011
「しっかし、見つからねーもんだな? もうかなり歩き回ってんのに」
退屈に感じるのはまあ、分からないでもない。
歩き始めてからそれなりに時間も経ったし、景色も代り映えしない。
感覚的にはほとんど散歩だ。
「そう何度も見つけてたまるかっての」
でもそれは、今のところそれらしい動きがないということでもあって。
これまでのことを思えば、退屈なくらいで丁度いいとさえ感じていた。
「いや、教団の連中に好き勝手されても困るけどよ、なんかこう……あまりに淡々としてるっつーか……」
「そんなに暇ならもういっそ、ナンパでもなんでもして来いよ……」
「んなことしたってどうにもなんねーだろ。なんつーことさせようとしてんだ」
「淡々としているのが嫌って言うから」
「だからって吹っ飛び過ぎなんだよ」
同級生に鉢合わせたりしなければなんとか出来そうな気がしなくもない。
顔も悪くないし、ノリもいいし。
問題はこの辺りの人通りがさほど多くないってことくらい。
「っつーか、そこまで言うならオメーがまず手本を見せろよ、手本を。言うだけってのはナシだろ」
「無理。やったこともないのにどうしろと」
「やったことないなら言うなって。俺もねーけど」
……なんて、実際にはやらないって分かっているから言えること。
そういうタイプじゃないことくらいさすがに知っている。
そもそも、そのつもりがあるならこの場所に着くまでの間にどこかで声をかけていてもおかしくない。
順調そのもの。
おかげで、予定より少し早いくらい。
どこかで休んでも、時間的にはまだまだ――
「まあでも、できるわけねーか。さすがのオメーもそこまでの度胸はなさそーだし」
……時間的には余裕もあるし、いいか。少しくらい。
歩いていても座っていても、周りからは普通に喋ってるようにしか見えないだろうし。
ちょっとペースが遅くなっても問題ない。
「度胸ってなんだ、度胸って。やったことがないのはお互い様だろうが」
「つっても、俺とは状況が違うじゃねーか。衣璃亜ちゃんといる時はこれでもかっつーくらい避けてんだし」
「別に避けてない。そんなに警戒していたら、東雲さんや姫宮先輩と話すだけでもアウトになるだろ。最終的には」
異性と話すという括りなら。
そんなことは天地がひっくり返ってもない。
たまに姫宮先輩相手に冷たい目を向けることもあるけど。
ただ、姫宮先輩の場合。
「東雲はともかく先輩と話す時は一人になろうとしてんだろ。この前とか」
「姫宮先輩は姫宮先輩だからだよ」
「先に名前出したのオメーだったじゃねーか」
「それとこれとは話が違うし」
あの人の場合、男子でも女子でも関係ない。
内面――というか、言動が同じならほとんど変わらないと思う。
五十歩百歩的な意味で。
「っつーか、オメーの方が大概だよな。先輩とだって、オメーの方から声掛けに言ったんだし。むしろやりそうなのオメーじゃね?」
「おいヤメロ。衣璃亜に変な誤解されたらどうしてくれるんだよ」
「んな心配しなくたっていいだろ。オメーが衣璃亜ちゃんに隠し通せるわけねーんだし」
「失礼な」
「事実だろうがよ」
「うるせぇやい」
自分でもそうだと思うよ。
それでも、たとえ小城でも他の誰にも言われたくないだけで。
今回、付き合ってくれている小城にはもちろん感謝している。
でもそれとこれとは別問題。
「まぁ気にすんなって。オメーだけの問題じゃねーんだから」
「ああ、確かに。情報提供者がいるかもしれないし」
「こっち見ながら言うなって。冤罪吹っ掛けんな」
「いやいやまさか、そんなつもりはこれっぽっちも」
そんなことをしなくてもイリアなら気付くと思う。
名探偵も顔負けの洞察力で見抜くと思う。
……そもそもやるつもりなんてないんだけど。最初から。
「けど、相手の考えてるコトなんでもわかるって逆に不便そうだよなぁ。実際、オメーもそれで出掛けることになったようなもんだろ?」
――それが分かっているからか、飽きたからか……小城の声の調子が、少し変わった。
「別に何もかもわかるわけじゃないんだって。具体的なところは分からなかったりもするし」
ただ、小城が心配しているようなことはない。
そこまで行ってしまうとかえって余計なトラブルになりかねない。
美咲だって、1から1000まで一つ残らず――なんてことはないと思う。さすがに。
「俺もイリアに何もかもを把握されてるわけじゃないし。その気になれば、ちょっとくらい――……」
「そりゃ無理だろ」
……この野郎、人が言いきる前に断言しやがった。
俺なりに真面目に返そうと思っていたところに言ってくれやがった。
「オメーさすがにそりゃ無理だって。いつものコト思い出せよ」
「ぐぐぐ……」
反論しづらいのが本当に厄介。
実は家では、なんてこともない。
少なくともそういう方面では、これっぽっちも。
「いいじゃねーか。すぐバレるって分かってりゃいざって時に自制もできるんだしよ」
……人が黙っているのをいいことに、言いたい放題言ってくれやがる。
今のこの状況どう見ているのか、分かりやすいくらい態度に出していやがる。
下世話なニヤけ顔とか。
「特にオメーは突っ走っちまうトコもあるしよ、ほどほどにしとけって。なぁ?」
「それで毎回俺が大人しくなると思うなよ」
「そこは大人しくするトコだろ。そういうとこだよ」
「時と場合による」
「にしたって今はその時じゃ……おい、止めろよ? マジ止めろよ?」
なんて、別に怒っているわけでもなんでもない。
今に始まったことでもないし、このくらいはいつものこと。
お互い様みたいな部分もあるから、気にしてない。別に。全然。
「大丈夫、公衆の面前だってことはちゃーんと分かってるから」
「俺が大丈夫じゃなくなるじゃねーかよ」
「危ないことはしないって。いくらなんでも」
「見た目がやばく無けりゃいいってもんでもねーかんな?」
俺のことをなんだと思っているのか。
そんな師匠みたいなこと、するわけがない。
いろいろ考えてくれているとはいえ、最終的にはとんでもないところに落ち着かせるあの師匠じゃないんだから。
「っつーか、一方的すぎんだろ。フェアにいこーぜ。フェアに」
「もう一方が却下し続けるだけだろ。そんなことしても」
「んなことねーよ。天条がリーダーとしてどーんと受け止めてくれりゃ丸く収まんだろ?」
「残念、俺はそういうキャラじゃないから」
「まーまー、そう言わずに練習だと思って」
「やる気がないから却下」
受け入れると思ったら大間違い。
誰がそんな条件に頷くものか。




