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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Birthday Surprise
345/596

012

「ようやく、か……」


 橘誠一は、背もたれに寄りかかってため息をついた。


 一区切りがついたことによる解放感と、ここまでかかったことによる疲労。


 まるで異なる二つを内包した、深い深いため息だった。


(そのうち原因を作りかねないと思っていたが、これ程とはな……)


 2943に移らせた、天条桐葉の幼馴染。


 すぐに終わるものでないとは橘も感じていた。

 組織の都合で移動させてしまった以上、可能な限り手助けをするつもりでいた。


 しかし現実は、彼の予想通りとはならなかった。


「……こんなことなら天条に受け取りに来させるべきだったか」


 思わず無茶が口から零れ落ちてしまう程に。


 意図せず大きな声になってしまった独り言。

 それは部屋の中だけに納まらなかった。


「桐葉くん、帰ってくるんですかぁ?」

「そんなことは言っていない。無茶を言うな」


 偶然にも聞きつけた篝彩希那が期待交じりに顔を覗かせたものの、橘は一蹴した。


 その難しさを、橘は誰よりも理解していた。

 帰省が容易でないからこそ、天条・綾河両家の様子を天条に細かく伝えていた。


 物理的な距離だけが問題ではないからこそ、せめてと思っていた。


「それより、西明千時はどうした。今日の担当は貴様だっただろう」

「今は休憩してもらってるんです。本人は、もう少しやりたがってたみたいですけどー……」

「だったら休ませておけ。休憩を眺めにとっても構わん」

「分かりましたぁ」


 幸い、小さなトラブルさえ特になかった。


 ある時点までは、頭を悩ませるようなことなど何もなかった。


「それでぇ、桐葉くんがどうかしたんですかぁ? さっき、取りに来させるとか……」

「貴様が気にすることではない。もう済んだことだ」

「? そういうことなら、いいですけどー……」


 教団に関わるようなことではない。


 現状、547内での活動は縮小する一方だった。

 綾河美咲やその周辺が狙われるような事態には至っていない。


 が、しかし、教団との関係が全くないからこそ、余計に橘の頭を悩ませた。


 そんな橘の様子には気付くことなく、篝は続ける。


「そういえば橘さん、知ってますかぁ? 桐葉くん、もう少しで誕生日なんですよぉ、あの子」

「………………貴様もか」


 その発言に、思わず頭を抱えた。


 確かに、おかしな話ではない。

 いろいろと気にかけていた篝がそうするのはある意味、自然な流れだ。


 せめて今このタイミングでなければ――そんな内心を、ため息に変えて吐き出すことで誤魔化した。


「衣璃亜ちゃんと何かあったんですかぁ? 自分でどうにかするって言ってましたけどー……」

「違う。……こちらの話だ」


 余計な詮索をするなという意味も込めて、橘は言った。


 篝に伝えたところで、状況が一変するわけではない。

 天条と個人的に親しいとはいえ、綾河美咲と個人的な面識があるわけでもないのだ。


「あいつも、貴様にそう言ったのなら問題はないだろう。そこまで面倒は見切れん」


 天上衣璃亜についても、橘の方から干渉をするつもりはなかった。


 大がかりなことはしないだろうと、橘は予想していた。

 他を必要以上に頼れば、天条に知られてしまうからだ。


 無論、篝へかけた言葉も気休めなどではなかった。


 素直な関係性とまでは言えなかったものの、比較的意思疎通を行っている方だとさえ橘は考えていた。

 連絡を取ったのもその証拠だ、と。


「私に……どうかなぁ……」


 だというのに、当人はなんとも自信のなさそうな態度だった。


 こうなってしまった原因は橘もある程度は知っている。

 たとえば、彼の管轄外であることがそれだ。


 さすがの橘もそこまでは付き合いきれない。


「そんなに心配なら貴様から確認すればいいだろう。何かこちらの承認が必要であればその時に言え。そうでないなら放っておけ」

「わ、分かりましたぁ……」


 故に、その辺りは篝に一任することにした。


(……誕生日、か)


 どうにも、そういう気分に離れなかった。






「あ、あれぇ?」


 善は急げと連絡した篝の耳に聞こえてきたのは、相手が電話を受けられないことを伝えるメッセージだった。


 午前中とはいえ、そう早い時間でもない。

 頻繁に連絡を取るわけでもないが、このようなことは初めてだった。


「もしかして、繋がらないんですか?」


 篝が首を傾げていると、その様子を奇妙に思った西明千時も近付いてきた。


 ポニーテールを揺らしながら、篝の顔を覗き込む。


「そうなんだよぉ。今日はお休みって言ってた筈なんだけどぉ……」

「あの天条先輩のことですから、トレーニングの最中なのでは? 向こうでも忙しい日々を送っているそうですし」


 実にあり得そうな――本人が聞けば否定しそうな――可能性を、西明は口にした。


 実際、桐葉はそうしているかもしれない。

 今の状況的に、意図してそうしていてもおかしくはない。


 だが。


「今日は桐葉くんにかけたわけじゃないんだよぉ? 確かに、一緒にいるかもしれないけどー……」


 今回の相手は衣璃亜である。


 電話に出られないような状況など、そうそうない。


「……天上さん、でしたか」


 ――その時、西明の様子が、少し変わった。


 どこか淡泊にも思える声で、そう言った。


 その変化には当然、篝も気付いた。


「そうそう、ちょっと聞いておきたいことがあったからぁ。……会ったこと、ないんだっけぇ?」

「いえ、何度か。お話したことはありませんが」


 それ自体は、仕方のないことだった。


 西明が加入してから、桐葉達が移動するまでの時間は長くなかった。


 自ら積極的に関わろうとしない衣璃亜と言葉を交わす機会がなくとも、おかしくはない。


 しかし――西明の変化の原因は、間違いなくそれだけではなかった。


「そんな顔しなくても大丈夫だよぉ。ちょっと遠慮のないところもあるけどねぇ?」

「とてもそれだけには見えませんでしたが……」


 いわゆる普段の姿を見たことがあるのは、明らかだった。


 西明は、以前の衣璃亜を知らない。


 それがいっそう西明の中にある苦手意識を強めてしまっているのだと、篝には思えた。


「そうでもないよぉ? 桐葉くんのことには一生懸命だしぃ、クラスにもお友達ができたみたいだしぃ……」

「……天条先輩に関係のあることばかりですね」


 彼女の認識が全く間違っているとまでは、言えなかったが。


「今回も、天条先輩に関係のあることなんですか? だったら、本人に聞けば……」

「そういうわけにもいかないんだよぉ。サプライズにしたいんだってぇ」

「難しいことを考えますね……」


 その上で、協力したいという思いも確かにあった。


 衣璃亜から頼まれ、篝はすっかりそのつもりでいた。


 だからこそ、一刻も早く連絡を取りたかったのだが……それもできない。


「……本気でそう思っておられるんですよね。きっと」


 ――ふと、西明が何かを呟いた。


「? どうかしたぁ?」

「いえ、気にしないでください。大したことではないので」


 確かめようとしたものの、西明にきっぱりと断られてしまった。


 しかし、篝が食い下がろうとすると。


「それより、天条先輩に天上さんの居場所を確認してもらってはどうですか? もし近くにいるのなら変わってもらえるかもしれません」

「……それもそうだねぇ?」


 その手があった――と、篝は再び携帯電話を手に取った。


 西明に頼まれ、スピーカーに切り替える。

 その時の表情は影になってしまって見えなかったが、それについては後で確かめることにした。


(んー……桐葉くんも忙しいのかなぁ……)


 何度か呼び出し音が鳴るが、出ない。


「あっ……」


 ならば仕方がない、と――諦めようとした時になって、繋がった。


「あ、桐葉くん? お姉ちゃんだけどぉ――」


『すみません、ちょっとタンマで……!』


 しかし、桐葉は桐葉で、とても話ができそうな雰囲気ではなかったのである。


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