023
『ど、どういうこと……??』
美咲が困惑してるのが、電話越しでもよく分かる。
聞いてもらって言うのもどうかと思うけど、仕方ない。
あんな話を聞かされたらそうもなる。
「いや本当、俺にも何がなにやらさっぱりで。そんなことなくない? って言ってみても全然通じなかったし」
『い、意味わかんない……』
同じ言葉を話している筈なのに、まるで意思疎通ができていないというか。
仮にもチームメイト兼クラスメイトなのに。
教団の連中が相手ならまだともかく。
「普段はそこまででもないんだよ。本当。真面目が過ぎるくらいっていうか……まとも? それが一番しっくりくる感じの人」
『それなのにきっくんのちょっとしたことまでメモしてるって……』
「だから分からないんだよ……。余計に」
これでも少し遠回しに伝えた方。
魔法のこととか、美咲に話せないこと以外でもマイルドにさせてもらった。
……あのメモの内容まではちょっと考えたくない。見てもないけど。
『東雲さんって、女の子だったよね? ……ものにもよるけど、あんまり参考にならない気がするなー……』
「そこなんだよ。あの勢いだと口の悪さまでそのまま参考にしそうで」
『自覚があるならなんとかしなさい』
「それはもう染みついたものだから仕方ないかなーって」
『それでもなんとかしなさい』
……これ以上この話題を続けるのは避けた方がいいかも。
まさかあの東雲さんがそういう方向に進むとは思えない。
橘さんや師匠に向かって、つい言い返すなんて想像もつかない。
むしろ師匠に会ったりなんてしたら、最初はあの態度を見て萎縮しそう――じゃなくて。
考えてみても、やっぱりあり得ない。
これ以上美咲に余計な心配をかける前に切り上げた方がいい。それがいい。
「さすがにそれはないから大丈夫だって。小城も『天条みたいな東雲とか想像もできないどころか寒気がする』とか言ってたし」
『きっくん、普段なにしてるの!?』
……やっべ。
「べ、別になんでも? 全然大したことじゃないけど?」
『想像もつかない、なんて言われたのはどう言う件……?』
「それはまあ……俺は俺で、東雲さんは東雲さんだから?」
話題を変えたかった筈なのにどうしてさらに沈んでるんだ。馬鹿か。
逸らすどころか深堀決定じゃん。こんなの。
『でも今の、そういう意味じゃなかったよね。絶対に違ったよね』
顔が見えなくても分かる。
それらしい言い訳を用意してもすでに手遅れ。
そんなことで誤魔化せるほど美咲は甘くない。
美咲が今あの座った目をしてることくらい、長年の付き合いでよく分かる。
こんなこと分かっても嬉しくないけど。
(……ええい、ままよ)
……どうせ誤魔化せないんだし、もういいや。
『東雲さんのことも気になるけど、さっきの話はどういうこと!? 寒気って何!? 変なことしてないよね!?』
「まっさかぁ。引っ越してきた者同士、仲良くどつき合いしてるよ」
『その言葉からして絶対だめでしょーっ!!』
小城とのことも全く話してなかったわけじゃないのに、この反応。
昨日までの自分を今すぐにでもぶっ飛ばしてやりたい。
責任転嫁だろうがなんだろうが、全力でぶっ飛ばしてしまいたい。
もっと早く言っておけばこんなことにはならなかった――とも、限らないけど。
美咲からも、深山達の話は聞かせてもらってることだし。
特に最近、深山が眠そうにしてる日が増えたとかなんとか。
「駄目とか言われても……話してる内にいつの間にか」
『そんなわけないよね!? 誤魔化さずに話しなさい!』
「別に誤魔化してないんだけどな?」
正直、美咲が思ってるようなものじゃないと思う。
聞けばきっと、拍子抜けする。
向こうにいた頃から悪い方向に進化したわけでもなんでもない。
小城の個人的な情報みたいなものも含まれるから全てを包み隠さず話すわけには行かないけど。
わざわざこんな時間にそんな確認を取るのもむしろ悪いし。
明日になったらうっかり忘れちゃってるかもしれないけど――まあ、それはそれで。
「ただのじゃれあい、みたい。必要があればあっという間に結託、してるよ?」
『……って、衣璃亜ちゃんは言ってるけど?』
……なんとかやり過ごしてやろうと思ったのに。
美咲の声のトーンが、また少し低くなった。
あっという間に美咲と話すときの雰囲気を纏ったイリアの一言で。
イリアがよりにもよって結託なんて言ってくれたおかげで。
話そうとしてももう遅い。
諦めて、三人で話せるようにするしかない。
「ごめんなさい、美咲。割り込みたくなかった、けど……随分困ってるみたい、だったから」
『いいんだよ、全然……ほんとに謝らなくていいから……おかげで助かったから……』
当たり前と言えば当たりまえだけど、根っこのところはいつものイリアそのまま。
口調が、中学に転入してきたころに近付いただけ。
東雲さんや小城が見たら、最初は驚くかもしれないけど。
入り込む直前の一瞬で整えられるなと、つくづく思う。
その気がないわけでもないんだし、美咲にもちゃんと話せばいいのに。
美咲がそのくらいで態度を変えるわけじゃないんだから。
『と、ところでさっきの話なんだけど。衣璃亜ちゃんから見てどう? 東雲さんって人のこと』
「……捕まる、寸前?」
『「やめなさい!!」』
……一瞬、否定できなかった。
大袈裟なのは自分でも分かってる。
分かってるけど、あのまま続けるのは非常によろしくない。
東雲先生のことを抜きにしても、もちろんそう。
二回目だってそこまで先のことじゃないし、俺の観察に時間を使われても……。
試合がなくてももったいないとしか思えないレベルのことなのに。
「今日なんて、ほとんどずっと見てた、から。……あんなに長いと、さすがに危ない……よね?」
『危ないって何!? 衣璃亜ちゃん、一体どんな想像してるの!? ねぇ!』
「…………?」
「首傾げても誤魔化せないから。美咲に見えてないから」
美咲なら察してくれるだろうけど。
それより、問題はそこじゃない。
打ち解けてると思ってたのに、どうしてここへきてそんなこと――
「(目に余るというのは事実でしょう。むしろあなたの方が気を遣い過ぎなんですよ)」
「(誰もそこまで思ってないのに……)」
「(客観的事実を述べたまでのことです)」
「(さすがにそれは無理がある)」
今のは偏見も入ってただろ。さすがに。




