第3話|目を覚ますと村だった
気が付くと、村の小さな家の布団の上にいた。
温かな布の感触。窓から差し込む陽光。外では鳥が鳴いている。
状況は何ひとつ分からない。それでも、そこには確かに“生”があった。
――その事実が、ひどく憂鬱だった。
「……ここ、どこだ?」
体を起こそうと顔を上げたとき、すぐ側に少女が座っているのに気づく。どうやら看病してくれていたらしい。
……余計なことを。
「あっ! お兄さん、起きた!」
机の上に置かれた不恰好な人形をぼんやり眺めていた少女は、こちらに気づくとぱっと表情を明るくした。金色の髪が揺れ、無邪気な笑顔が向けられる。
十歳くらいだろうか。その眩しさが、妙に目に痛い。
もう自分には戻ってこない時間だと、嫌でも思い知らされる。
「何も分からないと思うから、簡単に説明するね」
少女はそう言って、倒れていた自分の状況を丁寧に話し始めた。
「ここは“スタル村”。お兄さん、森で倒れてたの。たまたま通りかかったおじいちゃんが見つけて、村まで運んできたんだよ。私も手伝ったの」
大変だったんだから、なんて言いながら、慣れた手つきで濡れた手拭いを取り替える。
その自然な優しさに、わずかな罪悪感が胸を刺し、ユウトは視線を逸らした。
「そっか……俺は倒れて……」
その瞬間、脳裏に祠の光景が蘇る。
黒い霧。頭に響いた声。
(……夢じゃなかったのか)
体を奪われかけた感覚が生々しく蘇り、吐き気が込み上げる。
「まだ体調悪いの? 大丈夫?」
心配そうに覗き込む少女の声が、逆に耳障りだった。
「……なんで助けた」
「え?」
「冗談じゃない……なんで助けたんだよ!」
自分でも抑えきれない声だった。
確かに森で倒れていた。魔王を名乗る存在にも襲われた。
だが、それ以前に――
「俺は……死んでるはずで……」
言葉が途切れる。
アパートの屋上。落ちていく感覚。終わるはずだった意識。
すべてを終わらせたはずだった。
「……なんで、こんなことに……もう、やめてくれよ」
もう放っておいてくれ。
顔を覆い、蹲る。悪い夢なら覚めてほしいと、半ば投げやりに時間が過ぎるのを待つ。
傍から見れば、ただ駄々をこねている子供のような、情けない姿だっただろう。
しばらくの沈黙のあと、少女が小さく息を吸う気配がした。
「……あのね」
決心したような声だった。
「私は、お兄さんが助かってよかったって思ってるよ」




