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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Birthday Surprise
343/596

010

「そ、それで、その……今回は、どんなものを渡そうと思っているの?」


 思い切って、直接訊ねてみることにした。


 衣璃亜の手は未だに止まらない。

 作業の遅れを取り戻そうとしているかのように、休まず動き続ける。


 しかし決して、動きから繊細さが損なわれるようなこともなかった。


 どれほどまでに心を込めているのか、三凪にも想像がつかない。


(きっと、それだけ、天条くんのこと……)


 そんな衣璃亜が何を贈ろうとしているのか、それが気になっていた。


「目立ち過ぎない程度のアクセサリーを。なるべく身に着けておいてもらいたいのですから」

「え……?」


 ――予想外過ぎる答えに、思わず三凪は耳を疑った。


 金属のパーツらしきものはいくつか見えていたもののの、落とし物か何かだと思っていた。

 まさかそれらが本当に作成過程で必要になるものとは信じていなかった。


「驚くことでもないでしょう。確かに桐葉は、あまりその手のものを身に着けることはありませんが」

「そ、そう。前に出かけた時もそうだったし……それで少し、気になって。学校にも、持ち込めないと思うから……」


 年中身に着けるなど、現実的ではない。


 三凪達の高校の規則は比較的緩い。

 しかしさすがに、アクセサリーを推奨するような条文は存在しない。


「だから目立たないようにせざるを得なかったんですよ。……私としては、誰の目からも分かるくらいのもので構わないのですが」

「さ、さすがにそれは……」


 無理に目立たせる必要などないのではないかと思いつつも、口を噤んだ。


 しかし一歩遅かった。


「難しいと言いたいのでしょう? 知っていますよ。そのくらいのことは。もう言われましたから」

「そ、そう。それならよか――……」


 安堵も束の間。


「い、言われた……?」


 聞き捨てならないフレーズが、三凪に耳へと飛び込んできた。


 姉が忠告したとは全く思っていない。

 衣璃亜が姉だけに相談する姿が全くと言っていいほど浮かんでこない。


 でも、だとしたら一体誰が――……そんな問いに対する答えは、他でもない衣璃亜の口から語られることとなった。


「言われたんですよ。相談した時に。美咲と言えば分かりますか?」

「えっと……天条くんの、幼馴染みの……」


 衣璃亜が頷くのを見て、三凪はやはりと感じた。


 面識はないものの、その人については三凪も多少は知っていた。

 名前を聞いて思わず納得してしまう程度には知っていた。


(そう、だったんだ。あの人が……)


 先日、桐葉と二人で巡回した時のやりとりが蘇る。


 何より、その人のことを思い出す桐葉の姿が浮かび上がった。


 桐葉が信頼しているその人であれば、何もおかしくはない。

 面識があって当然だとすら、三凪は感じていた。


「桐葉に関しては美咲に確かめるのが確実ですから。……さすがに美咲にまで止められてしまっては私も諦めるしかありません」

「そ、そう……」

「えぇ、そうです」


 とはいえ、まさか衣璃亜がここまで素直に言うことを聞く程とは三凪も思わなかったが。


 衣璃亜についても、この一か月で少なからず知ることができていた。

 だからこそ驚きも大きかった。


(綾河、美咲さん……)


 同時に、興味もあった。


 二人の言うその人が、一体どのような人物なのだろうか――と。






「まさかあんなに粘ってるとは思わなかったわ」


 深山静乃は、心底後悔していた。


 未だかつて、一度も抱いたことのない大きな後悔。

 それをまさか、大切な友人である美咲の行動で抱くことになるとは夢にも思わなかった。


 彼女の幼馴染である天条桐葉が相手ならまだともかく。


「分かってる、分かってるよ……うん」


 いつもの明るさなど微塵もない。


 これほどまでに打ちのめされた岬を、未だかつて見たことがない。

 しかし今回ばかりは、申し訳ないなどとは思えなかった。


「よそに行った一年目だからって気合入れすぎなのよ。まさか美咲、天条のボケがなくなっておかしくなってない?」


 もうその日はすぐそこ。


 にもかかわらず、プレゼントに全力で頭を悩ませているとは思ってみなかった。


「静乃ちゃんまで言わなくていいから。そんなこと絶対にないから。きっくんみたいなこと言わないでくれない!?」

「あ、そういうことなら前言撤回。大丈夫でしょ。美咲なら」

「それ絶対本心じゃないよね!」

「んーん、ほんと。さっきのは冗談よ、冗談」


 しかし、美咲がおかしくなるのは何も今回に限ったことではない。


 以前、天条の生活があらゆる意味でおかしくなっていた時もそうだった。

 当時の衝撃を未だに忘れられずにいた。


 当然、天条への文句はあったものの……まさか着信履歴が埋まったところを見せられるとは思ってもみなかった。


「静乃ちゃん、頑なにきっくんと意見を揃えたがらないよね。……疲れない?」

「仕方ないでしょ。本能とか、遺伝とか、そういうものはどうしようもないんだから。美咲にもない? そういうこと」

「きっくんは静乃ちゃんの何なの……」

「え、敵」

「そこ即答するところじゃないよね!?」

「大丈夫よ。美咲の前で揉めたりしないから」

「違うからね。そういう問題じゃないからね!」


 最終的にはあれもこれも、冷静になればなるほど元凶である天条に対する不満へと変換された。


 そもそもこのような事態になったのも、天条が高校進学の際に引っ越したからである。

 両親は今もこの地域にとどまっているのに、だ。


「そう言う美咲こそ、気を付けておかないとやばいんじゃないの。もういっそ捕まえておくとか」

「しないから……。そういうこと言うのはやめてよ、もー……」


 問い詰めたが、結局、真相は分からないままだった。


 連絡こそ取り合っているものの、この前の連休に帰ってくることすらなかった。


「だって美咲、日に日に天条の話をする回数が増えてるし。一昨日なんて10回よ、10回。聞かされる身にもなってよ」

「なんでそんなもの数えてるの!?」


 おかげで美咲はすっかりこの調子である。


「偶然だってば、偶然。その気になったのが一昨日だっただけだってば」

「一昨日じゃなくてもしなくていいって話なんだけど!?」

「具体的な数字を教えた方が分かりやすいでしょ」


 天条について触れた回数というのも、決して出まかせなどではなかった。

 無論、毎日のように計測を行っているわけでもない。


 ……手間だから、意外の理由がないわけではなかったが、それを美咲に言おうという気にはならなかった。


「大丈夫だってば、もー……すぐ変な心配するんだから」

「あんな姿ばっかり見てたら心配にもなるわよ。もうさっさと捕まえに行ったら?」

「そんなことしないからね、絶対に!」


 ――美咲が心配する気持ちも、全く理解できないわけではない。


「場所が分からないってだけでしょ。聞けばいいじゃん。鈴木にでも」

「鈴木君も知らないって言ってたよ? ……分かっても捕まえにはいかないからね?」

「はいはい」


 連絡こそ取れているものの、居場所が分からないのもまた事実。


「それより、どうやって渡すつもり? 分からないなら届けようがないじゃん」

「そこはおばさんがなんとかしてくれるって」


 知っている誰かがいるのは確かだが、その人物がどこの誰かも分からない。


「知ってそうな人にも一通り聞いたけど、駄目だったんだよね。きっくんの知り合いのお兄さんが来ないか、見ていたりもしてたんだけど」


「うわっ……」


 ……とはいえ。


「うわ!? 今うわ、って言った!? ねぇ!」


 美咲が暴走しかけているのも、また事実。


「気のせいでしょ。私がそんなこと言うわけないじゃん。美咲に」

「言ったよね。さっき思いっきり言ってたよね!? そんなおかしなことした!?」

「あ、自覚ないんだ……」

「そこまで言う!?」


 妙な悪寒を気のせいだと片付けることは、できそうになかった。


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