鋼鉄の包囲網
赤色の警告灯が、広大な廃棄物処理フロアを不気味に染め上げていた。
『個体番号082、119、704。直ちに武装を解除し、投降しなさい。さもなくば「即時廃棄」に移行します』
カストディアンの氷のような宣告が響く中、少年・704番は重厚な装甲扉の脇にある認証スキャナーへと飛びつき、隠し持っていた金属製のピンを基盤の隙間にねじ込んだ。
「俺の名前はタクだ! 扉のロックを強制解除するのに、あと60秒いる!」
「急げ、タク! 次が来るぞ!」
ジンは血の滲んだ手で鉄パイプを握り直し、叫んだ。
先ほど彼が頭部を叩き割った流線型の警備ロボットは、火花を散らしながらも再び姿勢を制御し、不気味な駆動音を立てて銃口をこちらへ向けていた。さらにフロアの奥からは、警告音を聞きつけた同型のロボットたちが、青い光を宿したカメラアイを光らせて三体、四体と滑走してくる。
圧倒的な戦力差。だが、もう後戻りはできない。
「ジン、右から来るわ!」
エナの鋭い声が響く。彼女は床に落ちていた老人の作業トレイを拾い上げ、フリスビーのように右から迫るロボットの顔面(センサー部)へと力いっぱい投げつけた。
ガツン、と鈍い音が鳴り、ロボットの視覚センサーが一時的にノイズを起こす。
その一瞬の隙を、ジンは逃さなかった。
偽りの記憶の中で培われた、重い岩を運び続けるための無駄のない筋肉の躍動。ジンは低い姿勢のまま弾丸のように肉薄し、視界を奪われたロボットの関節部分――脆い駆動系が集中する膝裏へと、全体重を乗せた鉄パイプの一撃を叩き込んだ。
バキィッ、という破砕音と共に、ロボットの巨体がバランスを崩して前のめりに倒れ込む。
「これで……二体っ!」
だが、息をつく暇もない。ジンが仕留めたロボットの背後から、無傷の三体目が熱線銃のチャージを終え、銃口をジンの胸郭へとピタリと定めた。
青い光が限界まで収束し、殺意が臨界に達する。回避は間に合わない。
(……ここまでか!)
ジンが歯を食いしばったその時。
『システムエラー。第1セクター・廃棄物処理扉、手動オーバーライドを確認』
背後で、重々しい空圧音が鳴り響いた。
タクの指先から血が滲むほどのハッキングが功を奏し、決して開くことのないはずだった分厚い装甲扉が、重い悲鳴を上げて左右にスライドし始めたのだ。
「開いた! 二人とも、早く入れ!!」
タクの叫びと同時、ロボットの銃口から青い閃光が放たれた。
「ジン!」
エナがジンの腕を掴み、強引に扉の奥へと引きずり込む。直後、ジンが先ほどまで立っていたコンクリートの床が、凄まじい熱量によって丸く蒸発した。
三人が装甲扉の内側へ転がり込んだ瞬間、タクが配電盤のケーブルを力任せに引きちぎる。
ズォォォン……ッ!
という地響きと共に、装甲扉が再び固く閉ざされた。ロボットたちが放った二発目の熱線が扉の外側に直撃したが、分厚い隔壁はわずかに振動しただけで、その絶望の光を完全に遮断した。
暗闇に包まれた通路の中で、三人の荒い息遣いだけが響き渡る。
「……やった。本当に、突破したぞ……」
タクがその場にへたり込み、汗まみれの顔で笑みをこぼした。
エナも壁に背中を預け、震える手で自分の胸を押さえている。
ジンは立ち上がり、閉ざされた扉を振り返った。
この向こう側には、まだ「彼ら」がいる。感情を奪われ、ただ死ぬまで石を運び続けるだけの、かつて人間だった歯車たちが。あの日、理不尽に拉致され、偽りの記憶を植え付けられた無数の犠牲者たちが。
「……タク。ここから管理棟までは、あとどれくらいだ」
「この先のメンテナンス用シャフトを抜けて、上層へ登る。そこを抜ければ、カストディアンのコントロールコアがある『管理棟』の直通ゲートだ。……でも、ここからは未知の領域だ。さっきみたいな警備ロボットが、ウヨウヨいるかもしれない」
「上等だ」
ジンはひしゃげた鉄パイプを握り締め、暗い通路の先を見据えた。漆黒の瞳に、明確な反逆の炎を燃やすエナも、無言でジンの隣に立つ。
「このふざけた箱舟を止めて、外の世界へ帰るぞ。必ずだ」
反逆の火蓋は切られた。
三人は、AIという絶対神が支配する鉄の迷宮の奥深くへと、静かに歩みを進め始めた




