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居場所を守るため、俺は心を捨てた  作者: じゅじゅ丸
◆ 第一章:生きる理由
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第9話|魔王の声



――随分楽しそうだな。


木陰で涼みながら、ぼんやりと畑を眺めていた時だった。

不意に、背後から声が聞こえた。


「誰だ!?」


思わず振り返る。しかしそこには誰もいない。

木の上で鳥が鳴いているだけだ。


それでも、その声には聞き覚えがあった。背筋に冷たいものが走る。


――なんだ、やっと聞こえるようになったか。


「なんだ……また、エルドさんですか?」


そう口にした瞬間、空気が変わった。


黒い霧が、足元からじわりと広がっていく。

いつもの冗談めいた雰囲気ではない。


――……違う。俺は魔王だ。


「お前は……自称魔王⁉︎」


――自称ではない。魔王だ。


数日前の記憶が蘇る。

体の所有権を巡り、意識を失うまで争ったあの時のことだ。


「何度も言うが、俺はお前に体を譲る気はない」


――おかしな奴だ。死にたがっていたくせに、さっさと我に体を預ければいいものを。


「死ぬのと、操られるのは違うだろ。俺は……これ以上、余計なことをしたくないだけだ」


――……その割には、随分楽しそうに人間どもと関わっていたではないか。


言葉に詰まる。


「それは……ここでなら、変われるんじゃないかって……思って」


そうだ、久しぶりに人と話した。

体を動かし、自分で考え、笑った。


あの頃のことを、忘れられる気がしていた。


――お前のような人間は知っている。自分が何をしたいのかも分からず、その場の流れに身を任せて生きる。だが都合が悪くなれば距離を取る。卑怯者の生き方だ。


「違う!」


思わず声を荒げる。


「俺はそんなことしない。何も知らないくせに、適当なこと言うな」


そうだ、あの時の事だって俺のせいじゃない。


――図星を突かれて逆上か? 心当たりがありそうだが……


「黙れ」


胸の奥で、どろりとした何かが渦を巻く。

吐き気にも似た不快感が込み上げる。


――……お前が何を考えているかは知らん。だが、この村のことを思うなら黙って去れ。“余計”な自己満足のために、周りの人間を巻き込むな。


「黙れって言ってんだろ!」


風が強まる。

木々がざわめき、鳥の鳴き声もいつの間にか消えていた。


黒い霧が体を覆うように、怒りか焦りかもわからない感情が湧き上がってくる。


黒い霧が体を覆うように、怒りか焦りか、自分でも分からない感情が溢れ出す。


もう……どうだって――


「ユウト!」


名前を呼ばれ、はっと振り向く。


リリナがこちらへ駆け寄ってきていた。

柔らかな金髪を揺らし、目の前でぱっと笑う。


「よかった、ここにいたのね! あのね、今日の晩ごはんはウサギのシチューなんだって! お兄さん、シチュー好き?」


「あ、ああ……」


気づけば風は止み、黒い霧も消えていた。

魔王の声も、もう聞こえない。


「元気ないね? どうしたの?」


リリナが覗き込むように顔を近づける。


その瞬間、霧が晴れたように思考が戻る。

胸の奥に溜まっていた感情が、熱となって広がった。


誤魔化すように、少しだけ視線を逸らす。


「いや……なんか、まだ慣れなくて」


「そっか。でも大丈夫だよ。みんな優しいもん」


「……そうだな」


本当は違う。


少女の優しさに触れるたび、胸がざわつく。


――余計な自己満足に付き合わせるな。


魔王の言葉が、どうしても離れない。


(……夢じゃない)


霧に覆われ、体を奪われそうになった感覚。

あの声は確かに存在していた。


黒い気配は、今も胸の奥に残っている。

どろりとした影のように。


いつまた、体を奪われるのか。

封印とは何だったのか。あの祠は――。


不安は、消えない。


胸の奥で、静かに黒い塊が蠢いた気がした



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