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居場所を守るため、俺は心を捨てた  作者: じゅじゅ丸
◆ 第一章:生きる理由
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第7話|初めてのお使い

騙されたーー!」


渡された地図を頼りに隣町へたどり着き、商店街らしき通りを歩いていた俺の目に飛び込んできたのは――


パンジーナの種 一袋300リラ


と書かれた看板だった。


「三つ買ったら、100リラしか残らないじゃんか……」


手元に残った一枚の硬貨を眺め、思わずため息が漏れる。


あのじいさん、騙されてくれる奴が俺しかいないから頼んだんじゃないか?


『面倒ごとに巻き込まれてくれる』


そんな言葉が脳裏に蘇る。


「気に入ってるとか言ったくせに……」


きっと村の連中にはこの手口が知れ渡っていて、通用しなくなったのだろう。だから新入りの俺をカモにした。

花屋の店主が、エルドの使いだと告げた途端に呆れた顔をしたのも納得がいく。


まんまと騙された。


「今頃、腹抱えて笑ってんのかな」


あのじいさんの顔が浮かびそうになり、慌てて想像を振り払う。これ以上考えると余計に腹が立つだけだ。


「それにしても……色々あるな」


武器屋に薬草屋、見たこともない食べ物。

村とは違い、この街はまるでRPGの始まりの町のようだった。人通りも多く、店の前には人だかりができている。


街とはいえ、うちの村とは大違いだ。


「すみません、なんでこんなに人が多いんですか?」


煙管をくゆらせながら欠伸をしている、比較的暇そうな店主に声をかけた。

背の高い赤髪の女性で、気の強そうな雰囲気をしている。店先には壺や敷物などが並び、どうやら骨董品を扱っているらしい。


「質問するなら何か買っていきな。話はその後だよ」


なるほど。客を選ぶ店だ。買わない客には圧をかけ、ふるいにかけるタイプらしい。

周囲を見れば、骨董品好きらしい常連客が静かに品を眺めている。


「すみません、今手持ちがなくて……さっき種を買ったらほとんど無くなっちゃって。次来た時は必ず買うので、話だけでも聞けませんか?」



ただでさえ機嫌が悪い。ここで無駄な買い物はしたくない。というか、100リラで買える物など、この店にはなさそうだった。


店主は俺を物色するようにじろじろと眺め、ため息をつく。


「……まあいいだろう」


店主は煙を吐きながら言った。


「この街――カララッサは、東の地域とテール王国を繋ぐ中間地点だ。竜車や馬車の行き来が盛んでな。東からも、他の地域からも物が集まる」


なるほど。それで色々な服装の人間がいるわけか。


「だからウチも品揃えがいいってわけさ」


ちゃっかり宣伝も忘れないあたり、さすが商人だ。


「それにしても、旅行者というより傭兵みたいな人が多いですね。治安が悪いんですか?」


鎧姿の衛兵や武装した連中が目につくのが気になっていた。


「おまえ、何にも知らねぇんだな。本当に大丈夫か?」


呆れたように言いながら、店主は煙管を咥え直す。


「王国が近いうちにでかいことをやらかすって話だ。その警備で周辺の街は物々しくなってんのさ。こういう時期は、ろくでもないこと考える奴が増えるからな」


「へえ、なるほど」


話を聞きながら店内を見回していると、100リラコーナーなるものを見つけた。あれなら俺でも買える。


「さっきから質問ばっかりの割に、気の抜けた返事しかしねえな!」


「まあまあ。あ、そこの100リラコーナーの人形、見ていいですか?」


「てめー、ちゃんと話聞いてんのか?」


「この人形ください」


「はい毎度……って、金持ってんじゃねえか!! 殺すぞ!」


そう言いながらも、きちんと袋に入れてくれるあたり、根は悪くない人らしい。


「すみませんでした! 今度はもっと高いの買います!」


一瞥もせず、そのまま走って店を離れる。完全に調子に乗っていた。


――そのツケが回ってきたのか、人とぶつかった。


「いてて……大丈夫ですか?」


苦笑いしながら顔を上げる。


「大丈夫! そっちこそ怪我ない?」


ぶつかった少年は、邪気のない笑顔を向けてきた。

黒髪に、きりっとした目。まるでこの世に悪など存在しないと信じているような、真っ直ぐな顔だった。


「……」


いつもなら苦手だと思うタイプのはずなのに。


なぜか――その少年がやけに眩しく見えた。


「?」


不思議そうにこちらを見る少年。


違和感。


何かがおかしい。知っているような、知らないような感覚。


「すみません、急いでるんで……あ、幸せになってくださいね」


そう言い残し、少年は突然走り去った。

何かを追っているようにも見える。


宗教じみた言葉だけを残して。


「……もしかして」


思わず呟く。


「日本人か?」


――まさかな。


俺以外に転生者がいるはずがない。

転生者は一人。そういうものだ。


返事はない。

質問にもならない呟きは、風に紛れて消えていった。



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