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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
First Match
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020

 どうしても、恐れが先行してしまう。


 三凪は、怪物に襲われたことで[アライアンス]に身を置くようになったわけではなかった。

 姉である二葉が気付いたことで、三凪は自らが魔力を宿していることを知った。


 だからこそ、三凪もまた期待した。

 大切な姉の助けになることを願っていた。


 ――当初、二葉は三凪の加入を強く反対していた。


 その理由を三凪が知ったのは、加入後もなくのこと。

 最低基準を軽々超える数値を記録してしまったことを悔やんだのも、その時だった。


 黒い体の怪物と、それを操る白い外套をその身に纏う者達。


 何もかもが、三凪の常識からかけ離れていた。

 あり得ないとしか言いようのないことを、彼らは平然とした様子で繰り返した。


 何より、そうした者達と相対する姉の姿が三凪にとっては衝撃的だった。


 家では時に優しく、時に厳しい姉だった。

 それらがどちらも家族の愛情から来るものだということを、三凪は知っていた。


 両親が不在がちだった三凪にとって、姉である二葉は誰よりも近く、温かな存在だった。


 その二葉が、三凪にとっての非現実的な存在と戦いを繰り広げていた。

 彼らとよく似た力を、当然のように行使していた。


 その衝撃を三凪が忘れたことは一瞬たりともない。

 数年が経過した今でさえ、完全に受け止め切れたわけではなかった。


 僅かな理解も、同じ環境に置かれて思い知らされたからこそものだった。


 教団の行動を放置しておけないという認識は、三凪も組織と同じだった。

 数々の騒動を経て、否応なしにそう思わざるを得なくなった。


 しかし、相手が人であるというのもまた本当のことだった。


 自身とそう変わらない存在が、悪意を真正面からぶつけてくる。


 平穏な環境で生まれ育った三凪にとって、それは恐怖でしかなかった。

 組織に所属する者達のように慣れるなど、到底できることではなかった。


 目を逸らすことは、できなかった。


 三凪がどれだけ目を背けようとしても、それは確かな現実として幾度となく彼女の前に姿を現した。


 相談できるような相手は、いなかった。

 同じ世代に似た境遇に置かれた者が、三凪の周囲にはいなかった。


 昨年度に高校を卒業した先人達との繋がりも薄かった。

 定期的に成年のチームから声をかけられる彼らは、三凪にとって別世界の住人のように思えた。


 近隣のエリアと一切交流がなかったわけではない。


 しかしそちらも、大抵は複数人のグループで構成されていた。

 ひとつの集団が既に出来上がっていた。


 そんな環境の中にいた三凪の元に現れた少年は――また別の意味で、彼女にとって衝撃的な存在だった。






「っ…………」


 また随分と熱心に見ていらっしゃる。


 粘り強く尾行する刑事に過程をじっくり観察する研究者や、姫宮先輩――その誰にも負けないくらい、熱心に。


 観察どころか睨みつけるような勢いだった。

 そんな目で見られたら、勝手に背筋の方が伸びてしまう。


「……えっと、東雲さん? そんなにじっくり眺めても、さすがに何も見つからないと思うんだけど……」

「だ、大丈夫。天条くんはそのまま、いつも通りでいいから……」


 既にいつも通りじゃないっていうのに、一体どうしろっていうんだ。


 取り付く島もないとはまさにこのこと。

 これだけ粘り強いなら俺より――なんて、口が裂けても言えない雰囲気だった。


「(追い詰められた時ほど恐ろしいとは言いますが……折れませんね。なかなか)」

「(折れるとかじゃなくて。別にそういうつもりでやってるわけじゃないんだけど)」

「(だとしてもですよ。いくらなんでも限度というものがあるでしょう)」


 平日ならまあ、まだ分かる。


 学校にいれば自然と一緒にいる時間も増える。

 そこに組織の活動も絡めば更に伸びる。


 今は2943の拠点にいるんだから、組織の活動と言えないこともない。


「そんな風に後ろから見続けていては、あなたも疲れるのではありませんか? 何もそんな方法にこだわる必要はないでしょう」

「わ、私は大丈夫。もし疲れたら、天上さん達はゆっくり休んで」

「…………また、随分と強情ですね」


 こんな風に観察されることがそれとは、さすがに思えないけど。思いたくもない。


 イリアもさすがにお手上げみたいだった。

 いつになく頑なな東雲には気付かれない小さな溜め息をつくだけついて、そのまま。


「(こんな時にあれは何をしているんですか。妹のことでしょう)」

「(俺が訊きたいくらいだよ。さっき一回だけメールしたんだけど、返信もなくて)」

「(この肝心な時に限って……)」


 この状況の東雲さんを見て、さじを投げたくなる気持ちも分かる。


 模擬戦があった日の夜の後から、東雲先生は東雲先生でちょっと頼りない。

 他のことはともかく、東雲さんの件では当てにできそうにない。


 あの爆弾発言の件を相談した時もぽかんとしたままだったから。


(……どうしたら納得してくれるんだ、これ。マジで)


 小城のことも頼れないし。

 この状況を見て、サムズアップだけしてすぐさま逃げやがった小城のことは。


 覚えておけよあの野郎。

 同じ状況になったら俺も見ぬ振りをするだろうけど。


(……もう一回、もう一回だけ)


 こんな状況、どうしたらいいのかなんて分かるわけがない。


「しつこいかもしれないけど、普段の俺なんてそれこそ参考にならないんじゃない? 方向音痴だし、一言余計な事が多いし」

「わざわざ実践することはないでしょう」

「そんなつもりじゃないんだけどな?」


 おかげで、さっきから似たようなことを言ってばかり。


「どこに手掛かりがあるか、分からないの。……だから、もう少しだけお願いします」


 最初はちょっとは気にしてくれたけど、今じゃほとんど効果なし。


 別に、事件が起きてほしいなんて思ってるわけじゃない。

 事件が起きたら観察の前にあいつらへの対応に協力してもらわないと困る。


 相手が相手だから、あんまり強い態度も取れそうにない。

 あんな真剣な顔で頼まれて、一蹴なんてできっこない。


「(真剣であればいいというわけではありませんけどね)」

「(まったくだよ。だから、どれだけ真剣でも相手の頭の中を覗くのは止めない?)」

「(顔に書いてあっただけですよ)」

「(またそうやって……)」


 ――でも、正直イリアの冗談がありがたかった。


「天条くんは、歩く時は左足からの方が多い……」


 俺だって、こんなに尾行されたら思うところくらいある。


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