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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
First Match
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017

 そのことへ違和感を持つことさえ、できなかった。


 真っ先に気付いた本人は、その理由を『捻くれた見方をしてしまう』ことだと言った。


 褒められたものじゃない、と彼は言う。

 そのような考え方をすることが正解とは言いきれないとも言った。


 その言葉に姉も、友人達も苦笑い気味に頷いていた。


 本人の『捻くれた』という言葉を、友人の一人がからかった。

 彼はどことなく不満そうに、しかし特段怒るでもなく言い返した。


 その捻くれ加減を味わうかと、あくどい表情を浮かべる。

 かの友人は慌てたような態度を取りつつも、表情は余裕そのものだ。


 友人同士の気軽な――良くも悪くも遠慮のない、そんなやりとり。


 一見、先程の結果を気にしていないようにも思える。

 それがあり得ない話だということを、もちろん三凪は知っていた。


 連休明けに予定されている、後半戦的な位置づけの試合。

 そこでの反撃を目論んでいるのは明らかだった。


 その目論見を現実のものにしてくれるだろう――そんな、期待にも似た予感が彼女の中にもあった。


 しかし三凪には、それについていける気がしなかった。

 はるか遠くの出来事のように思えてしまった。


 脱落してしまった三凪の元へ現れた桐葉は、ひどく冷静だった。


 しびれを切らして放たれた乱暴な攻撃を受けることもなかった。

 三人を抱えたまま、離脱を成功させてみせた。


 2811側の、不正とも言うべき仕掛けにも気付いた上で、それを完遂させた。


 想定外が想定外を呼ぶ中、取り乱すこともなく。

 一度は三人に囲まれながら、その状況を突破した上で。


 そんな姿を見せられては、感じざるを得なかった。


 彼との間のあまりに大きな隔たりを、意識せずにはいられなかった。






「今日、こんな感じでいい?」


 試合の後で長い話がないのはありがたかった。


 どうしても間に合いそうなら出来合いのもので済ませようと思っていたけど、余計な心配だったらしい。

 いつも通りの時間に準備も終わった。


「えぇ、不満など感じる筈ありませんよ。あなたが作ってくれたものですから」

「……少し落ち着こう? な?」


 何もかもがいつも通りとは言えそうにないけど。


「落ち着いていますよ。いくらなんでも料理ではしゃぐほど子供ではありません。えぇ、まったく」

「そうじゃないから。分かっててボケなくていいから」


 さすがに分かる。

 いくらなんでも、今のイリアの声を聞けば俺だって分かる。


「? 何を言っているんですか。それはあなたの特技でしょう」

「そんな特技あってたまるかっての」

「あら、妙ですね。その割には以前、美咲と……」

「はいストップ。それ以上は言わなくていいから」


 ……そういうことばっかりしっかり覚えてるんだから。


 ただ、もし覚えていても普段ならわざわざ掘り返すようなことはしない。

 少なくとも真顔で掘り返すようなことはしない。


「……今回の件が納得いかないのは分かるけど、今は一旦横に置いておいておかない? あんな人のために時間を使うっていうのも、もったいないし」


 俺だって、さすがに不満くらいある。

 反則だけならまだともかく、あの態度を見たら思うところくらいある。


「まあ確かに、イリア達のことをロクに見ずに『ワンマンチーム』だとか馬鹿みたいなことぬかしやがったあの野郎に思うところがわけじゃないけど。反則した口で偉そうなこと言いやがって、とは思うけど」


 あの時言った通り、一方的に勝てるようなことはないと思う。


 でも、負けるとも思えない。

 あの人達にケチをつけるわけじゃなく、客観的に比較して、負けるとは思えない。


「イリアのことも東雲さんのことも、先に設置したあれ頼りだっただろ――って、思わないでもないけど。あと、それなしに小城を追い込めたのかって」


 実際の戦いで教団の連中がああいう罠を用意してる可能性は、もちろんある。


 それならそれで、2811側にも是非とも見せてほしい。

 あの罠が全部的に回った時にどういう風に動くのか。


 俺達のことを『ワンマンチーム』だとか馬鹿にするくらいなら、そのくらいの指導はしていて当然。

 まさかできないなんて言わせない。


「…………あなたも大概ですね」

「それはもちろん。あんなこと言われて、黙っておけるわけない」


 あんな短時間の偏った情報だけでよくもあれだけ言えたと思う。


 俺のことを師匠のこと込みで警戒して、それで勝手に落胆するならまあ分かる。


 あの人みたいなことを期待されたらむしろ全力でお断りしたい。

 今はまだ、師匠の本気の足元にも及ばない。


「向こうのことは皆と相談して対応を決めようかなって。落とし穴に嵌めてやるにしても何にしても、一人で勝手に進めたってどうなるわけでもないし」


 一人でやったって、上手くいくかどうか。


 そもそも、個人同士でやり合ったわけでもなんでもない。

 一対一の状況なら、そこまでする余裕もないだろうけど。


「……そういえば、今回はすぐに撤退を決めていましたね」

「あんな状況で放っておけるかっての」

「私のことを?」

「イリアは勿論、小城や東雲さんのことも」


 あれが実際の場面なら猶更だ。

 あのまま一人で奥に突っ込んだって、蜂の巣にされるだけ。


 そもそも、教団に各個撃破なんてされたらそれこそ後でどんな目に遭わされるか分からない。


 正直、今回もあまり早かったとは言えないと思う。

 実際だったら、その場から移動させられていてもおかしくないんだし。


「とにかく、さっきのことは一旦忘れた方がいいって。美味しいものがあるのに嫌な思いをするなんてもったいないし」

「……それはあなたの方では?」

「…………否定はできないかも」


 せっかく部屋に戻ったのに、あのことでイライラし続けるのも馬鹿馬鹿しい。


 今回の分はしっかり返させてもらうつもりだけど、それはそれ。

 今この時間くらいは、ゆっくりするくらいで丁度いい。


 小城も東雲さんもきっとそうしてると思う。

 特に先生は心配してたみたいだし、そうさせる筈。


「ご、ごめんください……っ!」


 ――だからまさか、こんな時間になって誰かが訪ねてくるとは思いもしなかった。


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