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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
First Match
312/596

029

「天条くん……その、どうして私のことを……?」


 悩みに悩んだ結果、口から出たのは外に出てからずっと抱いていた疑問だった。


 何か他にあるのではないかと、三凪は密かに身構えていた。

 しかし待てど暮らせど、一向にそれらしい変化は訪れないままだったのだ。


「さっき言った通りだよ。東雲さん的には、あまりいい気はしないかもしれないけど」

「別に、そんなことは……。私も、同じようなことは思ってたから……」


 その問いに、桐葉はゆっくりと首を横に振った。


 桐葉が口にした理由には三凪も納得していた。

 そのことを不満に思うようなことも、当然なかった。


 どうしてもそれだけとは思えなかっただけで、抵抗感は全くと言っていいほどになかった。


「だったら話は早い。俺も知りたかったんだよ。東雲さんのこと」

「わ、私の……?」

「そう、東雲さんの」


 それでも、桐葉は念押しするようにそう言った。


 手入されることなくのびてしまった雑草をかき分けながら。

 しかし顔だけは三凪の方をしっかりと向けて、そう言った。


「で、でも、そんな……私のことなんて、言われても」

「ああ、そんな固く考えないで。話せる範囲のことでいいんだけど……どう?」

「話せる、こと……」


 そんな桐葉の態度に、意図せず釣られ――気付いた時には、三凪もその気になっていた。


(面白い話とか、そういうのじゃなくて……でも、あんまりつまらない話だと……)


 その気になっていたからこそ、悩まされた。

 いくら『固く考えないで』と言われても、それをそのまま有言実行できれば苦労はしない。


「好きなものとか――あとはそれこそ、ちょっとした趣味とか。黙々と作業するのもそれはそれで寂しいじゃん?」


 訪ねた桐葉はと言えば、一定の距離を保ち続けていた。


 邪魔者をかき分ける手が止まることは、やはりない。

 時折ひと目だけ見て確かめ、すぐさま三凪の方へと視線を戻す。


 寂しいかどうかを気にするようなことではないのだが――桐葉が不真面目に取り組んでいるとも、三凪には思えなかった。


(それならさっきは、どうやって……?)


 ひとつ、新たな疑問が浮かび上がるだけ。


 寂しさを紛らわせるためというのも今一つ腑に落ちない。

 この話をするためと言われた方が、まだ納得できた。


「あ、姫宮先輩みたいにインタビューしようなんて思ってないから。そこだけは安心して?」

「そ、そう……?」


 何よりそんな冗談を口にできる桐葉が、その程度のことで支障をきたすとは思えなかったのである。


 ことあるごとに名前を出される上級生については、三凪も何も言わなかった。

 彼女に対する苦手意識が消え去ったわけではない。


「でも、姫宮先輩……誰か一人のことをそこまで調べようなんて……」

「ああ、確かに。あの人なら聞く前に一通りのことは把握してそう。ご自慢の情報網をフル活用するなりして」

「そ、そうじゃなくて……」

「あっ、そっちじゃなかった?」


 とはいえそれでも、桐葉のような態度はとれそうになかった。


「それならまあ、あの人のことはひとまず脇にでも置いておくとして」


 おそらく、心から嫌っているわけではないだろうと三凪は自分に言い聞かせる。

 桐葉が例の新聞部長と談笑している姿を見たこともあった。


 ……時として、笑顔に堅い印象を受けることもあったが。


(……もしかして)


 そうして記憶を辿っている内に、三凪はひとつの結論に辿り着いた。


 決して忘れていたわけではない。

 最初は無関係と思っていたために、意識の中から外れていただけだ。


「天条くん、その、もしかしてこの前の……」


 気付いた今となっては、あの執拗なまでの調査のせいとしか思えなかった。


 しかし。


「あ~、あれ。……そうか、このままだと確かにやってることはそんなに変わらないな……」


 桐葉はまるで今思い出したように頷いていた。


 直近の出来事をそう忘れる筈がない。

 彼もまた無関係と考えていたとしか思えない反応だった。


「お返ししてやろうとか、そういうことは考えてないから。本当。……微妙に被るところもありそうだけど」


 それを裏付けるように、桐葉は言う。


(ち……違ったんだ……)


 そのことに、思わず三凪はほっとした。


「…………ほ……ホワイトシチュー、とか……?」


 安心したからこそ、そのひと言を絞り出した。


「小さい頃、お姉ちゃんが作ってくれて……。その、味はもうしっかりとは覚えてないけど……」

「印象に残ってる、みたいな?」

「そ、そう。それです」


 先程までの迷いが嘘のように、言葉が紡がれる。


 これまで誰かに話したことはない。

 ただ、忘れたことのない記憶でもあった。


「お姉ちゃん、学校の勉強の合間に作ってくれて……。私が食べるところも見てくれてて」


 あまりの流暢さに一瞬、三凪は自分の言葉ではないのかと疑ってしまった。


「――その時のこととか、今でも思い出すことがあって……」


 しかしその思い出は紛れもなく三凪のものだった。


 話し出すと、止まらなかった。

 作業も二の次に、桐葉へ語っていた。


 桐葉もまた口を挿むようなことはせず、最後まで三凪の話を聞いていた。


「…………なんか分かるな、そういうの」


 彼がそのひと言を発したのは、三凪が話を終えてから少し間を空けた後のことだった。


「幼馴染と二人で作ったパンケーキとか、そうだったし。味は大失敗だったんだけど」

「だ、大失敗……?」


 桐葉の話に、三凪の意識も自然と吸い寄せられていった。


 懐かしむように、桐葉は当時のことを語った。

 きっかけ自体は大したものではなかった、と。


「一応、親も見張ってくれてたんだけどさ。俺もそいつもその時は変に意地を張っちゃって。なんとか作ってやろうって」


 どこか困ったような笑みを浮かべて、そう言った。


(そういうこと……あるんだ。天条くんも)


 当たり前のことではあるが、三凪にとっては意外な話でもあった。


 言い表すことのできない親近感。

 話を聞いた三凪の中に会ったのは、紛れもなくそれだった。


 その話が、彼について教えてくれるような気さえした。


「……じゃあ、次は俺の番か」


「……え…………」


 そんな時、彼が発した一言は――またしても、小さくない衝撃となって三凪を襲った。


「一方的なのはよくないかなって。俺もできるだけ答えようって思ってるし」


 当の桐葉はといえば、その反応も予測済みとばかりに続ける。


「で、でも、今……」

「ああ、あれは東雲さんの話を聞いてつい思い出しちゃって」


 しかし三凪も、桐葉であればと――そんな気はしていた。


 少しずつながらも、分かった気がした。


「別腹、みたいな? 料理だけに」

「そ、そう……?」


 ……その冗談を口にした意図は、三凪にもよく分からなかったが。


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