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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
First Match
329/596

046

「マジでいいんすか!?」


 小城の目は輝いていた。


 それはもうキラキラと。

 見てるこっちがまぶしいと思うくらいには。


「皆これまでとても頑張っていたからね。これはちょっとしたご褒美だ。好きに食べていいよ」

「ゴチになりまっす!」


 小城のこの喜びよう、東雲先生の予想は大当たりだったらしい。


 俺だって嬉しくないわけじゃないけど。

 全身で喜びを表してそうな小城の勢いにはさすがに負ける。


 小城も組織のアパートで暮らしてるわけだし、金銭的にも入り浸れるような場所じゃないのは分かる。


「確かに……そう来られる場所ではありませんね」


 焼肉屋なんて、地元で家族と行ったきり。

 二家合同で行くことも多かったっけ。


「本当にありがとうございます、東雲先生。こんないいところに連れてきてくれて」

「お礼は食べ終わってからでいいよ。ほら、天条君も天上さんも。早くしないとなくなってしまうから」

「ほーほー、はひゃふふへっへ!」

「食べながら喋るなっての」


 いつの間に焼いていたのか、小城は我先にと頬張っていた。


 なんて手の早いやつ。さすが、この状況を誰よりも喜んでるやつは動きが違う。

 早く食べろと言われても、ちょっと小城には勝てそうにない。


 それでも種類やら量やらを見つつ選んでるあたり、らしいというかなんというか。

 今の東雲先生なら追加注文もどんとこい、なんて言いそうなものだけど。


「でも、その……お姉ちゃん、本当に大丈夫……? 全員分って……」

「三凪もそんな心配しなくていいんだよ。さあさあ、好きに頼んで」

「で、でも……」


 少しらしくないから、東雲さんが心配するのもちょっと分かる。


 今東雲さんが言ってくれたけど、それこそお代とか。

 五人分となるとそれなりの金額になるだろうし。


(……焼肉屋に行くって先に言ってくれたら持ってきてたんだけどなぁ……)


 橘さんが人の口座にいつの間にか突っ込んでくれたやつを。


 俺とイリア、二人分ならそれこそポンと出せそうな額が何故か入れてもらったことだし。


 本当に変なところで甘いんだから。

 まさかあの時のベビーリング分を返しても普通に余裕があるなんて。


 どう考えても生活費だけじゃない。絶対にない。

 俺の金銭感覚を狂わせる気か、あの人は。学生バイトも真っ青だぞ。


 ……さすがに橘さんの一存で決まったことではないんだろうけど。実際には。


「――んくっ。そんな心配すんなって。いざとなったら天条がせんせの評価爆上げしてくれっからよ。なぁ?」

「人任せにする気かこの野郎」

「そういうつもりなら今日の焼き係は一人でやってもらいましょうか、あなたに」


 小城の言いたいことは分かるけど。

 俺たちが変に遠慮をしたら東雲先生も複雑だっていうのは分からなくもないけど。


「おいおい、どーした。天条も衣璃亜ちゃんも今日は優しいじゃねーか。さてはオメーらもテンション上がってんな?」

「「どういう意味だ(ですか)」」

「いつもならもっと容赦ないこと言うじゃねーかよ」


 まったく小城も失礼なことを言ってくれる。


 容赦がないなんて、そんな。

 焼く係に専念するのも言うほど楽なことじゃないのに。


 まあそれはそれとして。


「東雲先生、お冷頼んでもらってもいいですかね? なんか雰囲気だけで酔ったやつがいるので」

「そんなことをしなくてもあなたなら出せるでしょう。水くらい」

「さ、さすがにそれは……」


 人前で魔法なんて使えない。


 まして酔いを醒まさせるためだけに、なんて。

 橘さんや師匠に知られたら今度は縛り上げられてもおかしくない。


「宴会芸で誤魔化し通すのも難しいからね。止めた方がいいと私も思う」

「えっ……」

「そういう問題でもないと思うんですけどね?」


 東雲先生……。


 妹さんから、信じられないものを見たような目を向けられても何のその。


 一部を除いて真っ当な人なのに、どうしてまた今日に限って。

 勝って調子がいいのも分からなくはないけど。


「その、東雲さん? ちょっと失礼かもしれないけど、先生って……お酒……」

「あ、えっと……確か、そこまで強くは……。でも、あのくらいの量なら別に……」


 東雲さんと二人、運ばれてきてしばらくたったグラスに目を向けた。


 種類なんて詳しくないけど、一発で酔うほどのものじゃない筈。

 東雲先生が追加で頼むところも見てない。


 ……もういっそ、酔ってくれていてもよかったのに。これなら。


「皆も肩の力を抜いてくれていいんだよ。祝勝会でもあるんだから」

「それはもちろん。どうせなら楽しい雰囲気のまま終わりたいですし」


 だからもう少し落ち着いてくれませんかね――そんな思いは、東雲先生には届いていないようだった。


 お肉は美味しい。


 こんなところに連れてきてもらったことには感謝しかない。


 イリアだって、さっきから口数が減りっぱなし。


 さすがに小城ほど早くはない――……いや、早くても困るか。


「はふっ、ふへっ、ほふふっ!」

「落ち着け、落ち着けって。心配しなくても取らないから」

ふはほほ(んなこと)ひひははふへっへ(いいからくえって)!」

「とにかく落ち着け。喉詰まるから」


 さすがにそれはシャレにならない。


 小城一人だけで三人分の皿を丸々平らげてしまいそうな勢い。

 それでも独占しきらない辺り、なんともらしいというか。


 さすが、育ち盛りの男子は食べる量が違う。……俺もか。


「次、イリアはどうする? 今はまだどれもあるけど」

「勿論あなたと同じもので」

「ん、了解」


 イリアもやっぱり、本当にリラックスしていた。


 何が勿論なのかはもうこの際気にすることじゃない。


「おいおいなんだー? 俺に任せるとか言って、やっぱそっちの方がいいんじゃねーの? なぁ?」


 ……いい匂いをまき散らしやがって。この野郎。


 肉とタレの香りが正面からかすかに漂ってくる。

 小城がしっかり口を押えていても、皿やから焼き網から。


「鼻の穴に氷詰めるぞ酔っ払い」

「酔ってねーよ!?」

「酔っ払いとやらは口を揃えてそう言うと聞きましたが」

「違うかんな。そもそも飲んでねーかんな!?」

「だったらもう少し落ち着きなさい。本当に水を浴びせますよ」

「飲ませるんじゃなかったのかよ!?」


 まさか。そんな。


 お店に迷惑をかけない程度にうまくやるとも。そのくらい。


「ほらほら、落ち着いて。小城。今はまだ向こうの人たちが賑やかだからいいけど」

「な、納得いかねぇええー……」


 唸り声をあげるくせに、ちゃっかり肉は口に運んでいらっしゃる。


 ……気を抜いていたら本当に平らげそうだな、小城。


「そこはあれだよ。小城のハイテンションっぷりにはさすがに負けるというか、そういう感じ」

「そんなトコだけ勝ってもな」

「じゃあお肉を食べるペースも追加で」

「とかいいつつオメーも食ってんじゃねーか!?」

「それはもちろん」


 俺だけ食べないなんてわけにもいかないし。食べたいし。


「あなたまで結局騒がしくしているではありませんか」

「ふ、二人とも、落ち着いて……。お肉ならまだ、こっちにもあるから……」

「「いや、それは東雲さんの分」」

「わ、私……?」


 さすがにそこまではしない。


 小城とはほんの少し取り合ったりするかもしれないけどそれはそれ。

 いざとなったら追加を注文させてもらえばいいんだし。


「今日の勝利の立役者なんだからよ、どーんと構えてりゃいいんだって」

「そうそう。焼くのはこっちに任せておいて」

「さ、さすがにそこまでしてもらうのは……」

「いいじゃないか。今日は天条君と小城君に任せても」

「じゃ、じゃあ……お願いします……?」


 ――そう。


 その日の夕食はいつも以上に豪華で、そして、賑やかだった。


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