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居場所を守るため、俺は心を捨てた  作者: じゅじゅ丸
◆ 第一章:生きる理由
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第13話|別れ

悲鳴が上がったのは、沈んだ太陽が完全に姿を消した頃だった。


 家の風呂を沸かすため、外で薪を運んでいた時だ。


「魔物だああああ!!」


 叫び声を聞いた瞬間、血の気が引いた。


 村の外から響く、異様な咆哮。地面が揺れ、広場の銅像がかすかに震える。


「リリナ! どこだ!」


 胸の奥が焼けるように熱くなる。

 気づけば、足は勝手に走り出していた。


「じいさん。リリナはどこだ!」


 途中で村長を見つけ、半ば怒鳴るように問い詰める。

 しかし村長は慌てる様子もなく、静かにこちらを見つめていた。


「落ち着け、ユウトくん。君は何もしなくていい」


「落ち着いていられるか! 魔物が出たんだぞ? また前みたいなことになったらどうする!!」


 そうなる前に、俺が助けなければならない。

 あの力を使ってでも――村を、リリナを守る。


 だが村長は、申し訳なさそうに首を振った。


「一週間前、リックが勇者を呼びに王国へ向かった。もうすぐ戻ると連絡が来ておる。だから、お前は動かない方がいい」


 ……何を言っている?


 一週間前に、勇者?


 リックは寝込んでいたはずじゃなかったのか。


「勇者?」


 思わず聞き返す。


「ああ。テール王国の王、アーサーが十人の勇者を集め、魔王討伐に動き出したそうじゃ。何かあれば報告するよう言われておる。その勇者に力を借りに行かせた」


 テール王国。魔王討伐。


 頭の中で言葉が噛み合わない。


「……まさか、俺を疑ってるのか?」


「違う。魔物の件を相談しに行っただけじゃ。ただ……お主の力が危険なのも事実。次に同じことが起きたら、どうなるか分からん。相談できる者を連れてくるべきだと思ったのじゃ」


 その言葉に、怒りが滲んだ。


(危険すぎる? 勝手に決めておいて、何が分かってくれだ)


「だったら話してくれればよかっただろ! 結局…俺を信用してないだけじゃないか!」


 ――もういい。


「信じてたのに……ここにいていいって、言ってくれたくせに……」


 何も聞きたくなかった。

 全部を拒絶するように、村長から視線を逸らす。


 今は、とにかくリリナだ。


「どけ。俺は行く」


 村長を押し退け、再び走り出す。


「くそ……なんでまた魔物なんて……!」


 叫び声の方へ。森の近くだ。

 助けなければならない。俺が役に立つと、証明しなければ。


「おい、魔王。力を貸せ」


 ――…………


 返事はない。


「聞いてるのか? なあ、力貸せって」


 ――………………


「くそったれ」


 急に黙るなよ。


 もういい。とにかく行くしかない。


 人だかりが見え、足をさらに速める。





 自分の顔が笑みに歪んでいることにも気づかずに。




 森の入口。


 地面に倒れ、動かないリリナ。

 その周囲を、巨大な狼型の魔物の群れが囲んでいた。


「……あ……っ……」


 血に染まる姿を見た瞬間、理性が吹き飛んだ。


「リリナ!!」


 考えるより先に、身体が群れへ飛び込んでいた。


 魔物たちが一斉に襲いかかる。

 骨が折れる衝撃。爪が肩を裂き、腹を裂き、首筋を掠める。


 痛い。

 熱い。

 怖い。


 ――死ぬ。


 それでも。


「……こいつだけは……絶対に……守る……!」


 血で霞む視界の中、リリナへ手を伸ばす。


 だが――


「…………ダ……メ…………」


 その手は、拒まれた。


「リリ……ナ?」



 血に染まる少女の顔は怯えているように見た。


 "魔物"ではなく"自分"に



その事実が、胸の奥を凍らせる。


 お前も、俺を拒絶するのか。


 


 お前も、俺を拒絶するのか。


 否定するのか。


 存在を許してはくれないのか。


 違う。きっと見間違えただけだ。

 魔物と俺を間違えただけだ。そうに決まっている。


 そうでなければ――俺は、何のためにここまで来たんだ?体を裂かれる痛みに耐えて。


 守りたいと願って。

 ここにいていいと信じたくて。


 俺を信じてほしい。

 俺がいていいんだと、証明させてほしい。


 だから、だから、だからだからだから…







 俺を、嫌いにならないでほしい。




 リリナが、声にならないかすれた声を絞り出す。


「お……にい……ちゃ…………」


 そして。


「……こな……で」


 その拒絶を意味する言葉が、最後の支えを焼き切った。


 次の瞬間、黒い炎が身体を包み込む。


「――ああああああ!!」


 苦痛でも、快楽でもない。


 ただ、感情が焼き潰されていく。


 視界の中の少女が、ただの肉の塊のように見えた。


 耳元で、魔王が囁く。


 ――代償は、恐怖と孤独。

 ――それがお前の力の燃料だ。


 心の闇が深まるのと同時に、辺り一帯が火の海へと変わった。




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