016
「マジでやんのかよ、天条ぉ……」
帰りの車でも、小城は不満そうだった。
それも試合の内容じゃなくて、俺の発言に対して。
そっちは戻ってからの会議で言うつもりかもしれないけど。
「そりゃ確かにこっちが負けちまったけどよ、いいじゃねーか。あんなこと言わなくても。そういうルールじゃないんだろ?」
「その、何か……理由があるの? あんなこと、言うなんて……」
「それはもちろん」
今からの話を聞いたらどうなることやら。気になる半面ちょっと怖い。
雰囲気的に、小城も東雲さんも俺と同じことは考えてないみたい。
他のことで頭がいっぱいになってる、みたいな。
……あんなことを全員揃って疑うのも、それはそれで微妙だろうけど。
「正直、あの人達に関与させないなら別にいいんだよ。俺達だけじゃなくても」
極端な話、今回の会場準備に関わった人じゃなければ誰でもいい。
関係のない人も混じってるだろうけど、誰がどこまで手を出したかなんてさすがに分からない。
だから、あの時はあんな言い方しかできなかった。
「……は?」
「えっ、と……?」
「…………そういうことでしたか」
さすがというか、なんとなくイリアは察したみたいだった。
もしかしたら、俺の顔を見たからかもしれないけど――……痛っ。
「余計な事を考えるからですよ」
「またそうやって人の考えていることを……」
「あなたの考えていることですから」
そんな自信満々な顔で言われても。
ただ、あまり期限がよくないのは見ていて分かった。
あんな真似をされたら誰だって嫌にもなる。
「そういうのは後で家でやれって。それよりどーいうこった。俺達じゃなくてもいいって、それなら誰が準備したって変わんねーだろ」
「普通ならそうだよ。俺だってそう思ってた。……でも多分、今回はそうじゃなかった」
それならどれだけよかったか。
これまでにもきっと、あんなことは今まで一度もなかったんだと思う。
会ったとしたら大問題。きっと今後の存続にも関わってた。
まさかそれをひっくるめてのテストとは思えない。
もしそういうテストがしたいなら、2943側だけを対象にしたってしょうがない。
緊急事態の対処や連携を見たいなら、両方の生徒に知らせずにやった方がいい。
だから。
「予め誰かが仕掛けておかないと、さすがにあんな量は用意できないと思う」
しかも、さっきの模擬戦では2811側が一方的に使っていた。
向こうの生徒達が、自分達の意思で発動させていた。
どういう説明を受けていたのかなんて、知ろうとも思わない。
だけど、まさかあんなものをただの仕掛けとは思ってない筈。
「ってーと……」
「……不正?」
「そういうこと。始まる前に色々ばら撒いたてんだよ」
使ったところまでは、間違いなく向こうの意思だ。
撤退の途中も随分派手に撃ってくれたし、間違いない。
見境なしに売ってくれたおかげでクロだって気付けたわけだし。
「………………不公平どころじゃなくねー?」
「それはもう。あれがありならルールなんてあったもんじゃない」
いくらなんでも多過ぎた。
そもそも、あの手の魔法を道具で設置しようと思ったら手間がかかる。
色々と書き込まれた模造紙並みのサイズのものが必要になる。
だから俺達は採用を見送った。
一発逆転を狙いたくても、設置する間にやられかねないからって。
俺達と同じくらいの軽装で何発も仕込むなんて無理な話だ。
さすがに、最初の時点で何個かは持っていたみたいだけど。
「っつーかよ、そこまで分かってたなら言えばいいじゃねーか。この反則野郎って」
「ならその時はお前に頼んだ」
……今のをそのまま言わせる気か、おい。
「……じゃなくて、これだっていう証拠がなかったんだよ。いつ仕掛けたのかも分からないし」
「じゃ、じゃあ……あの時のは……」
「一応、気付いてるアピール。向こうの先生には多少届いてるといいけど」
火村とかいう先生は少し反応もしてたみたいだから、無意味ではなかったと思いたい。
どうせならもっと分かりやすく、直接的な形がよかったけど。
あそこで俺達が下手に騒ぎ立てても説得力も何もない。
「だから、次はそういうのは抜きで準備してもらいたいなと思って。一応、後でどこかに連絡できないかも考えるつもり」
しかもあの態度。あの言いよう。
何がどう言うつもりか知らないけど失礼極まりない。
俺達のことをなんだと思ってるんだ。あの野郎。
イリアにはこっちに来る前から何度も何度も助けてもらってたし、小城や東雲さんともここ最近の事件でいろんな形で協力してきた。
反則に頼って倒した側に言われる筋合いなんてこれっぽっちもない。
「さすがに、あの仕掛けがなくなったからって俺達が一方的に勝つなんてことはないだろうけど……それでも、あんな風にはならなかった。絶対に」
イリアと東雲さんは、間違いなくあの光を食らってる。
小城の方は、最後に食らったのは封魔石だったみたいだけど……あんな状況になった原因が、そもそもアレだし。
「本当はもっと早く気付けばよかったんだけど、俺もすぐには分からなくて。……ごめん、終わった後になっちゃって」
「そりゃ仕方ねーだろ。あんなの撃たれるまで分かるかよ」
「少なくとも離れているものまでは感知のしようがありませんね」
……それでも感知できてこそ――なんて声が聞こえたけど、それはそれ。
そのくらいのことができるようになった方がいいのは間違いない。
たとえば『そんなもん見なくても気付け』とか言いそうなどこかの誰かさんなら、きっと朝飯前だろうし。
「それで、なんですけど。まさかあれの発見がテストだったなんてことはないですよね? 先生。……いくらなんでも、あれは」
「当然だ。そこまでいったら、“勝つための努力”の範疇を超えていると言わざるを得ない」
実はあの時、少しだけ東雲先生の様子も見てた。
少なくとも、驚いてはいなかった。
ただ、火村とか言う人にあまりいい顔はしていなかった。
「ただ実際、天条君が言う通り確かな証拠がないのも本当だ。今回の結果を無効にするのは難しい」
「あんな量を使ってるってだけで十分ギルティじゃないっすかね」
「それでもだよ。……怪しまれてはいるだろうけどね」
「なんでそんなことするんすかね? バレたっていいことないのに」
その反応を見て、安心した。
さすがにそんなことになっていたら笑えない。
「そればっかりは分からないな。……理由があっても、許される事ではないだろうけどね」
だけど、終わった結果は覆しようがない。
前半戦とも言えるその回は、なんとも言えない空気の中で幕を下ろした――。




