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狂愛の魔王  作者: ラー油
4章:天敵

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75/117

75.破滅へのトロッコ問題

 「おかえりー」

 「ただいま」

 「今日は遅かったね淳史」

 「教祖様と口論しててな」

 「教祖様と?」

 私は思わず聞き返す。

 「拉致任務を受けてから二週間が経ったからな。遅いと文句を言われた」

 「だ、大丈夫なの?」

 「何とか言いくるめてきたから平気だ」

 「ど、どうやって言いくるめたの?」

 「石化しないこと、〈封印の勇者〉がずっと傍にいることを言えば納得してくれた」

 「〈封印の勇者〉?〈封印の勇者〉ってノエルのこと?」

 私は〈封印の勇者〉なんて聞いたことがない。

 「……何で知ってる?」

 「そ、それは……」

 私はサングラスを深くかけ直して顔を背ける。

 「お前、出雲大成と会ってるだろ」

 「な、何のこと?」

 「はぁ、まあいいけどな」

 「いいの?」

 私は思わず聞き返す。

 「もう今さらだ。それに仲良くなってもらった方が好都合だ」

 「好都合って?」

 「拉致しやすくなるだろ」

 「そ、そっか、そうだよね」

 そう、大成は〈強奪の勇者(魔王)〉で拉致しないといけないターゲットだ。

 「……結局拉致するの?」

 「このまま伸ばし続けたら教祖様が直々に拉致するだろうな」

 それは事実上の死刑宣告と同義だった。

 「どうにかならないかな?」

 「どうにもならないだろうな」

 淳史の返答に私は肩を落とす。

 「そんなに出雲大成を気に入ったのか?ずっと蔑まれてきたんだろ?」

 「大成はみんなと違う」

 私は思わず声を低くして反論する。

 「でも拉致するターゲットに変わりない。そうだろ?」

 「そうだけど……」

 「不用意に情を持たない方がいい。後々辛くなるだけだ」

 「経験則ってやつ?」

 ムキになっていた私はそう聞き返す。

 「この世界から能力を消し去りたいんだろ」

 「淳史には分からないよ」

 「確かに目を見ても石化しないならマントやサングラスなしで話せるもんな」

 「そういう事じゃない」

 普通に話せるから大成が好きなわけではない。

 私の石化は常に発動するがノエルのように能力で対抗することで目を見ることが出来る。

 でもそんな関係は本物ではない。

 そもそも石化しない関係は私が望んだが手に入らないものだと悟った関係だ。

 「私の話はいいの!」

 「そうだな」

 そう言って部屋を出ようとする淳史の腕を掴む。

 「……どうした?」

 「言われっぱなしは気に入らない」

 「そう言われてもな……」

 「淳史は何で神光宗に入ったの?」

 私は勢いに任せて気になっていたことを聞いてみる。

 印象だけで言うと強化系の能力で見た目もレベルが高く神光宗に入る理由が見当たらない。

 「俺も能力のない世界を創りたいからだ」

 「どうしてどう思ったの?」

 私がそう聞くと淳史は正面を見つめて黙り込む。

 「言いたくない?」

 「そうだな、言いたくない」

 淳史はそう言うとこっちを見る。

 「別に言って困ることはないか」

 淳史はそう言うと簡潔に話し始める。

 「妻と娘を殺されたからだ」

 「そ、そうなの?」

 思っていた以上に重い内容に動揺する。

 「誰に殺されたの?」

 家族が殺されたのは辛いことだが普通なら警察になるという思考にならないだろうか?

 「日本国民の全員に殺されたんだ」

 「日本国民の全員?」

 私は意味が理解出来ずに聞き返す。

 「妻は警察で英雄と呼ばれるほど強く、お前達のような人を決して差別しない人だった。警察のトップ候補であるほどに」

 「す、凄いね」

 「その通り凄かった。助けた人の数は一億人を超えただろう」

 「そんな人がどうして?」 

 普通に考えれば日本国民に惜しまれつつ亡くなるべき人だと思う。

 「結月は英雄に何を求める?」

 「えっと……石化しない?」

 私がそう答えると淳史は頷く。

 「人それぞれ理想があるだろうが要するに完璧が求められる」

 それはそうかもしれない。

 私はずっとそんな英雄の存在を願ってきた。

 英雄とは自分の理想の投影だ。

 「それじゃあ一つ質問に答えてくれ」

 「う、うん」

 私は少し身構える。

 「一つの制御の効かない暴走したトロッコ。その先の線路は二股に分かれていてそのまま突っ込めば5人の命が失われる。でも目の前にある進路を変えるレバーを引けば切り替えた先にいる1人だけが死ぬ。いや殺されるという表現にしようか。結月はどうする?」

 「意地悪な問題」

 「トロッコ問題ってやつだな。正解はないから好きに答えてくれ」

 この問題の難しいところは淳史が言い直したように5人を守るために1人を殺すのか自分の手を汚さないために5人の命をスルーするかという点だ。

 「私はレバーを引けないと思う」

 私が出した結論はこれだった。

 私は名前すら知らない幸せな5人の為に自分の手は汚せない、汚したくない。

 「実際のところレバーを引ける人間は少ないだろうな」 

 淳史はそう言うと一度目を閉じる。

 「妻に強いられたのは一方通行の破滅へと向かうトロッコ問題だった」

 それはトロッコ問題なのか?と思ったが口には出せない。

 「妻に強いられたのは国民を1万人殺して日本を救うか日本が地図から消えるのを見逃すかの二択だ」

 「そんなの……二択じゃない」

 国民の英雄にとってスルーの選択肢はない。1万人を殺すという一本道だ。

 「結局妻は1万人を殺して国を守った。その結果妻は偽物の英雄と呼ばれて非難され殺された。これが俺が神光宗に属する理由だ」

 淳史はおぞましい殺意を瞳に宿してそう言う。

 「要するに俺の家族を奪った日本への復讐ってことだな」

 やっぱり思っていた通りに淳史は世界そのものを恨んでいるんだ。

 この世の全ての人間が醜く映っているのだろう。

 「ご、ごめん嫌なこと話させて」

 「気にするな、俺が勝手に話しただけだ」

 そう言って背中を向ける淳史の腕をもう一度掴む。

 「まだ何かあるのか?」

 「あれをしよう」

 私はそう言って人生ゲームを指差す。

 「あれって二人でするものか?そんなことより風呂に入りたいんだが」

 「二人~六人でするものだからセーフ」

 「風呂に入ってからな」

 「約束ね!」

 私がそう言って腕を解放すると淳史は私からサングラスを取ってかける。

 「?」

 ただでさえ表情が読めないのにサングラスをかけて拍車がかかった淳史はそのまま額の眼帯を外す。

 「ずっとサングラスをつけてるのは目に良くないだろ」

 淳史は風呂に入った後サングラスを付けて帰ってきた。

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