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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
First Match
313/596

030

 ――『一方的なのはよくないかなって』


「…………」


 先程言われたその言葉を、三凪は自らの内側で繰り返していた。


 何かが間違っていると感じたわけではない。

 むしろ、桐葉の言葉に心の内では同意していた。


(天条くん、あの後もいろいろ話してくれたけど……)


 少なからず、奇妙な話も紛れ込んでいた。

 なぜそうなったのかと思わずにはいられないようなものも。


 小学校の社会科見学での一幕に、中学一年の学校行事。

 組織と――戦いに関わる前の出来事を、彼は語った。


 彼が自らそう言ったように、三凪のことも訊ねながら。


 そうして三凪は、天条桐葉という一人の人物が重ねてきた時間の一端を垣間見た。


(でも、あれ……そういう意味だけで言ったわけじゃ、ない……?)


 ただ話すだけであれば、あの時聞き返せばよかった。


 三凪が訊ねたその時、訊ねる機会は間違いなくあった。

 それにしっかり答えたかは三凪自身、はっきりしたことは言えなかったが。


(一方的じゃ、なく……)


 あの場では、他に何も言わなかった。

 ひょっとすると彼自身は、それ以上の意味を込めていなかったのかもしれない。


 他でもない三凪自身が、それだけのことだと流せずにいたのだ。


「疲れているなら休んだ方がいいよ、三凪。こっちの手は足りているから」

「お、お姉ちゃん……」


 会議室の静寂を破ったのは、たった今戻って来た姉だった。


 辞書のように分厚い書類を抱えて、部屋へと戻って来た。

 重さに苦心した様子もない。


「そ、それは大丈夫。特に、トラブルもなかったから……」

「だとしてもだ。天条くんが相手とはいえ、二人の調査も楽じゃなかった筈だよ」

「そ、それは……そう、だけど……」

「だろう?」


 桐葉達が返されたのは、組織の指示によるものだった。


 もう少しここに残ると言った三凪を心配して、彼らも一度は残ると言った。

 しかし姉が、それを断った。


 三凪が言おうとした通りの言葉で、三人を説得した。


 逆戻りのようだとも感じつつも、三凪はそうした。

 少し一人で考える時間が欲しかったのだ。


「で、でも、大丈夫。本当。特に、作業もしてないから」

「もし作業をしているようなら止めていたよ。今度こそ皆に怒られてしまうからね」

「み、皆……?」


 作業もしなかったというより、できなかった。

 進められる気がしなかった。


「皆だよ、皆。三人ともだ。どうしてもというなら自分達にも声をかけてほしいと言われてしまったんだよ」

「そ、そんな……」

「言い分は分かるよ。こればかりは彼らの言っていることの方が正しい」


 姉に直接頼み込んだらしい彼らのことで頭がいっぱいになっていた。


「天条君に至っては『こき使うくらいで丁度いいんです』なんて言っていたよ。さすがと言うべきなのかもしれない」

「……それって、547にいた頃の……」

「あの頃はあそこも特に忙しかったみたいだからね。人手はいくらあっても足りなかったと思うよ」


 衝撃的と言う程では、なかったのかもしれない。


 思わず固まってしまうような話はあったが、あの場で彼が語ったのはそのくらい。

 日常の些細なアクシデントでも言うべきものだった。


「それじゃあ、天上さんも……?」

「いや、彼女は別だ。天条くんとはいろいろと事情が違うからね」

「そっか、天上さん……記憶を……」


 戦いに関することは、さほど語ろうとしなかった。


 意図して避けたわけでもなかった。

 そうであるのが当然のように、彼はそれ以外の出来事を語った。


 しかしその中からでも、分かることはあった。


『それでその時、幼馴染が――』


 その人物について彼は、何度も触れた。


『おかげでその後、そいつにメチャクチャ叱られちゃって――』


 桐葉が自身の思い出を振り替える度に、その人物は顔を覗かせた。


『あいつに頼んで教えてもらって――』


 いない方が不自然に思えてしまうくらい、当たり前の存在としてそこにいた。


『だから多分、今頃は美咲も――』


 彼にとってその人がどれほど大切な存在か。それを知るには、十分過ぎた。


(……天条くん…………)


 今の桐葉を桐葉たらしめているものはきっとそこにあるのだと――漠然とながらも、三凪は感じていた。






「んで結局、東雲となに話してたんだよ?」


 ――射撃訓練を初めて早々、そんなことを聞いていた。


 こっちを見ながら撃つおかげで散々な逸れ方。

 ターゲットに掠りもしないのはさすがによろしくない。


「何、って聞かれても。昔話とか? 話せる範囲のことを色々と」

「だったら言えるじゃねーか」

「だから今ちゃんと言ったじゃん」

「そういうのじゃなくてもっと詳しく言えって。詳しく」

「えー……」


 話せと。あれやこれやをここで話せと? 小城に?


 別に面白い話なんてない――とは、言いきれないけど。


 どうしてわざわざこんなところで。

 ついさっきも話したばっかりなのにまた話せなんて。


「私としても気になりますね。私が会う前のことでしょうから」


 ……なんかイリアまで便乗してるし。


 本当に知らないんだろうか。

 知らないならどうして『自分と会う前のこと』って断定できるんだ……?


「ほらほら、衣璃亜ちゃんも言ってるじゃんよ。言えって」

「ぐぐ……」


 ……何この状況。


 小城の外れっぷりを指摘しても誤魔化せそうにない。

 というか、さっきから一発も撃ってないし。


 不満そうな顔をするのはいいけど、そっちは全然よろしくない。

 今回、時間制限もついてるのに。


「何だよなんだよー。東雲に言えて俺には言えないってかー? そういうのよくないんじゃねーのー?」

「じゃあまずはお前が話せ。話はそれからだ」

「オメーが話したら教えてやんよ。苦手なものでもなんでも」

「へぇー……」


 俺が話せば言うのか。小城も。


 こっちの質問にしっかり、余すところなく答えてくれるのか。


 いいことを教えてもらった。

 それならそうと早く言ってくれればいいのに。


「おいコラ。なんだその目は。疑ってんのか。まさか俺のコト疑ってるわけじゃねーよな?」

「まっさかぁ。大切な大切なチームメイトに向かってそんなことあるわけ」

「胡散臭ぇー……」


 いつにもまして失礼な。


 本気で言ったのにこの扱い。

 ちょっとよからぬことは考えていたけどそのくらい。


「ったくよー、すぐワルいこと考えようとやがって。なんか隠さなきゃいけないことでもあるんじゃないだろーな?」

「ないない。これっぽっちも」


 もしあったとしたらお前のそういう態度に警戒した時だよ――という話は、いいとして。


「それに、そういうのは東雲さんが来てからでいいんじゃない?」


 せっかくだから、全員揃っての方がいい。



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