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居場所を守るため、俺は心を捨てた  作者: じゅじゅ丸
◆ 第一章:生きる理由
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第10話|最初の代償

「ユウトくん?」


村長の声が、沈みかけていた意識を現実へ引き戻した。


「すいません、ちょっと考え事してまして……」


シチューの中に転がるウサギ肉をすくい、口へ運ぶ。

まろやかな味と素朴な旨みが広がった。


「美味しいですね、このシチュー」


「……無理しなくていい。ここに来てまだ日が浅いんだ。慣れないのは当然だよ」


村長はそう言って、穏やかに目を細めた。


「だがな……人は誰かの中に居場所を作るものだ。互いに信頼し合って生きていく。村というのは、そういう場所なんだよ」


(……居場所、か)


胸の奥が、ざらりと軋む。


横からリリナが肩を軽くつついた。


「ね、お兄さん。明日は私も手伝うから。畑も、生活も……一緒に覚えよ?」


軽い声だったが、不思議と強さがあった。


母を失いながらも前を向こうとする少女。

その真っ直ぐな言葉に、胸が小さく痛む。


「……ああ。頼むよ、リリナ」


リリナは嬉しそうに笑った。


(いつまでここにいられるのかは、わからないけど)


ここでなら――もしかしたら、生きる理由の“種”くらいは見つけられるのかもしれない。


だが、その思いを嘲笑うように、胸の奥で微かな違和感が蠢く。


魔王。


今は沈黙しているが、何を企んでいるのか分からない。


(……俺は、このままここに居ていいんだろうか)


夜空は静かで、どこまでも穏やかだった。


だがその裏で、確かに何かが動き始めていた。



翌日。


ユウトはリックや村人たちに囲まれながら畑仕事を手伝っていた。


「ユウトくん、そこ固めすぎだよ」


「え、これじゃダメなんですか?」


「ダメダメ、苗が死んじゃうって」


「す、すみません……」


「私が教えてあげる! ほら、こうやって」


リリナが小さな手で土をほぐし、丁寧に整える。


ユウトは額の汗を拭いながらため息をついた。


「……ほんと、向いてねぇな」


「大丈夫だよ。最初はみんな失敗するんだって」


「そうそう。ワシなんか最初は畑を全部ダメにしてな。畑を壊す者(フィールドブレイカー)と呼ばれとったくらいじゃ」


エルドが胸を張る。


「エルドさん、その話するたび異名増えてません?」


「むむ……き、気のせいじゃ……」


笑い声が広がる。


その輪の中に自分がいることが、まだどこか信じられなかった。


居心地が良すぎて、少しだけ怖い。


この村で生きることに、早く慣れたい――そう思った、その瞬間だった。


地面が揺れた。


「……ん?」


「なんだ今の……?」


ざわめきが広がる。


揺れはすぐに止んだ。だが次の瞬間――


――ガルルルルル……ッ。


獣の低い唸り声が、森の奥から響いた。


「お、おい……森の方だ……!」


リックが叫ぶ。


「魔物だッ! 子どもたちを避難させろ!!」


一気に緊張が走る。


「警報はどうした!? こんなの初めてだぞ!」


「今はいい! とにかく避難だ!」


村人たちが一斉に走り出した。


「魔物……?」


状況が理解できず、ユウトは立ち尽くす。


リリナが腕を掴んだ。


「お兄さん! 危ないよ、離れちゃ――」


その瞬間。


森の影から、灰色の狼のような魔物が飛び出した。


赤黒く光る目。

唸り声。

明らかに普通の生き物ではない。


「デカすぎんだろ……」


足が動かない。


思考が凍りつく。


「花が……」


エルドの声で、我に返った。


「……花が危ない」


「エルドさん?」


彼の視線は魔物ではなく、花畑だけを見ていた。


「うちの花畑に手出しはさせん」


「ダメだ! エルドさん!」


止める間もなく、エルドは走り出す。


そして――


魔物の足が振り下ろされた。


グシャリ、と。


紙でも潰すように、簡単に命が消えた。


「エルドさぁぁぁん!!!」


理解が追いつかない。

死が、突然目の前に現れた。


「リリナ、ユウトを連れて下がれ!」


リックが飛び出す。


「でも――!」


「いいから! 俺が負けるわけないだろ!」


だが次の瞬間、リックの体は弾き飛ばされ、森へと叩き込まれた。


魔物が遠吠えを上げ、こちらへ向き直る。


足が震える。


頭の中で声が響く。


――やっと死ぬ理由ができたじゃないか。


『お前が死ねばよかったんだ』


父の言葉が蘇る。


(違う……俺は、生き延びて変わるんだ)


リリナを守るために。


ユウトは地面に転がっていた鍬を握った。


「くそ……武器なんて握ったことねぇのに!」


怖い。

それでも逃げる選択肢はなかった。


魔物が突進してくる。


「うわあああぁぁぁぁ!!」


鍬を振るう――が。


衝撃と共に、体が吹き飛んだ。


「ユウト!!」


地面に叩きつけられ、呼吸ができない。


(……動けねぇ……)


視界が滲む。


だが魔物は止まらない。


その牙は――リリナへ向いた。


「……やめろ……そっちに行くな……俺を見ろ……!」


少女が震えながら後退る。


その瞬間。


胸の奥で、黒い靄が蠢いた。


――力が欲しいか?


魔王の声だった。


――選べ。少女の命か、貴様の心か。


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