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(上手く……上手く、できた……今度こそ……)
画面を食い入るように見つめ、三凪はまたも安堵のため息をついた。
映し出されているのは今日――繰り返している内に昨日となってしまったが――の様子。
相手に手玉に取られることなくやり遂げた試合の様子だった。
自身を含め、様々なアイデアを出し合った上で臨んだ今回。
誰一人脱落することなく――という目標こそ達成できなかったものの、十分な手ごたえを感じていた。
注意をひきつけ、一気に押し切る。
少しばかり強引さのあるやり方ではあったものの、それが最善だという結論に至った。
その前提をもとに、各々が立ち回った。
そんな中でも、特に三凪の目を引いたのは。
「天条くん……」
何の偶然か、思い浮かべていたところに彼の姿が映りこんだ。
今回、三凪にとって唯一の心残りが桐葉のことだった。
二手に分かれることは全員が納得していた。
相手に対抗するためではあったものの、最終的には合流も果たした。
しかし。
(やっぱり、こういうところも天条くんが……)
三凪が気にしていたのはそれ以前のこと。
開始の合図が鳴り響いてから再度合流するまでに起きた全て。
桐葉の果たすべき役割が明らかに多いことだった。
(終わった後も、天条くんは気にしていなかったけど……これは、ちょっと……)
無論、三凪も自分たちが怠けているなどとは思っていなかった。
そのような考えを持つこと自体、申し訳ないと感じていた。
途中の衣璃亜や宏太の様子を思い出せば、怠けていたなどと感じられる筈がなかった。
桐葉もきっとそう言うに違いない。そんな確信めいた予感があった。
自分に対しては手厳しい言葉を投げかけつつも、きっと。
(……本物を使えたのは一回だけだったのに、ここまで……)
何度見返しても、問題らしい問題を見つけることができなかった。
改善の余地が全くないとまでは、言えなかった。
しかしそれ以上のことを言うこともできなかった。
具体的にどうすべきか、その答えを見つけることができなかったのだ。
(角度? 発射までの時間? でも別に、今の段階でも十分……)
魔法を放つのと同じように、桐葉はそれを操ってみせた。
使いどころが限定されてしまうそれを、ごくごく自然に。
ちょっとやそっとの練習では、こうはならない。
そんな様子を、桐葉は全くと言っていいほど見せなかった。
(時間だって限られてたのに、ここまで……)
罪悪感は一瞬だった。
もし三凪がそこまでさせたことを謝ってしまったとして。
桐葉がその際どのように答えるか、なんとなく想像がついた。
彼に限って、その言葉を肯定する筈がないのだ。
「っ……」
自らの思考に、三凪は思わずはっとさせられた。
桐葉が三凪の目の前ではっきりと言葉にしたわけではない。
ただ自然と、そうであるように感じたのだ。
(……今のが……少しでも分かるようになってきたことの証拠、だったら)
自身の言葉を、何度も頭の内で繰り返す。
(観察は止められたけど、それでも、意味は……)
一瞬だけ顔をのぞかせた願いも広い上げながら。
彼の人物像が断片的なものでしかないことは三凪も重々承知していた。
たったこれだけの期間で全てを知るなど不可能に決まっている。
(これから、もっと……)
あの場で抱いた一体感が、始まりに過ぎないことを三凪は自覚していた。
桐葉との間に限った話ではない。
この2943に集まった一つのチームとしての話だ。
負荷が集中してしまったことを踏まえれば、形になるのもまだ先のことだろう。
そんな予感が三凪の意識を志向の海へと沈めていく。
今、さらなる欲が三凪の中で芽生えようとしていた。
(次は、今日よりも上手く……。もっと、積極的に動くつもりでいないと――)
「三凪」
「っ!?」
しかしそれは、あと一歩のところで引き留められた。
「今日はそのくらいにしておいた方がいいよ。あれだけ頑張ったあとなんだ。しっかり疲れを取らないと動くべき時に動けない」
「……お、お姉ちゃん…………」
扉の陰から姿を現した姉を見て、思わず三凪は安堵のため息をついた。
三凪を見る目は、優しかった。
強引さなどまるでない手つきで三凪を引き戻し、開いたままの扉を指して道を示した。
その手の中には車のキーが、握られていた。
「だ、大丈夫です。もう一回だけ見たら、休もうと思っていたから……」
「今日の復習はもう十分だよ。初めて見るものでもないんだから」
「ま、まだ5回だから……。それに、最初から最後まで通してみているわけじゃ……」
「それでもだ。この部屋に来てからずっと見続けていたんだろう。動きの少ない部分を省略しても、短い映像じゃないからね」
内容的にも、三凪が飽きを感じるようなことはまるでなかった。
気を抜いていい瞬間など、三凪にとってはほとんどなかった。
些細な動きの中にも手掛かりがあると信じて疑わなかった。
故に、どうしても済ませておかなければならない仕事があるという姉について拠点まで戻ったのだ。
それもこれも、待っている時間を利用するため。
今回の模擬戦の経過を再確認したいがための行動だった。
「本格的なものは皆に集まってもらってからでも遅くはないよ。そっちはそっちですでに予定を組んである」
「そ、そのことは知っています。その、次のミーティングでもちゃんと見るから……」
「そこは疑っていないよ。最初から」
個人的に確認しているだけだという主張も、姉には通らなかった。
複数回、それも時間いっぱいに見ていたために、それ以上の視聴は許可が下りなかった。
「そうまでして確かめなくてもいいんだよ。ましてその日の夜にだなんて。三人ともきっと休んでいる筈だ」
「そ、それは……」
チームメイトのことまで出され、三凪の意思も微かに揺らぐ。
三凪が一人起きて再確認していたと知れば、心配されてしまう。
押し付けることをよしとしない彼らであれば、間違いなく。
「それにね、三凪。皆が言っていたことを、よく思い出してごらん? 感謝と賞賛がほとんどだった筈だ」
最後の後押しとなったのは、姉の言葉だった。
実際、慰めのウソなどではなかった。
瞼を閉じればその時の光景を三凪は鮮明に思い出すことさえできた。
ただ、『ほとんど』の中に含まれない――たとえば、いつもと変わらない雑談――については、姉も何も言わなかった。
全く関係のないものだったのだ。この場においては。
「……よく頑張ったね、三凪。今日はもう、ゆっくりお休み」
「う、ん……」
そのまま、姉の言葉に誘われ――三凪の意識は深く、明かりのある方へとと向かっていった。




