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居場所を守るため、俺は心を捨てた  作者: じゅじゅ丸
◆ 第一章:生きる理由
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6話|秘密の取引



村長の紹介の後、パチパチとまばらな拍手が響く

 

歓迎の拍手……というほど大げさではないが、素朴で温かい視線が次々とユウトに向けられる。

俺は居心地が悪いのを悟られないように作り笑いでそれを聞いていた。


 あれから3日が経った。すっかり回復した俺はお爺さんに頼み込み村に住まわせてもらえることになった。

 少女のおじいちゃんはこの村の長だったらしく俺の移住はとんとん拍子で決まった。俺を看病してくれた

少女―リリナもそのことをとても喜んでくれた。

 

正直まだ生きる意味はわからない。

ただ、少女の言うように意味を見つけるために生きてみるのも良いかと思い始めていた。

ここなら自分は変われるんじゃないかと少し期待していた。


  ――そして今。


「よろしく頼むよ、ユウトくん!」


「おう! 身体はもう大丈夫なんだろ?」


「若いんだし、働きながら慣れていけばいいさ」


 村の広場に集まった数十人の村人たちが、一斉にこちらを見る。


(……落ち着かないな)


 歓迎されているのに、心がどこか落ち着かない。

 思えば家を出てからこんなにたくさんの人と話したはなかったので、少し緊張している。



「ユウトくん、君にはこれからしばらく、村一番の畑を持つリックの畑仕事を手伝ってもらう。時間が経てば身体も慣れるし、覚えるのも簡単だ」


 村長のおじいさん――リリナの祖父がそう言うと、村人集団の中から2メートルはありそうな大柄な男が一歩前に出た。


「オレがリックだ。よろしくな!」

 

 ガッチリとした体格や褐色の肌はいかにも力自慢の農家という雰囲気だ。腕の太さなんてクマといい勝負かもしれない。

 

「行くあてがないんだってな、大変だとは思うが出来る限り働いてもらう。その代わりわからないことはなんでも聞いてくれ!俺が完璧になるまで指導してやる!」


心強い言葉に胸が熱くなる。

 

「こいつの言うできる限りは普通の人間にできないから気をつけろよ小僧」


 謎の忠告が集団から飛び、大人たちが笑いながら頷く。

 そんな空気感に緊張が少しほぐれた。


「…っ精一杯頑張りますのでどうかよろしくお願いします!」


 身を焦がすように照りつける眩しい日差しが、三島ユウトの再出発を祝福しているようだった。


 この環境で自分は成長するんだと決意した。







 ――――――――――――――――










 


 無理だった。




 




 完治したとはいえやはり病み上がりの体には厳く、瞬く間に戦線から離脱した。リックは涼しい顔で畑を耕している。鍬を振る速度が早すぎて腕が4本に見えるのは流石に気のせいだと信じたい。


 鳥の囀りに意識を移し、風で葉と葉が擦れる音を堪能する。


 ――随分楽しそうだな


木陰で涼みながらぼーっと畑を眺めていると不意に声が聞こえた。


「誰だ!?」


 思わず振り返るが誰もいない。木の上で鳥が鳴くだけだ。しかし確かに聞き覚えのある声に身を震わせる。


 ――なんだ、やっと聴こえるようになったか



 


 


 ーー随分楽しそうだな


 聞き覚えのある声に思わず振り返る。

 不意に聴こえた声に思わず身震いした。


「誰だ!?」


 この木陰の周りは畑しかない。姿を隠せる場所などどこにもない。


 ーーなんだ、やっと聴こえるようになったか


「誰だって聞いてるんだよ」

 

 あたりに人の気配はなく。いつのまにか鳥の鳴き声も消えていた。嫌な予感に冷や汗が垂れる。

 

  (まさか魔王か?)


 すると突然木が勢いよくゆれ出した。

 ガサガサと音が大きくなる。


 木の上に視線を集中し身構える。


 すると上からメガネをかけた白髪の男がひょっこり顔を出した。


「わしじゃよ」


思考が止まる。あまりの情報量に意識が持っていかれかけた。


 

「…………………………誰だよ⁉︎」

 


 無理やり絞り出した言葉はか細く、風に乗って飛ばされていった。

 




 

 ーーーーーーーーー


 そうだ、リックの自己紹介にヤジを飛ばしていたじいさんだ。目の前の、顔覗き込んでくる人物について理解する。



「いや、すまんすまん、自己紹介がまだじゃったな」


 絶対に謝るところがそこでないことに怒りを覚えたが、それを指摘してこれ以上面倒ごとを悪化させたくない。


「わしの名はエルド……エルド•ハインツじゃ」

 

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、目を細めニカっと笑うその顔はどこぞの太陽神を思わせるほど眩しかった。

 

「エルド……さん?あなたは、あんな木の上で何してたんですか?」


 魔王が出てきたわけではないことに安心しつつ

 とりあえず、沈黙を嫌い気になっていたことを聞いてみる。

 

「わしか、わしは鳥の囀りや木葉の擦れる音を楽しんでいただけだ。」


 なんだか心当たりがある返答に苦笑いしながら、それでももう話すこともなかったので、ああそうですかと当たり障りのない言葉を交わし仕事に戻ろうと背を向ける。


「そういうお主は何をしておったんだ?まさか仕事をサボって寝ていたわけではあるまいな?」


 そんな俺をエルドは見逃してくれなかった


「いや、サボっていたというか……休憩中だったというかというか」


 咄嗟に誤魔化してしまったが、印象が悪くなってしまっただろうか…別にリックの許可は取っているので何も後ろめたいことはないのに。もっと上手く出来たはずの自分の行動に嫌気がさす。


「なんて、ずっと見てたからわかるんだけどね!!」


 そんな不安をよそに、老人は飄々と自身の質問に答えを被せる。

 

 (こいつ殴っていいかな?)


「ただ、せっかく村に受け入れられた男が、仕事もせずに木陰で眠ってたなんて村長たちが知ったらどうなるだろうな………」


痛いところを突かれて言葉に詰まる。確かに俺は何もできてない負い目がある。それに意気揚々と仕事に出た今の俺の出来を皆んなに知られて幻滅されることは避けたい。

冷や汗が背中をなぞる。

 

「……脅しですか?」


 できるだけ平静を装ってそう返すと、エルドは肩を揺らして笑った。


「はっはっは、脅すつもりはないよ。ただ少し手伝って欲しいことがあるだけさ」


 白々しく繰り出される"お願い"に嫌な予感が消えず胃のあたりがキュッと縮む。


「話は、聞きましょう。聞くだけですからね。」


 絶えず頭をよぎる不安に、それでも逃げられない自分は呆れるくらい臆病者だ。


 そんな俺の目をまっすぐ見つめ、エルドは顎をさすりながら少しだけ声を落とした。


「まあ安心せい。そんなに身構える必要はない。むしろ逆じゃ」


「逆?」


「この手伝いは、お主にとって悪くはない話じゃ」


 あまりにも胡散臭い言葉に、今度こそ逃げようかと思う。しかしここは村社会。逃げようにも何処にも逃げ場はない。


「少し離れた隣町から、パンジーナという花の種を明日までに買ってきて欲しい。もちろん余った金は報酬として自分で使って構わん。」


 むしろ徳じゃぞ、と詰め寄る太陽スマイルは何かを企んでいるとも思えず拒否しきれない。今までもその笑顔で人間関係を築いてきたのだろう。その顔ずるいな。


「自分で買うとかはできないんですか?」


 そもそも正体も知れぬ新入りに頼むことなどない。村の知り合いとか暇そうな人ならいくらでもいるだろと不信感を露わにする。というか自分でいけ!


「あいにく、今日はこの後村内会があってそれに出席しなければならないのじゃ」

 

 土に汚れた作業着を見ると、とてもそんなに重要な立場にいる人間には思えない。


「そんなこと言ったって、俺には畑を耕すという使命がありましてですね……」


 元はと言えば俺が仕事を放棄して寝てたことが問題になったわけで、さらに別の仕事し始めたらそれこそ何やってるんだ案件ではないか。


「マジで頼む、ただの隠居じじいを助けると思ってさ」


 しかし、このじいさんに頼まれると何故か断りきれない。長年培ってきた雰囲気がそうさせるのか、とにかく悲しませたくないと思ってしまう。


「報酬の詳細は?」


 言ってしまった。報酬次第ではその話を受けようと考えてしまった。


「わしの笑顔」


「……報酬の詳細は?」


言葉を失いかけた。……次ふざけたこと言ったら殴ろう


「種は三袋分ほど買ってきて欲しい、1000リラ渡すからその半分は残るだろう」


爺さんは少し考えるそぶりを見せ、その金額を提示した。


「500リラか、相場はわからないけど半分ももらえるなら悪くない気はする。乗った。」



「よかった、契約成立じゃな。」


 エルドは露骨に安心したように胸を撫で下ろす。


「それにしても、なんで俺なんかに?信用できるのか?」


 他の村人とか、信用できる奴はいないのだろうか


「長く生きておるとな、嫌でも人を見る目は肥える」


「……人を見る目」


 自分を見る目は養われなかったのだろうか。側から見ればただの怪しいおっさんだぞ……

 

「安心しろ、わしはお主を気に入っておるのじゃ」


 あまりにも予想外な言葉に、今度こそ言葉を失った。

 


「突然話しかけられても逃げ出さず、疑いながらも人の話を聞く。そういうやつは——」


 エルドはニヤリと笑う。


「面倒ごとに巻き込まれてくれる」


「……全然安心できないんですが?」


「はっはっは、正直でよろしい」

 

リックには私が話を付けてこよう、その間に隣町へ向かうのだ!


そう言い残すと、エルドは今なお畑を耕し続けるリックの方に足を向けた。


その後ろ姿に不安を覚え空を仰ぐ。そして同時に、なぜか胸の奥が、ほんの少しだけ高鳴っていることにも気づいてしまった。


 —――


 

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