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居場所を守るため、俺は心を捨てた  作者: じゅじゅ丸
◆ 第一章:生きる理由
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第4話|年下の説教



手で顔を覆い蹲る。

駄々を捏ねる子供のような、カッコ悪くて無様な姿。

 

 そんな俺を見かねた少女は、決心したように口を開く。


「……あのね、私はお兄さんが助かってよかったって思ってるよ」

 

 机に座らせていた人形を手に持って俺の方に向き直る。

 

「お兄さんに何があったかはわからないけど、どんなに辛いことがあったって………死ぬよりは絶対いいよ」


 言葉を選ぶように、慎重に声をかける少女に俺は何も言わない。言いたくない。口を開けば全てを暴言でねじ伏せてまいそうで無理やり黙る。


 これ以上痴態を晒したくない、現世でもこの世界でも……


 沈黙をどう受け取ったのか、少女は話を続ける。


「私のお母さんは3年前、私が7歳の頃に死んじゃったの。毎日看病してたけど、よくならなくて、ずっと苦しみながら死んでいったの。」


 少女の声が震える。その震えを隠すように声量を上げる

 

 そんな必死そうな姿に、こちらまで惨めな気持ちになってくる。 

 思い出すのが辛いなら話さなければいいのに……


「でもね、お母さんは幸せそうだった。今日も生きてられた、あなたに会えるのが嬉しいって私に言ってくれたの」


 力強い言葉に思わず顔を見る。

 涙を溜めた瞳は澄んでいて、少女の純粋さを感じさせた。



 その無垢な瞳が妙に癪に触った。




「…だからどうした」


 自覚するまも無く、憎悪が口から溢れる。

 

 

「え?」


 気づけば、声を荒げていた。

 


 

 …………だから、どうしたと言うのだ?

 お前の母親にはお前に合うという生きる理由があった……だから幸せだった。

 死ぬべきではなかったとでも言うのだろうか


 だとしたら勘違いも甚だしい


「そんなこと、俺には関係ないだろ!」

 

 だが俺にはそれがない……生きていてよかったなんて思ったことなど一度もなかった。誰かに必要とされたことも……


 お前はないのだろう、死を望まれた経験など……


 自分の無能さに絶望し、それでもどうしようもない無力感に苦しめられた夜など……


 だからそんな理屈は通用しない

 

 

 それだけの話しだ。

 


 しまったと我に帰ったときには既に遅く、少女は急に怒鳴った俺に怯えていた。


「…ごっ……ごめんなさい、勝手にこんな話して」

 


「いや、ごめん。急に怒鳴って悪かった。

俺のこと……助けてくれてたのに」


 またやってしまった、いつもこうだ。自分に善意を向けてくれる人間に強く当たってしまう。受け止めてくれと甘えてしまう、こんなことしたいわけじゃないと言い訳しながら俺は……


「でもね、関係あるよ」


 驚いて顔を上げる、歳の離れた男に逆ギレされ怒鳴られてなお、


 "まだ"少女は話を続ける


「そんなつよくて優しい母を私は失った」


 ぽつり、と落とされた少女の言葉は、細い声のくせにやけに胸に刺さった。さらに続く言葉に思わず息を飲む。


「大好きだった……

 お母さんがいなくなって私は死のうとした。

 辛くて悲しくて生きていられないと思った。

 今の貴方のように……

 

 でもね、おじいちゃんや村の人たちが助けてくれたの、

 私がまた前を向けるように、まだ生きていられるよう

 に。」


 

「死んだお母さんも、一人寂しくないようにってこの人形を私にくれたの」


 大事そうに抱えられた、不恰好な人形を俺に見せつける。


「たくさん泣いて、いろんな思いを吐き出して、それでやっと生きる理由を見つけたの」


 手の中の人形が震えている。

 

「私、この村が好き。お母さんを育ててくれたこの村が、

 優しいおじいちゃんや村の人たちが住むこの村が、私に

 幸せを教えてくれたこの村が、私の生きる理由なの。」



 

「だから、私が言いたいことはね?

 今はダメで死にたくなるかもしれないけど、

 貴方にもいつか生きる理由が見つかると思うの。

 それまで生きてみるんじゃダメかな?

 私やこの村の人たちが貴方を助けてあげるから……」


 女はまっすぐにこちらを見つめる。怯えているはずなのに、その瞳だけは強かった。


「本当は今も辛いけど、それでも生きてるなら……きっ

 と、意味はあとから見つかるよ」


 そんな言葉、何百回も聞いた。何千回も否定してきた。

 だけど――いまは、なぜか胸がざわつく。

 少女の顔が、母親の死を語るときに浮かべたひどく寂しそうな表情が、頭から離れなかった。


(……なんでだよ。なんでそんなふうに思えるんだ――)


 納得はできない、一体いつまで生きればそれが見つかる

 のかとか、それだけが生きる理由なのかとか、いくらでも反論は出てくる。でも、そう言うことじゃない。



 


 俺はいつから、母親を失った子どもに説教されるほど、

 情けない男になったのか。


 ユウトが黙り込むと、少女は小さく頷くように言った。


「それじゃあ、お兄さんが意識戻ったってみんなに伝えてくる! ……その間に顔拭いといた方がいいかもね」


 少女が去った後俺は暫く顔を上げられなかった。


 

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