二人
暖かな初夏の日差しが二人の寝顔をやさしく照らし出す。小鳥のさえずりが朝の訪れを知らせてくれているかのようだ。
私は朝、目覚めがいい方だ。
いつも決まった時間に勝手に目が覚めるし、二度寝なんて一度もしたことがない。
でも、何故だか今日はどんなに頑張ってもこれ以上目が開かないのだ。
言い訳じゃないけど体がいつもより重い気がする。
それにちょっと気持ち悪い。
このままあと二時間ぐらいは寝ていたいな。
だけれど、そうはいかない。
そろそろ起きなくては。
そう思い寝ぼけ眼をこすりながら大きなあくびをする。
夏の蒸し暑さ、育てた野菜の収穫、腕の中で眠る同居人。
今日もまたいつも通りの一日の始まりだ。
「さて、朝食でも作りますか」
もう一度大きなあくびをして伸びをする。
「えっ同居人!?」
振り返ると寝息を立てている白髪頭が目に入る。
「ギャーーーー!」
思わずベースティアもといドラクルを両手で思いっきりベッドから突き飛ばす。
「ななななななんであんたが隣で寝てるのよ」
頭を抱えて考える。
昨日の夜私はいったい何を?
だめだ、昨夜の記憶のページが破り捨てられたかのように全く思い出せない。
「若い男女がベッドで二人って。え、それってつまり…………」
顔の温度がどんどん上がってくる。今にも穴という穴から炎が吹き出しそうだ。
「成人するどころかたった一晩で大人の階段を駆け上がっちゃったってこと?」
軽いパニックを起こしているとベットの奥からボサボサの白髪頭が首を出す。
「痛たた……」
寝起きの彼の顔を見た途端、体が固まる。
混乱状態から一転頭の中が真っ白になった。
「いきなり何すんだよ」
ドラクルは頭をさすりながら立ち上がる。
言葉が出てこない。
それどころかどんどん顔の色は赤みを帯びていく。
「どうしたんだ?」
落ち着きなさいアリス。
いつも通り、いつも通りに接すればいいのよ。
深呼吸をして心に平穏を取り戻す。
そう、いつも通り、何事もなかったかのように。
息を吸って……
「おおおおはよう」
とりあえずあいさつ成功。
「お、おはよう」
ドラクルは少し戸惑ったような顔で返す。
「き、昨日は楽しかったわね」
少しずつ話題を昨晩にもっていく。
本当にコトが起こったのか確かめなくては……
「楽しかったけど、疲れたな俺は。特に君は今度から酒を飲むときは気をつけた方がいいよ」
彼はため息混じりに呟き、ベッドに座る私の隣に腰掛ける。
意を決して本題に入る。
「あ、あのさ、昨晩の私、どうだった?」
一瞬の沈黙。
やってしまった。露骨すぎる。
冷や汗が背中を伝う。
私のバカバカバカ……
するとドラクルはニヤッと笑い口を開く。
「そりゃ、とても激しかったね」
*
「ねー、ごめんてばー」
対面で朝食のパンを食べながら座る彼にひたすら謝る。
「ビンタするか、普通?」
頬には赤いもみじ模様がくっきりついている。
「でも元はと言えばからかったのが悪いんだからね」
「へいへい、私が悪うござんした」
棒読み。
「本当に昨晩は何もなかったのよね?」
念のためもう一度確認をとる。
「なかったよ。善良な青年が酔っ払った少女に締められて落とされたことを除けば」
「だからそれは私が悪かったって」
「ぷっ」
彼が噴き出したのにつられて自然と笑いがこみ上げる。
お腹から笑った。
誰かと一緒に。
ひとしきり笑いふと時計に目を移す。
「ほら、早く食べちゃって」
ドラクルは手に持っていたパンを口の中に押し込むと苦しそうに胸を叩く。
その様子が幼げで、無邪気な子供のようで……
思わずまた笑みがこぼれる。
誰かと一緒に朝食を食べるなんてどれくらいぶりだろう。
そんなことを思っているうちにドラクルの用意ができたようだ。ついでにココアは彼の頭の上に乗っている。
「行ってきまーす!」
普段は形式的に言っていたその言葉は今朝はなんだか違った意味を持っていたような気がした。




