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居場所を守るため、俺は心を捨てた  作者: じゅじゅ丸
◆ 第一章:生きる理由
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第11話|英雄

胸の奥で――黒い靄が蠢いた。


 ――力が欲しいか?


(……ッ! ふざけるな……!)


 ――このままでは少女が死ぬぞ。何も救えぬまま、目の前で失う。


(黙れ、俺は……そんな……!)


 ――また守れぬのか?


「……ッくそッ!!」


 魔物に潰されたエルドの姿が浮かぶ。少し躊躇い、ユウトは体を引きずりながら残った左手をリリナへ伸ばした。


「逃げろリリナぁぁッ!!」


 が、その声は魔物の咆哮に掻き消され――

 牙が振り下ろされる。


 それと同時に、黒い靄が――ユウトの胸を割って広がった。


 ――取引だ。

 我の力を貸してやる。

 その代わり貴様の感情を、“心” を少しずつもらう。


(何だそれ、体を寄越せじゃねぇのか)


 ――気が変わった。

 

 ――選べ。少女の命か、貴様の心か。


 考えるまでもなかった。


(……くれてやるよ。そんな心なんか……!)


 ――よかろう。


黒い靄がユウトの欠損した腕にまとわりつき、失われた筈の右腕となる。

血管が黒く染まり、熱が爆発するように力が湧いた。


「う……おぉぉぉッ!!」


 ユウトは跳ね起き魔物へと向き直る。

 鍬を掴み、魔物の横腹へ叩きつける。

 鈍い音が響き魔物が宙に吹き飛ぶ。


「リリナ!!」


「お兄さん……っ!」


 泣きそうな顔をしながら、リリナがユウトに抱きつく。

 ユウトはそのまま魔物を睨む。


(殺さねぇと……また来る……!)


 黒い力が全身にまとわりつく。

 視界の端が黒く染まり、鼓動が速くなる。


「うああああああッ!!」


「ユ、ユウトくん!? お、落ち着――」


 村長が叫ぶが聞こえない。

 周りの声はもう聞こえない。

 ただ目障りな存在を振り払った。


「どけ!!」


 怒鳴り声が、自分のものとは思えなかった。

 鍬が黒く光り、魔物を叩き伏せ――

 その頭蓋骨を砕いた。


 ぐしゃり、と生々しい音が響く。

 血が地面に飛び散り、リリナが息を飲む。


「お……おにい……さん……?」


(……やりすぎだ。わかってる)


 ただ、無視できないほどの爽快感がユウトの身を包んでいた。同じように黒い闇が、まだ腕にまとわりついている。

 

 その闇が囁いた。


 ――良いぞ、人間。

 もっと力をやる。

 もっと心を寄越せ。


(黙れ……ッ)


 ユウトは歯を食いしばり、震える手を握りしめた。


 黒い靄がゆっくりと胸へ戻り、消えていく。


「……大丈夫だ。もう終わった」

 

 一部始終を見ていた村長が止めに入るが、その声は震えていた。


 村人たちが恐る恐る近づき、否、少し離れたところで立ち止まり声をかける。


「ユ……ユウトくん……今のは……?」


「なんだ、その黒い……」


 怯えと戸惑いの視線が混じる。

 

「いや、いまのは……えっと……」

 

 わかっている、みんな俺を見て怖がってる。

 だけど何をすべきかわからない。

 また自分は余計なことをして、墓穴を掘ったのだ。

 あの時と同じように……

 

ただ、リリナだけは、ユウトの袖を掴んで離さなかった。

 

リリナが震える声を絞り出す。


「……お兄ちゃん……助けてくれて……ありがとう。でも……大丈夫……?」


 俺は少し考えて、でも誤魔化しきれなくて答える。

 

「……俺は……もう大丈夫じゃないかもしれない」


 そんな俺を優しく包む手に安らぎを求めてしまった。

 

「……お兄さんは、怖くなんかないよ」


 言葉はそう言ってくれるのに――

 小さな手は、震えていた。


(……ごめん)


 胸の奥に、ひどい罪悪感が広がった。

 

 それが、最初の代償だった。



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