009
「――んで、実際んトコどこまでわかってんだよ? 天条は」
どこかのタイミングで言われるだろうと思っていた。
巡回を始めてから大体30分。
予想より少し早いけど、そのくらい。
小城なら絶対に聞いてくると思っていた。
とはいえ。
「それを答えたらこの組み合わせにしてもらった意味が跡形もなく消え去るから却下」
「んな大げさな」
「大げさに思われるくらいで丁度いいんだよ」
どれだけ不思議に思われても、こればかりは譲れない。
小城の口から伝わってしまいそうだから、というわけではなく。
「けど、オメーが衣璃亜ちゃんから離れるって相当じゃねーかよ。やっぱあんだろ。何か」
「小城までそんな東雲先生みたいなことを……」
「言われたのかよ」
「言われたんだよ」
しかも朝、電話をして早々に。
自分でもらしくない頼みだとは思っていた。
まさか先生からあんなことを言われるとは思わなかったけど。
まあそれはひとまずいいとして。
「真面目な話、俺が起きている間にできないことがあるのは分かるよ。さすがに。熱心にやっていたみたいだし」
「とか言って、どうせほんとはもっと分かってんだろ? ったく、強情なヤツ……」
「無理に聞き出せるかっての」
できるわけがない。
そんな態度が強情に見えるのならこの際それでもいい。
確かに自分でも否定しきれない。
「つっても、普通は気になったりするもんだろー? それなのにこれって。オメーそういうトコは厳しいよな。マジで」
「……言う程か?」
「だから言ってんだって」
ここまで言われるようなことだとは思っていなかったけど、仕方がない。
小城なら少しくらいは共感してくれるかも、なんて期待もしていたんだけど。
……他の要因が大きすぎるのか。
「うっかり見ちまわないようにするなら、オメーが部屋に残ってもよかったじゃねーか。当番の代わりを引き受けることねーだろ」
「その辺りは拠点に残る人数とか、他にもいろいろ。家でくつろぐのもどうかと思うし」
「……今のオメーが一人で部屋にいても絶対くつろげないだろーぜ」
「はは、言えてる」
「笑うトコじゃねーから」
からかうような雰囲気はなかった。いつもと違って。
「…………よくやるよなぁ……マジで」
むしろ、それでいいのかと――試されているような気分だった。
「衣璃亜ちゃんのことが心配で心配で仕方ないっつーのも分かるけどよ。いいのか? こうも離れちゃ分かるもんも分かんねーだろ」
小城なりに心配してくれているのは、俺も分かる。
それも多分、この前から。
二人以上で行くようにと東雲先生に言われた時もそうだった。
自分が行く、なんて言ってくれたのも多分それが理由。
ただ、分かる・分からないに関して言わせてもらえば。
「分からないからいいんだよ。いつもならすぐに分かることも分からなくなるから」
――少しだけ、小城も勘違いしている。
今のこの状況に、そういう心配はしていない。
俺にとってはむしろ都合がいいくらい。
「イリアの邪魔にもならないし、逆にイリアが一人になることもない。それ以上のことまで思い通りにしてやろうなんて無理だよ。いくらなんでも」
少しでもいい方向に進めようと思ったら、このくらいじゃないと足りない。
あの時点で実行できそうなアイデアの中で、一番無難だったのがコレだった。
おかしな手違いが起きることはまあまずない。
何かあれば、ほぼ間違いなく情報が入ってくる。
「それ以上のことってなんだよ?」
「それ以上のことはそれ以上のことだよ」
ただ、深く突っ込まれても答えられない。
別に言葉にもできないような何かがあるわけじゃない。
……自分の中でも具体的にどういうものなのかまるでまとまっていないだけで。
「何も隠すことねーだろ。ちょっとくらい教えてくれたっていいと思うぜ? 俺とオメーの中じゃねーか。なぁ?」
「それでも俺はよくないと思う。よって却下」
「んな横暴認められるかコラ」
「だったらそっちの要求が通るわけないだろ、おい」
小城もわざわざ聞き出そうとしなくてもいいだろうに。
そもそも話せるようなことがないんだからどうしようもない。
もしあっても今の小城には教えないけど。絶対に。
「ほんっと、衣璃亜ちゃんが絡むとすーぐコレだもんなぁ。オメーもオメーでいい勝負じゃねーか」
「誰とだよ」
「言わせんなよそんなこと」
さっきまでの真面目な雰囲気はもうほとんど感じない。
良くも悪くもいつも通り。
もうそういう時間は終わりにしたらしい。早いなんてものじゃない。
「大切な人だからって、やり過ぎたりするなよなー? 後でどうなっても知らねーぜ?」
……上等。
ニヤニヤ笑いやがって。この野郎。
どういうつもりか知らないけど、黙っていると思ったら大間違い。
「ごめん、小城……。イリアと同じようにと言われても、それはちょっと……」
「んなこと言ってねーよ。捏造すんなよ。後であることないこと吹き込んでやろーか?」
「どうぞどうぞ。十中八九、小城が自分の首を絞めるだけ絞めて終わるだろうから」
イリアの耳に全く入らない、なんてことはないだろうし。
なんなら小城から積極的に話に行きそうだし。
それが実際にはとんでもない落とし穴なんだけど。
「…………おい、それって」
さすが、察しがいい。
「さあ? 俺はあくまで予想を立てただけだから。実際にはどうなるかわからないし」
「嘘つけその顔オチまで見えてんだろ!」
挙句の果てにオチ呼ばわり。
「いやぁ、さすがに師匠や橘さんもそこまではできなかったし。俺なんて全然」
まさかこうも分かりやすいなんて。
昨日も何かあったみたいだし、何かしらの反応はあるだろうと思っていたけど。
「衣璃亜ちゃんのことに関しちゃオメーの予想が一番正確なんだよ! 困ったことにな!」
「困ったことに、なんて言われても。付き合いが長いのは本当のことだし」
「だからって変なトコで結託すんなよ。オメーらのコンビ一番始末に負えねーんだよ、マジ」
「失礼な」
自然とそういう流れになるだけなのに。
別に示し合わせてるわけでもなんでもない。
イリアに頼んでそうしてもらっているわけでもない。
「それにほら、東雲さんや先生の時もあるじゃん? そういうことだよ」
万一そんなことを頼んでも断るだろうし。イリアも。
「なんで俺ばっか不利スタートさせられなきゃなんねーんだよ。おかしいだろ!?」
「余計なことを言うからだよ」
それに関してはもう、一部を除いて小城の自業自得としか。
実際、俺たちが何もしなくてもそういう感じになったことは多々あったから間違いない。
「納得いかねぇえええー……」
本人はこれっぽっちも納得してないけど、それが現実。
俺に文句を言われてもどうしようもない。
別に小城ばっかりというわけでもないんだし。
……あまり本来の役目を後回しにしていると、俺も怒られるだろうし。




