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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
First Match
304/596

021

「…………そうか、今日もなんだね」


 そんなときに限って、東雲先生と鉢合わせた。


 こんないい方したくないけど、運が悪いなんてものじゃない。

 是が非でも避けたかったくらい。


「この状況を見てその一言はないでしょう。何とも思わないんですか。あなたは」

「思うよ。思っているんだ。……こうでもしないと冷静さを保てそうにない」


 冷静さの欠片もない東雲先生に遭遇するなんて、それこそ厄日以外の何者でもない。


「だったらいっそ、自分を手本にするように言ってみたらいいんじゃないですかね。家族とチームメイトなら、家族の方が色々参考にしやすいでしょうし」

「だからこそ、私では駄目だと言われたんだよ」


 悲壮感みたいなものを漂わせてるこの人のことを、一体俺にどうしろと。


 錯乱しているだなんて、さすがに言えない。

 そこまでは言えないけど、お相手したくないことに変わりはない。


 この雰囲気のまま廃病院を歩いていたら、何人かは怯えて逃げ出してもおかしくない。

 そう思うくらいには暗い。


「それから、ひとつだけ間違いを訂正しておくよ。家族でも魔法の適正が大きく変わることは珍しくないんだ。私と三凪みたいにね」

「別に扱う魔法に限定しなくても。俺だって、師匠や橘さんと適性が近いわけじゃないと思いますよ?」


 東雲先生は面識がないかもしれないけど、篝さんとも。


 炎や雷に違和感があるわけじゃないけど、水・風・氷その他もそこは同じ。

 ひとつひとつの差が未だによく分からない。


 あえてひとつだけ挙げるなら……多分、炎だと思う。


 具体的な証拠が手元にあるわけじゃない。

 俺が初めて見た魔法が橘さんの《火焔》だった以外に、理由なんてない。


 師匠レベルになるとそれでもいいのかもしれないけど、そんなのはるか彼方の次元の話。


 俺の前では乱発しないだけで、師匠にも得意不得意は多分ある。

 家事とかそういう方面じゃなくて。


「だけど天条君は、今の時点で風と炎の両方を平均以上に扱っている」

「それは教える人が良かったからじゃないですかね」

「その理屈なら、三凪にも可能性はあるということになるね」


 俺としてはひとまず、この状況を穏便かつ迅速に切り抜けられるだけの話術が欲しいところだけど。


「……それはそうですけど、どうして俺を見ながら言うんですかね?」

「三凪が天条君を見てたからだよ」

「そこはむしろ姉として妹さんを正してくださいよ。お願いですから」


 こんな状態のやつを参考にするくらいなら他の人にした方がいい、とかなんとか言って。


 言い方を間違えたら事態が悪化しそうな気がするけど、そこは先生にお任せするしかない。

 俺が言っても謙遜くらいの認識しか持ってもらえないから。


「……あなたの在り方を模倣しようとしているのなら、姉に何を言われたとしても効果は薄いのではありませんか?」


 まして、それ以外の部分なんてもっての外。


 俺の足の動かし方までメモしてるんだから恐ろしい。

 絶対関係ないのに。そんなこと。


「『模倣』というのはさすがに聞き捨てならないな。私の話の効果が薄いかどうかはさておくとしても」

「『どうしたら桐葉のようになれるか』などと聞いている以上、そういった側面を持っているのは事実でしょう」


 今も東雲先生(おねえさん)のことは後回しにして俺の観察を続けてる。


 今はまだいい。東雲先生が気付いてないから。

 気付いた後のことは考えなくない。どうなるか分かったものじゃない。


「そうだとしても、目標では駄目なのかな。天条君だって神堂さんを目標にしているんだろう?」


 まさに今、東雲さんに関する事でイリアと議論の真っ最中。

 それでも視線が動くことはない。


 気付く余地はないだろうけど、正直そのことにほっとした。


「えぇ、確かに彼はあれを目標にしていますよ。――いずれ打ち倒すべき相手という意味で」

「イリア、その言い方は止めて。違う意味に聞こえる」


 ……けど、それも束の間だった。


「な、なんだって? 打ち倒す? 神堂さんを?」

「違いますから。そういう意味じゃないですから。あいつらのスパイとか想像するだけでも恐ろしいことは言わないでくださいね、絶対に」


 やっぱりというかなんというか、東雲先生は目を丸くしていた。


 547(むこう)にいた頃なら、そう変わった話題でもないんだけど。

 非現実的な冗談として流されるくらいで。


 組織の大エース様の性格とかそういうものを近くで見て、味わったからこそ言えることだった。


「あら、前に言っていませんでしたか? いつかは置き去りにしてみせる、と」

「それ多分、飛行の話。あと打ち倒すとまでは言ってない」

「えぇ、もちろん。よく覚えていますよ」


 接点はあっても、今の東雲先生には刺激が強すぎる。


 イリアだって分かってるだろうに、まるで気にしてる様子がない。

 フリーズした東雲先生が再起動するまで、無関係と言わんばかりの態度を貫き通した。


「さ、さすがに笑えないよ。今の冗談は」

「それに関しては同感です。ギャフンと言わせてやろうなんて思ったって、その前にこっちが空を飛ぶ羽目になるだけですからね。それも何度も」

「……天条君の冗談もね」


 現状を見ればできるわけがないってことくらい、誰にでも分かる。


 将来的にそうなる可能性を危惧したわけでもなんでもない。

 ただただ突拍子のない話を聞かされたせいなんだから。


「いずれにせよ、桐葉の『ように』という考えから改める必要があるのは事実です。……それに関しては、あなたも同意見でしょう?」

「……だったら最初からそう言ってくれるかな。誤解を与えかねないよ。天上さんのいい方は」

「次からは気を付けますよ」


 その原因の一端を作った張本人が素知らぬ顔で話題を戻すというのも、またなんとも。


 きっかけは先生が師匠の件を持ち出したことだけど。


「考える時は、顎に手を当てて……そっちは、右手の方が多い……」


 それにしても、東雲さん……まさか本当に聞こえてないんだろうか?


 今まさに話題の中心にいるっていうのに、全くこっちを見ていない。


 ……とりあえず、そういうところからどうにかした方がいいのでは??


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