第12話|歪み
村に来て、一週間が過ぎた。
咲いたパンジーナは、エルドさんと、エルドさんの妻の墓の横に飾られている。俺は毎朝、その花を替えに来ていた。あの花にどんな思い出があったのか、俺には分からない。ただ――あの花は、きっとエルドさんの生きる理由そのものだったのだろう。
それが、少し羨ましかった。
……リックは、頑丈な体が幸いして死なずに済んだらしい。
とはいえ傷は深く、あれから顔を見ていない。見舞いに行こうとしたが、村長に止められた。
そんな俺は、今日も村のために働いている。
「リドルさん、俺、水汲みしてきます!」
「あ、ああ。頼むよ、ユウトくん」
「タッカーさん、お困りですか? 手伝いますよ?」
「……ああ、ありがとうユウト」
村の生活は忙しく、正直まだ慣れない。
それでも――悪くなかった。
少なくとも、ここでは誰も俺を拒絶しない。怒鳴らない。誰も、俺を“いらない”とは言わない。
けれど。
まるで爆発物を刺激しないように扱われているような――そんな歪な空気が、確かにあった。
「……こんなの、慣れたらダメだろ」
呟いた声は、井戸の底へ吸い込まれていく。
人気のない場所まで来て、ようやく不安を吐き出した。
「大丈夫? お兄ちゃん?」
「……リリナ。どうしてここに?」
気づけば、リリナが心配そうに立っていた。
「ねえ、お兄ちゃん。ここ、嫌い?」
リリナがそう尋ねてくる。
「嫌いじゃない。……だから、俺はきっとここに居ちゃダメなんだよ」
俺は素直に心の内を吐き出した。
「なんで?」
そんな俺の答えに、少女はいつかと同じ目で聞き返す。
「……俺は、誰かを傷つけるから」
あの夜、少女に強く当たった自分を思い出す。人の善意を踏みにじった、最低な自分を。
リリナは、静かに言った。
「じゃあ、私がいつ傷ついたの?」
不意の問いに、言葉が詰まる。
「……いや、それは……」
「私は嬉しかったよ。だってあのときのユウトは、私を助けてくれたもん」
まっすぐな瞳に、また胸が痛む。
その優しさに、甘えてしまいそうになる。
震える手を見ないふりしてしまう。
「……俺を甘やかすなよ」
俺を認めてくれると信じてしまう。
「甘やかしてないよ。ただの事実」
そう言って、リリナは悪戯っぽく笑った。
――そして、その日の夜。
再び、悲鳴が上がった。




