33.対話
「……そうだけど」
僕は能力を言い当てられて驚きを通り越してちょっとした恐怖を抱く。
「えっと、そんなに引かないでください」
「ご、ごめん。でも何で知っているの?」
少なくとも僕の人生で〈強奪の勇者〉という能力の存在は知らなかった。
「それもお話したいのですが……」
そう言う柊さんは気まずい表情をする。
「大成君は〈セーブ&ロード〉の能力を手に入れたんですよね?」
そうか、そういうことか。僕は柊さんが言うよりも早く口を開く。
「いったんリセットしてから話そうか柊さん」
僕がそう言うと柊さんは申し訳なさそうな顔をする。
「……お願いしてもいいですか?」
理由は本当に不明だが恐らく両親を殺したのは本意ではないのだろう。
それに原因を作ってしまったのは紛れもない僕だ。
「柊さん、包丁を貸してもらってもいいかな」
僕がそう頼むと柊さんは驚いた顔をする。
「結構つらい死に方になってしまいますが……」
「大丈夫、慣れている方の死に方だし何よりも手っ取り早いしね」
「そうですか……」
そう言う柊さんはとても悲しげな顔をする。
「で、では取って来ますね」
僕は柊さんに誘導されるまま玄関まで入る。
そして手渡された包丁を自分に何度も突き刺した。
「しまったな……」
柊さんが両親を手をかける前に戻ったのはいいがどこで会うか決めていなかった。
「……どんな顔で会えばいいんだ?」
柊さんの能力は不明だが〈セーブ&ロード〉でリセットしても記憶が残っている。
つまり桁違いの繰り返す日々による虚無感を感じ続けている。
僕が使っただけで三十回以上リセットしている。
「合わせる顔がないな……」
僕は本当に申し訳ないことをしてしまった。
どうしてそうなったのかわ分からないが柊さんが僕に向けている好意は計り知れないものを感じる。
「でも……どうしたらいいんだ?」
何が正解なんだろう?
雪野愛華はともかく佐藤透斗の方は犯罪者とはいえ自らの意志で殺している。
「とりあえず……行くか」
僕は心の奥で深く根をはる疑問を抱えて家を出て柊さんの家に走って向かう。
「ピンポーン」
僕がチャイムを押すと間を置かずして扉が開いて僕が拒絶する前のような眩しい笑顔を浮かべた柊さんが現れる。
「おはようございます大成君」
「おはよう柊さん」
なんだか奇妙な感じだが一通り挨拶をする。
「すみません痛い思いをさせてしまって」
「それは気にしないで元々僕が悪いし」
僕はそう言った後一度咳払いをする。
「それで柊さん、どこで話そうか?」
「そうですね……」
僕が尋ねると柊さんは顎に手を置いて考える仕草をする。
「大成君の家にお邪魔してもいいですか?」
「え、あぁうん」
「えと、響香さんに謝らないといけないんです!」
僕が面食らうと柊さんは慌ててそう付け足す。
「……それじゃあ行こうか?」
「はい!」
なんだか思っていた展開ではなかったが僕の家に向かって二人で歩き始める。
「それで柊さん。母さんに謝らないといけないことって?」
恐らく僕の家に来た日に何かあったのだろう。
「それはですね……」
柊さんは言いにくそうに苦笑いを浮かべる。
「私が大成君の部屋に勝手に入った日に私はかなり失礼なことをしてしまったんです」
「失礼なことって?」
僕がそう尋ねるとさらに表情が曇る。
「……あの日大成君の家にお邪魔した理由は響香さんの行動を制限することでした」
「母さんの行動を?」
「はい。私が接触をしなければ響香さんは大成君の後を追ってあの場所に来てしまうのです。だから私が響香さんを煽ってストレスを与えてお酒を飲むように仕向けました」
そんなことだったのか。
そんなどうでもいいことで罪の意識を持っていたのか。
「……ごめんなさい私のせいで」
柊さんはさらに暗い顔になる。
「気にしないで柊さん。もうあの時のことはいいんだ」
僕があの時のことで許せないのは雪野愛華と〈重力の勇者〉だけだ柊さんも他の人以上に脅されているんだろう。
「で、でも!私が協力しなければあの展開になることは――」
「柊さんこれだけは言わせて欲しい」
僕は柊雫という少女をまだ1パーセントも分かっていないだろう。
だけど〈セーブ&ロード〉で自由に時間を戻せるようになった僕だから言えることがある。
「君は十分頑張った。だからこれ以上僕なんかのことで苦しまないで」
僕がそう言うと柊さんの目に涙が溜まっていく。
「わ、たしは……私はずっと!」
柊さんは溜めていたものが流れるように頬に大粒の涙が流れていく。
「ずっとそう言って欲しかった」
柊さんは吐き出すようにそう言った。
「お帰り、たい……せい?」
家に帰ると母さんに驚きの表情を向けられる。
「先日は本当に申し訳ございませんでした」
驚いている母さんに向かって柊さんは頭を下げる。
「……いきなりね」
「大変失礼なことを言ってしまって本当にごめんなさい」
柊さんは困惑する母さんに言葉を続ける。
「顔を上げてちょうだい雫ちゃん。あなたが言ったことは事実よ」
母さんはそう言った後真剣な表情になる。
「それで大成君。雫ちゃんとは友達なの?」
「大丈夫だよ母さん。柊さんは友達だから」
僕がそう言うと母さんは表情を緩ます。
「それならいいわ。ところで雫ちゃん爪は大丈夫?」
「はい。もうほとんど治りました」
柊さんはそう言って母さんに手を見せる。
「もう二度とあんなことをしないこと。いいわね?」
柊さんが頷いて答えると母さんは伸びをする。
「それじゃあ大成をよろしくね雫ちゃん」
「はい!」
柊さんは笑顔で答えるとドアノブに手をかける。
「いったん朝食を済ませてからもう一度会いましょう」
柊さんは小さくそう言うと電話番号が書かれた紙を手渡す。
「連絡しますね」
柊さんはそう言うと手を振りながら去っていった。
「お帰り雫」
「ただいまお父さん!」
私は演じることなくそのままのテンションで元気な声を出す。
「……何かいいことでもあったのかい?」
「内緒!」
私はお父さんにそう言ってお母さんの方に向かう。
「おはようお母さん!聞いて欲しいことがあるの!」
私は焦点がおかしいお母さんを抱きしめて今朝起きたことを話す。
「うぅ、あぅ、よ、あった」
「うん!よかった!」
「雫ーご飯できたよー」
私が一通り話を終えるとリビングからそんな声が聞こえる。
「はーい」
私はそう返事をしてお母さんと一緒にリビングへ行って朝食を済ませる。
「それじゃあ行ってきます!」
私は元気よくそう言って家を出て大成君との待ち合わせ場所であるカラオケへと向かった。
「あぁ、本当に夏美に似て、いや……それ以上の眩しい笑顔を急にし始めた」
私がいなくなった家の中で父親の柊硬は会社に欠勤の電話をした。




