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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Birthday Surprise
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007

(……桐葉も、困ったものですね)


 もう少しくらい素直になってくれてもいいでしょう。


 私もあのような脅迫がしたいわけではありませんから。


(あれとのやり取りで露呈しなかっただけ、ひとまず良しとしておきましょうか……)


 少しばかり怪しい部分もあったようですが、過ぎてしまった以上はどうすることもできません。


 桐葉もあの様子からして言葉通りに受け止めたでしょう。


 ……あれなら本気であのようなことを言いかねないのはこの際、目を瞑るほかありません。

 考えたところで損にしかなりませんから。


 ただでさえ今は時間がありません。

 後回し、いえ、忘れ去っても問題はないでしょう。


「んっ、んぅ……」


 ……テーブルの方ばかり見ていたせいでしょうか。この身体の凝り方は。


 普段とは明らかに違うこの感覚。

 ここのところ少し時間を割いていましたから、おそらく、そのせ――……


「ぁっ……」


 何故、でしょう。周りが、暗く――






「――ッ!!?」


 跳ねるように、衣璃亜は起きた。


「い、イリア……? どうした?」


 普段の彼女からは想像もつかない振る舞いに、桐葉は顔だけ覗かせおそるおそる声をかける。


「――――…………」


 偶然、桐葉と衣璃亜の目が合ったその瞬間。

 絶望にも似た何かを、桐葉はその目に見た。


 しかし逸れには触れず、ドアの方へと半歩退く。


「み、み……」

「み?」


 火を止めキッチンから離れてもなお、衣璃亜は桐葉との距離を詰めようとした。


 桐葉がドアの方へ逃げると、それより僅かに距離を詰めた。


「み、見ま、見ままっ――見ましたか……っ?」

「見たって、何を……」


 その表情はいつになく焦りに満ちていた。

 桐葉にはそうとしか思えなかった。


 凄まじいまでの慌てよう。


 記憶を取り戻す前――正確には、中学校での戦いが起こる前――でさえ、おそらくなかった。

 思わずキリハがそう感じるほど、衣璃亜の様子は奇妙なものだった。


「ですから、あ見たでしょう。見ていないなどと、嘘をつく必要などありません。移動させてくれた時に、テーブルの上で、アレを……っ」


 自らが横になっていた布団を震える指でさしながら、たどたどしく話す衣璃亜。


 その表情は必至そのものだった。


「テーブル……」

「え、えぇ。そうです。いつも使っているあのテーブルです。寝かせてくれたことにはもちろん感謝していますが、嘘だけは――」


「と、言うと……あの白い箱?」


 絞り出すようにそのひと言を桐葉が発すると、彼が昨夜見つけた小箱の白のように衣璃亜の顔から血の気が失せた。


「ぁぁ……そうですか。やはりそうでしたか……。そういうことなら、仕方がありませんね……」


 言葉とは裏腹に、衣璃亜はひどく落胆していた。


 仕方がないと諦めをつけたものの振舞いからは、明らかにかけ離れていた。


「あれだけ気を付けるように言っておきながら私自身が……。これでは何も言えませんね……」

「はっ?」

「いえ、気にしないでください。こちらの話ですから」


 流していいものとは思えなかった。

 思えなかったが、ひとまず桐葉は触れないことにした。


 衣璃亜の表情を見た後では、そんなことまで気にしていられなかったのだ。


「――俺が見たのは、その箱だけだよ」


 酷く落胆した様子の衣璃亜のことを黙ってみているなど、桐葉にはできなかった。


「イリアにとって大事なものだってことは、なんとなく分かったし。そもそも、暗くて中身まではよく見えなかったから」


 その言葉は、慰めの嘘などではなかった。


 衣璃亜に対して嘘をついたところですぐに気付かれてしまう。

 そんな確信にも似た予感が桐葉にはあった。


 そうでなくとも、桐葉自身、衣璃亜に下手な嘘はつきたくなかったのだ。


「衣璃亜に布団へ移ってもらった後はもう、そのまま。隅の方に寄せておいたから、多分――」


 自身の言葉など、最後まで聞こえていなかったに違いない。


 飛び込むような勢いで陰に消えた衣璃亜を見た桐葉は、ふとそんなことを考えた。


(……やっぱり、よかった。気を付けておいて……)


 密かに、安どのため息をつきながら。


 昨夜、桐葉が目を覚ましたのは全くの偶然だった。

 普段であればまず間違いなく起きることのない時間に、ふと目が覚めた。


(隠そうとしてるものをわざわざのぞき見しようとするなんて、さすがに趣味が悪いし……な)


 その時と全く同じ感想を、しかし今度は声に出すことなく頬を緩めた。


 箱の中身が気にならなかったわけではない。

 その気になれば、確かめることはできた。


「ほっ……」


 その上で、桐葉はあえてそうしなかった。


(……あの表情に代えられるかっての)


 安心しきった様子のイリアを一目見て、桐葉は再びコンロに火を灯す。

 衣璃亜も起きてきた今、温めを止める理由もなくなった。


(……あまり、無理はしてほしくないけど)


 空も明るい7時前。


 こんな時間まで衣璃亜が眠り続けることなど、滅多になかった。


 朝は決まって桐葉のトレーニングに付き合っていた。

 休日だろうと、起きる時間は決して遅くなかったのだ。


「分かっていますよ。私とて、同じ過ちを繰り返すつもりはありません」

「……だからまだ何も言ってないって」

「えぇ、勿論。それも分かっていますよ?」


 そんな桐葉の思考を断ち切ったのは、他でもない衣璃亜だった。


 白い箱など何一つ知らないとばかりに、普段通りの表情で柱に寄りかかっていた。


「分かってるなら今日くらいは休んだ方がいいって。ここのところ働きっぱなしだったんだし」

「心配してくれるのはありがたいですが、何も問題はありませんよ。えぇ、しっかりと休ませてもらいましたから」

「あれっぽっちで足りるかっての」


 夜中に桐葉が気付いてから、今この瞬間に至るまで。


 桐葉が言った通り、衣璃亜は特別長い睡眠をとったわけではない。

 先日の試合も含め、ここ最近の活動で蓄積された疲れを癒すにはとても足りない。


「そうは言いますが……あなたのことです。私一人をこの部屋に残してどこかへでかけるつもりはないのでしょう?」


 しかし衣璃亜は、桐葉の提案にすぐさま頷こうとはしなかった。


 誰よりも拾う具合を正確に把握していながら、首を縦には振らなかった。


「私のために、というのは嬉しい限りですが……そう都合よくはいかないでしょう。特にあなたはいつ呼び出されるかもわからないんですから」

「その辺りも大丈夫。そのくらい頼めば融通してもらえるから。多分」

「……このアパートの備えが万全、とは言わないんですね」

「否定はしない。組織の人には悪いけど」


 衣璃亜を一人残していこうなどとは、最初から考えていなかった。


 普段通りであればまだしも、万全でない衣璃亜を残すな桐葉には考えられなかった。


「だから、というわけじゃないんだけど」


 しかしながら、何も考えていないというわけでも――勿論なかった。


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