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居場所を守るため、俺は心を捨てた  作者: じゅじゅ丸
◆ 第一章:生きる理由
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第1話|祠を壊した

――死にたかったはずの男が、見知らぬ森で目を覚ましたのは、雨が降り出す直前だった。


 薄い灰色の雲が空を覆い、木々の間を抜ける冷たい風が、まるで死に損ねた男を嘲笑うかのように吹き抜けていく。


 主人公――三島ユウトは、ぼんやりと空を見つめていた。


 視界は滲み、鼓動は弱く、指先ひとつ思うように動かせない。


(……生きてるんだ、俺)


 喉の奥が焼けつくように乾き、倒れ込んだ地面の感触だけがやけに鮮明だった。

 青々とした草と伸びきった茂みは、自身の有様とはあまりにも対照的だ。


 ここがどこなのか。

 どれほど時間が経ったのか。


 ユウトにはわからない。

 ただ、身体に走る痛みだけが――自分が“まだ死んでいない”という事実を、否応なく突きつけていた。


「……ここは、どこだ?」


 確かに、死んだはずだった。


 アパートの屋上の縁に足をかけたとき、胸を満たしていたのは絶望だけで。

 落ちる感覚と同時に、世界が遠ざかっていく――あの瞬間。


 そこで記憶は途切れている。


 だが、身体は生きている。

 痛みもある。

 腕には、落下の衝撃とは明らかに異なる生傷がいくつも走っていた。


 湿った土の匂い。

 草の青臭さ。

 見知らぬ森。


 ここは、日本ではない。

 それだけは、はっきりしていた。


 ふと視線を上げると、苔むした石の祠が立っているのが目に入った。

 刻まれた文字は読めず、大人の背丈ほどの小さな祠だが、年季を重ねたそれは、禍々しいほど濃い気配を纏っている。


 幻覚か。

 死後の世界か。

 それすら判断できない。


 ただ――今の状況を理解したい。

 その一心で、動かない身体を無理やり起こし、ふらつきながら祠へと近づいた。


「……誰か、いないのか?」


 返事はない。

 静寂の中、ぽつりと雨粒が落ち、首筋を冷たく濡らす。


 諦めかけた、そのとき。


 祠の中の石板が、わずかに光を放った。


 思わず、手を伸ばしてしまう。


 ――それが、この瞬間。

 この世界にとって、最悪の選択だったことも知らずに。


 

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