32.扉越し
「……何で戻るのかな」
私は生き返った身体を起こしてキッチンに向かう。
「もうこの世界で生きれるほど私は強くない」
大成君に拒絶されて、傷つけた私は本当に価値がない。
「もう十分頑張ったよ」
私はそう呟いて包丁を手に取る。
そしてまだ寝ているお父さんの心臓に突き刺してすぐさま引き抜く。
「……え?雫?何を……して」
お父さんは訳の分からないまま動かなくなる。
「……これだけは嫌だな」
私はそう呟いてお母さんの方に向かう。
「起きて!お母さん」
私は出来るだけ笑顔で呼びかける。
「あ、ぅ?し、ずく?」
「ごめんお母さん。せっかく守ってくれたのに本当にごめんね」
私はそう伝えてお母さんを抱きしめる。
「……本当にごめんねお母さん。もう限界なの」
私はそう言いながら頭に触れた後お母さんに包丁を突き刺す。
「し、ずく……あ」
お母さんは何かを口ごもると動かなくなる。
「……すぐに行くから」
私はそう言った後ゴルフのドライバーを何度も両親の頭に振り下ろす。
そして生暖かい返り血を浴びる。
「……着替えな――」
「ピンポーン!」
「……え?……誰?」
何でチャイムが?前回は鳴らなかった。
「柊さん!僕です!出雲大成です!」
「……どうして?」
絶対に忘れることが出来ない力強い声に心底困惑する。
私は大成君に拒絶された。嫌いな私に会いに来る理由が分からない。
「柊さん!そこにいるならどうか返事をしてくれないか?」
確実に近所迷惑な大きさで必死に私を呼ぶ声に冷静になった私は現在起こっていることを薄っすらと理解する。
それは私がずっと心の中で祈っていたことだった。
「こんなご都合なこと起こるはずが――」
私の人生において一番身に染みて分かったことだ!
この世界は私の理想とは真反対になるように出来ている。
「もうここにはいないのか?」
私は自然と扉の前に来ていて大成君悔しそうな声が聞こえる。
「出来るだけ急いだんだけどな……」
大成君はそう言うと立ち去る気配を放ち始める。
「……私は」
私は高揚して期待する自分の胸を両手で押さえる。
私は本当に弱いんだ。死ぬと決めた、大成君の視界に入らないために死ぬのに一目見たいと未練がましく大成君の家に行ってしまった。
結果響香さんにしこりを残しかねない状況を作ってしまった。
本当は分かっている。ずっとずっと心の底から願い続けてきたことだ。
「私は!柊雫はここにいます!」
私は扉の向こうにいる最愛の人に向かって精一杯の声でそう叫ぶ。
もし許されるのであれば、この狂った世界が歯車を取り戻したのならば!
もう一度あなたの隣に立って同じ時を歩みたい。
「柊さん、よかった生きているんだね」
「やっぱり……」
私は疑惑を確信へと昇華させる。
「柊さん、今から話せないかな?」
「……今からですか」
ふと自分の姿を見ると髪や手そして顔にまで血が付いている。
こんな姿を見られたくはない。
「ご、ごめんね、こんな朝早くから」
「いえ、むしろありがとうございます」
私はそう言って玄関の扉を開ける。
姿を見せないのは卑怯だと思った。
「柊さっ!……そういうことか」
私の姿を見た大成君は驚いた後理解を示す。
「ごめんなさいこんな姿を見せてしまって」
私は口角が上がっているのを自覚しながらそう言葉を発する。
「それはいいんだ。……いや、よくはないんだけど」
大成君はそう言って咳払いをする。
「柊さん単刀直入に聞くね。君は記憶が残っているの?」
この一言で確信は絶対に変わる。
「はい、私には時間が戻っても記憶が残ります」
私がそう言うと大成君は勢いよく頭をさげる。
「本当にごめん柊さん!君を傷つけるつもりはなかったんだ」
「ま、待ってください!謝る必要なんて無いです。元々私が悪いんですから」
私が大成君が受けた仕打ちに関与しているのは紛れもない真実なのだから。
「いや柊さんは悪くないよ、僕だったら……耐えれる気がしない」
そう言う大成君の腕は少し震えている。
「で、では大成君は私のこと嫌いではないんですか?」
私は思わずそう尋ねてしまった。
「そ、それはもちろん!」
「本当ですか?」
私は心のもやが晴れていくのを感じる。
「大成君もう一つだけ聞いてもいいですか?」
「う、うんどうぞ」
私は絶対を認識にするために言葉を発する。
「大成君の能力は〈強奪の勇者〉ですか?」と。




