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狂愛の魔王  作者: ラー油
4章:天敵

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74/117

74.〈メデゥーサ〉のif

 「随分と嬉しそうで何よりだがどこに行ってたんだ?」

 「さ、散歩に行ってたの」

 住んでいる家に戻った私は殺人鬼(シリアルキラー)にそう答える。

 「別に拘束するわけではないが危険なことはするなよ」

 「分かってるよ」

 「暇なのは分かるがお前は〈操作の勇者〉を殺すのに必要不可欠なんだ」

 「私なんかが役に立てるの?」

 〈操作の勇者〉相手に石化が通用するとは思えない。

 ノエルにすら破られた。

 「止められるのは一瞬だろう。でもその一瞬があれば俺が殺れる」

 「でもさ、そんなことしたら警察が黙ってないんじゃない?」

 「その点は大丈夫だ、〈操作の勇者〉がいない〈入れ替えの勇者〉なんて置物だ。それに教祖様は〈切断の勇者(スサノオ)〉より強い」

 「そ、そうだね」

 目の前の男はそう言うが少し違和感がある。

 「〈操作の勇者〉だけを殺したいならこの前みたいに大成を石化して拉致するのはダメじゃない?」

 もし大成を拉致したら下手したら二人の勇者が攻めてくることになる。

 でも教祖様が私に命じたのは拉致することだ。

 「教祖様は二人を相手する選択肢を取るつもりだそうだ、出雲大成が〈強奪の勇者(魔王)〉である可能性は99,99パーセントだからな」

 「なら強引にやればいいんじゃない?」

 私を使わずに強い能力者で一斉に拉致すればいいと感じる。

 「大人には大人の事情がある」

 男はこれ以上話すつもりはない様子だがここで引き下がりたくなかった。

 「お、教えてよ」

 「お前が知る必要は――」

 「私だって〈操作の勇者〉を殺すには必要なんでしょ!」

 私がそう言うと露骨に嫌な顔をされる。

 「はぁ、分かった分かった話すよ」

 男は観念した様子で話し始める。

 「教祖様は出雲大成をお前が石化させて俺が回収するように命じただろ?最初は俺は従うつもりだったが石化に失敗して〈入れ替えの勇者〉を見た瞬間にその考えは消し飛んだ」

 「私が失敗したせい?」

 「違うさ、一目見ただけで〈入れ替えの勇者〉は俺の手に終える相手ではないことが分かったからな」

 「見ただけで分かるの?」

 「俺も何千という能力者と戦ってきたから分かる。あれはダメだ化け物だ」

 殺人鬼(シリアルキラー)にここまで言わせる大成のお母さんは何者なのだろうか?

 「俺も最初は二人を相手出来ると思っていた。だが無理だ、〈操作の勇者〉単体でも勝てる気がしない」

 「どうしてそう思うの?」

 見ただけでそこまで分かるとは思えない。

 「目に孕む殺気の量だ。〈操作の勇者〉は息子が〈強奪の勇者(魔王)〉だって気づいている。その上で息子に手を出すなら殺すという意志が計り知れないんだ」

 男はそう言って頭を抱える。

 「子供を守る母親というのは最強なんだ。俺は身をもって知っている」

 納得はしないが世間的にはそうだ。

 「そんな心持ちの英雄にどうやって勝てばいい?命が何個あっても足りない。俺達の命が何個あればあの化け物に勝てる?」

 目の前の男はそう言って拳を強く叩きつける。

 「そもそも〈強奪の勇者(魔王)〉を拉致してどうなるというんだ?アメリカが動きかねないだろ、〈愛の勇者〉の相手なんて出来る能力者は存在しないぞ」

 私は苛立ちのまま愚痴を吐露する男の頭を撫でる。

 「何をしている?」

 「こうしたら安心するから」

 「はぁ、俺は子供にさえ心配される顔をしてたのか」

 男はそう言って笑うと腕を払う。

 「俺に一任されているとはいえ何とかしないとな」

 「何とかなるの?」

 「……ならないな」

 そう言ってため息をつく男に私はオセロを差し出す。

 「……どうした?」

 「やろう」

 「お前なぁ」

 「お前じゃない、結月」

 私はこの男は嫌いではない。

 ノエルと同じで世界そのものを恨んでいるタイプの人間だからだ。

 「名前を教えて」

 私がそう言うと男は呆れた様子でオセロを受け取る。

 「淳史(あつし)だ」

 それから淳史と一時間ぐらいオセロをした。

 

 「……なるほど」

 大成君の記憶を見た私はそう呟く。

 「どうしましょうか……」

 このまま結月と関わるのは残酷な道だ。

 「何か問題があったかな?」

 「既にこれ以上ない程問題が発生しているので関係ありません」

 「ご、ごめん」

 大成君は肩を落として謝る。

 「大成君に傷つくことが確定している道を進ませるか迷っています」

 「それって……」

 大成君は察したのか不安な目で見てくる。

 「いえ、愚問でしたね」

 私は不要なことを口走ったことを反省する。

 「今後も結月さんと遊んであげてください。そして出来ればノエルも一緒に」

 もし今後ノエルが石化しなくなることがあればどれは〈メデゥーサ〉にとって希望となる。

 「雫も一緒にどう?」

 「……私は遠慮しておきます」

 私は相応しくない人間だ。恐らく私は石化する。

 私は結月を人間として認識出来ない。

 「そっか……」

 大成君は残念そうにしていたがここは譲ってはいけない。

 それからノエルを含めた三人で帰るようになった。


 「最近元気ないわね」

 お母さんと夕飯を食べていると不意にそう言われる。

 「そ、そうかな?」

 「大成君とケンカでもした?」

 「してないよ!」

 「じゃあ何があったの?」

 上手く乗せられている気もするが別の悩みを話してみる。

 「……最近大成君がノエルっていう女の子と仲がいいの」

 「おっと……」

 優しいのは構わないがノエルとの距離が近すぎる気がする。

 「仲がいいってどんな感じなの?」

 「お互いに煽り合ったり、スポーツを全力で勝負したりかな」

 「スポーツは無理でも煽り合うのは出来るんじゃないの?」

 「嫌われそうで怖い」

 「そ、そっか」

 お母さんは視線を逸らす。

 「で、でも一緒に帰ったり遊んだりしてるんでしょ?」

 「最近はノエルと三人で帰ってる」

 「……何で?」

 お母さんは理解出来ない表情でそう言う。

 「理由に納得した上で私も承諾したの」

 「どんな理由?」

 「えっとね……」

 結月さんの話をするわけにもいかず、ノエルについてもスパイがどうのこうの話すわけにもいかない。

 「言えないの?」

 「で、でも正当な理由だから」

 「あなた達付き合ってるのよね?どんな理由があったら三人で帰ることになるのよ」

 「そこは問題じゃないの!」

 私がそう言うとお母さんは呆れた目を向ける。

 「雫が納得してるならいいけどさ、丸め込まれてない?」

 「丸め込まれてない」

 「じゃあ、落ち込む必要はないわね」

 「それはそうなんだけど……」

 でも複雑な気持ちになってしまう。

 「もう一つ聞いてもらってもいい?」

 「も、もちろん」

 お母さんは少し不安そうに頷く。

 「お母さんは私が傷つくことが確定している道に進むと言ったらどうする?」

 「道に進む理由によるわね」

 「誰かを救う為だとしたら?」

 「そうね……」

 お母さんは少し考えた後口を開く。

 「雫が本気で決意してるなら止めないわ。でも少しでも躊躇しているなら止めるわ」

 「なるほど……」

 「高校生の失敗なんて大人になると一切関係ないわ。だから当たって砕ける可能性の高い道でも進んでいいと思うわ」

 「そっか、ありがとうお母さん」

 私はそう言うと自分の部屋でベットに横になる。

 「決めた、私は絶対に大成君を止めない」

 この先何が起こるかはだいたい想像出来る。

 狂った歯車は基本的に新年でリセットされてきた。

 その理由は能育をメインに地方でも大規模なテロが行われるからだ。

 そのテロを行ったのは神光宗。死傷者を30万人、怪我人は400万人を超える。

 その時に使われた神の蜜薬と言われる〈薬の勇者〉によって作られた薬がある。

 神の蜜薬の効力は接種した能力者の命を代償に約一分間だけ勇者の能力に匹敵する出力で暴れ続けるのだ。

 このテロで能育の生徒の死傷者は二十人に及んだ。

 いや済んだと言うべきかもしれない。

 能育へのテロに使われた能力の中で一番最悪と言われた能力は〈メデゥーサ〉だ。

 〈改造の勇者〉によって身体に無数の目をつけて暴れ狂った。

 石化の解除は強化系の能力でも困難だった。

 能育の生徒である〈氷の勇者〉が時間を稼いでくれたおかげで多くの人が助かったが〈メデゥーサ〉を含む暴走した能力者は〈切断の勇者(スサノオ)〉が撃退する。

 だがその際に〈氷の勇者〉は拉致られてしまう。

 このテロによって神光宗は世間的にも犯罪組織として知られるようになり〈切断の勇者(スサノオ)〉の支持は上昇する。

 そして世界的に視点を広げると日本は神の蜜薬という核を所持しているようなものになり世界的に日本は脅威として扱われるようになった。

 「でもそれは〈強奪の勇者(魔王)〉がいなかったから」

 〈光の勇者〉の〈強奪の勇者(魔王)〉への執着は異常だ。

 確かにキーカードではあるが〈メデゥーサ〉と殺人鬼(シリアルキラー)をぶつけるほどだろか?

 仮に大成君が石化していたら拉致するつもりだったのだろうか?

 これでは響香さん達に喧嘩を売っているのと同義だ。

 神の蜜薬で〈メデゥーサ〉を暴走させようが二人は絶対に負けないだろう。

 そんなこと〈光の勇者〉が分からないはずない。

 つまりやるからには本気でやるだろう。

 「……そこまでするかな?」

 次に想像出来るのはコールドスリープした勇者の能力者を暴走させることだ。

 さすがの二人でも勝てるか怪しい。

 〈光の勇者〉も戦闘に加わったら無理だろう。

 でもそれは矛盾している。

 勇者の能力を集めるという目的に反している。

 それにそんなことしたらアメリカが動く可能性も捨てきれない。

 フレヤ・アレグサンダーを相手にするとなったら何もかも終わりだ。

 今すぐ日本を滅ぼせるような人だ。あれと敵対することだけは論外だ。

 「あとはノエルね」

 神光宗の人間だと思ったが少なくとも私は知らないし違う気がしてくる。

 拉致が目的ならいくらでも出来るタイミングがある。

 それに〈カメレオン〉については不明だが〈メデゥーサ〉については何も知らない様子だった。

 加えて警察の人間でもなさそうに思える。

 「……そんなことあるかな」

 不意によぎるのは外国の勢力。要するにアメリカだ。

 「いや、あり得ないか」

 アメリカ側にメリットが一切ない。

 消したいなら消せるだけの力を持ち合わせている。

 「……まあ、何とかなりますか」

 最悪リセットしてしまえば処理出来ることだ。

 「よし!もう大丈夫!」

 全ての悩みを解消した私はそう言って勢いよく起き上がる。

 私は大成君の邪魔をしたくない。それが全てだ。

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