤつきながらスマホを突き出してきた。
「なんだこれ……“異世界ノベルオンライン”?」
「お前、VRゴーグル持ってんだろ? フルダイブ型のやつ」
そう言われて思い出す。確かに、先月勢いで買ったフルダイブVRゴーグルが部屋の片隅に転がっている。
今やゲームは、ただ画面を眺めて遊ぶ時代じゃない。
神経接続による完全没入型――いわゆる“フルダイブ型ゲーム”が、現実になっていた。
そしてそれは、かつてネット小説で散々語られてきた“あの世界”を、ついに現実へと引きずり出してしまった技術でもあった。
「持ってるけど、やってねえな、まだ発売したばっかでさ。ソフトとかあまりないし」
「まあそうだろうな、お前飽きっぽいところあるし。でもな、この異世界ノベルオンライン、通称イセノベって言うんだけどよ。遊ぶのに困らねえらしいよ」
「遊ぶのに困らないってどういうこと?」
つまりあれか無限にできるゲームってやつか? あるよなたまにそういうの、スルメゲーって言うんだっけ?
「まあ、簡単に言うとよ、ネットにある小説の世界に入れるゲームっていえば分かりやすいか?」
「つまりあれか? トラックに轢かれなくても異世界に行けちゃうゲーム?」
「お前の例えがリアルすぎて引くわ。まあ大体そうだよ。VRでその小説の世界を体験できるってやつ」
それが本当だったらこのゲームヤバくないか?
だってよ、ネットにどれだけの異世界系ノベルが転がっていると思ってんだよ。確かに涼太の言う通りこれは無限に遊べそうだな。
「よし、今日の帰りに買ってみるわ。明日から連休だしどっぷり浸かってやる」
「お、マジか、じゃあ、買ったらまず俺の小説やってみてくれよ」
お前の小説って、まだ書きかけじゃん。……いや、確か完結させたやつが一つあったはずだ。そっちのことか。
「分かったよ。買ってやる時に連絡するわ」
***
――帰宅途中、俺はゲームショップに立ち寄り、話題のVRゲーム『異世界ノベルオンライン』を購入した。
棚の一番目立つ位置に堂々と陳列されていたあたり、どうやら相当売れているらしい。売り切れていなかったのは運が良かったのか、それともまだ在庫が潤沢なのか。
家に戻った俺は、飯と風呂を済ませ、ようやく訪れた自由時間にVRゴーグルを装着する。
「さて、と……ログインするか」
買ってきた『異世界ノベルオンライン』を起動し、フルダイブ型ゴーグルを起動。視界が一瞬揺らぎ、意識がそのまま仮想空間へと引き込まれていく。
気づけば、そこは何もない白い空間だった。まるで突然召喚されたかのように、俺はそこに立っている。
最初にこのフルダイブ型ゴーグルを買ったときは、それはもうテンションが上がったものだ。結局やるゲームがなくて一週間で飽きたが。
俺はパネルを操作し、友人の涼太に通信を繋ぐ。フルダイブ中でも外部と連絡できるのは便利だ。いちいちログアウトしなくていいのは助かる。
『お、ログインしたか。早速やるんだろ』
「ああ、えっと、題名なんだっけ?」
さすがに完結済みでもう読んでいない。しかも確か……。
『えっと、『俺のスキルを馬鹿にし“荷物持ちしかできない無能”としてSランクパーティーを追放された俺、実は《収納》スキルの中に時間停止空間を作れる唯一の存在だった ~俺が抜けた瞬間に兵站崩壊したらしいけど、美少女冒険者たちとの新生活が忙しいので知りません~ 』だよ』
「いや、クソ長えよ!? 覚えらんねえよ!! 単行本にした時タイトル書ききれねえよ!!? ネタバレ全開過ぎてむしろ引くわ!!」
とんでもねえ、未だにネット小説にはこんなクソ長いタイトルが蔓延っているのか?
俺はパネルにそのタイトルを打ち……たくねえ。長えしめんどくせえ。
『コピペして貼ればいいんじゃね。それかマイクで音声入力とか』
「いや、そんなクソ長えタイトル音読したくねえよ」
取り合えずコピペして、検索っと
「お、あったこれだな。よし、それじゃあ、ログインっと」
『それじゃあ、頑張れよ~』
俺は涼太の作った世界にログインしていった。
思いついて本能で書いた。悔いはない。
更新は不定期です。




