014
「はっ……!?」
それを見た桐葉は思わず目を丸くした。
生い茂った葉の中に身を潜め、再び見やる。
見間違いであってくれと、届く筈のない願いを抱きながら目を向けた。
(また? しかもあんなに? いくらなんでも多過ぎる……!)
2943側三人目の脱落者を知らせるブザーは、同時に桐葉が最後の一人であることを示していた。
桐葉が引っ掛かりを覚えたのは、そこではなかった。
その違和感は、決して劣勢に立たされている悔しさから来るものではなかった。
(あんな短い間隔に何個も置いて、次から次へと……。むやみやたらに設置できるものじゃないって、言ってなかったか?)
2811のチームがあえてその裏をかこうとしたという可能性も、ないわけではなかった。
しかし桐葉はすぐさまその可能性を否定した。
その程度では説明できないほどの数が仕掛けられたことを、桐葉は肌で感じていた。
(一人目がやられたときも、二人目もそう……。……まるで、当たるまで撃ったみたいな……)
本来、その役目は手にした封魔石が担うべきもの。
そもそも、それさえ適切な対処とは言いがたい。
封魔石は勿論、各々が身に宿す魔力には限りがある。
(しかもあんな、馬鹿みたいな威力して……皆、本当に怪我してないんだろうな……?)
あえて見た目の派手さを重視したという話も、もちろん桐葉は覚えていた。
それを覚えていても、気にせずにはいられなかった。
大量に設置された魔法に驚き、怪我をしていてもおかしくなかった。
思わず彼が疑ってしまう程、規模は大きかった。
そんな代物が、幾度となく放たれた。
(…………やっぱり、それがいいよな)
自らの不安を再認識し、桐葉は小さく息を吐く。
その時、既に彼の中でやるべきことは定まっていた。
それ以外の選択肢を、彼は自らの意思で捨て去った。
(後はどうやって居場所を突き止めるか、だけど……)
無論、そちらを選んでも問題がないわけではない。
ある程度分散してしまっているからこそ、挟み撃ちのリスクは避けられない。
(確か、二人目の時があの辺り……だったよな)
しかし、見つけ出すための手掛かりがないわけではなかった。
光の柱は桐葉から見ても過剰としか言いようのない量だった。
それが消えた後でさ、おぼろげな影が見えてしまう程だった。
あまりに強大だったからこそ、結果として桐葉に戦いのあった地点を教えていた。
(それじゃあまずは、こっちから……っ!)
リスクも承知の上で、桐葉は再び地面に降り立つ。
自身が起こした以外の音が聞こえないのを確かめつつ、桐葉は慎重に一歩を重ねていく。
どこに誰がいるかは、桐葉でさえ分からない。
振り切った以上、同じ場所にあの三人が残っていないということだけは確かだった。
太い幹に背中を預けるや否や、周囲を見回しその場を離れる。
同じ地点に長くとどまることなく、しかし警戒を怠ることはない。
(早いところ、見つけてしまわないと……っ)
彼の、2811に対するささやかな反撃は大きな成果を出すことはなかった。
故に、未だ2811側の脱落者はない。
1対7という状況の中で、桐葉は動くことを強いられていた。
(欲は、張るな。一人くらいなんとかしてやろうなんて、考えずに)
幹に背中を預ける度に、桐葉は自らへと言い聞かせる。
故郷を発つ以前、様々な形で教わったことだった。
実際の事例を交えながら、時には身をもって味わった。
自らが置かれている状況と似たものを感じたからこそ、桐葉の中でその意識が強く働いていた。
(奪還さえ出来れば、それでいい。こっちが攻撃を食らう前に、一気に離脱すればいい)
はやる気持ちを抑え、しかし速度を落とすことなく桐葉は森の中を跳ぶ。
時にはあえて自らの魔力を多く解き放ち、その場に残す。
まるでその場所に桐葉がいると錯覚させるかのように。
「あとは、こんな感じ……っ!」
その傍ら、木の幹に隠れるように《土偶》を置いて去っていく。
(見張りがいるとしたら、おそらく一人。多くて二人。……一か所に集められてなきゃ、いいけど……!)
移動しながらの作業。
高い完成度を求めることはしなかった。
先日の記録を手掛かりに、あえて当時をなぞるような行為を繰り返した。
(……このくらい離しておけば多分、大丈夫。直線でもない)
決して土の人形が等間隔に並ぶことのないよう、細心の注意を払いながら。
(向こうみたいに、近くに固めすぎても――)
かえって気付かれやすくなりかねない。
露見を避けるべく意識していたからこそ、桐葉の頭に浮かんだ発想。
それがいっそう、桐葉の中の違和感を膨らませた。
(……やっぱり、数が多過ぎるんだよな……)
2943側に、二人目が出る直前に見えた光。
それを思い出し、桐葉はふと空を見上げた。
(あんなにたくさん、持ってなかった……。そもそも、止めの一発ならあんな風に連射なんてしなくてもいい……)
動き出しても、思考を止めることはない。
もはや一連の流れに組み込まれたデコイの作成をこなし、桐葉は突き進む。
「あっ……!?」
そうして彼は、とうとう見つけた。
(イリアだったのか……!)
近付く中で予感していた正体を、確信へと変えた。
「い、一体どこにいたんだ!? あれだけ探し回ったのに!」
「企業秘密ですよ!」
(どうせなら、見つかる前にこっちから仕掛けたかったけど――)
彼がやるべきことに、代わりはない。
(……いつでも構いませんよ)
(サンキュ……っ!)
立った一瞬のアイコンタクトを交わし、直後。
「うわっ……!?」
辺りを、一気に濃い煙幕が包み込む。
桐葉の手に握られた封魔石が、一度に破裂し煙を起こした。
(――そこ!)
桐葉達を分断した時よりも濃い煙の中。
それでも桐葉は、衣璃亜の姿をその目に捉えられていた。
「あら……私を最初に選んでくれたのは、意図的ですか?」
「ごめん、偶然っ。そこまでは分からなかった……!」
「謝ることではありませんよ。……助かりました、桐葉」
「本当はやられる前に抗したかったけどな……!」
衣璃亜を抱きかかえ、桐葉は走る。
軽口をたたくだけの余裕を残し、全速力で駆け抜ける。
「っ、クソ――!」
――その時、光が弾けた。
「…………っ!」
突如起こった光の柱を見て、桐葉はもう一つの予感も確信へと変えた。




