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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Gleams Butterfly
246/596

012

「げ、とはなんだい。げ、とは。仮にも先輩に向かってその態度はどうかと思うよ?」


 こんなタイミングにやって来られたら言いたくもなる。


 一体どこに隠れていたのかも分からない。

 追い越した覚えはないし、五分前に見た時は後ろに誰もいなかった。


「これは大変失礼いたしました先輩様。どうぞ、学び舎はあちらにございますので早急に行ってらっしゃいませ」

「なんちゃって執事してんじゃねーよ」

「これほど言葉と態度がかみ合っていない対応は初めてだよ」


 それは当然。本気で言っているわけじゃないんだから。


 もちろん先に行ってくれるならそれでいい。

 是非ともそうしてほしい。……イリアもそろそろ呆れを通り越す頃だろうし。


「それより、何? 小城は。先輩の味方?」

「オメーのボケに突っ込んでやってんだよ」

「別にボケてないのに」

「その主張には無理がありますよ」


 イリアまで。


 もしやと思って向いたら、やっぱり東雲さんも小さく頷いていた。

 敵軍しかいないのか。ここは。こんちくしょう。


「まったく……この前といい、随分と行儀がいいんだね。君は。ちょっと声をかけただけなのに」

「あ、今日はしないんですね? 取材」

「君が受けてくれるなら私はいつでも大歓迎だけどね?」

「謹んでお断りさせていただきます」


 てっきりそれらしい流れを作ろうとしているのかと。


 昨日のこともあるから油断はできない。

 情報提供者さんの方はどうしようもないけど、きっとこの先輩とはこれからも会うことになる。


「そもそも……君に取材をした事はまだ筈だよ? 誰かと勘違いしていないかい?」

「あっ、あぁ~……そうでしたね。ついつい。噂と混同していたみたいです」


 ……危ない危ない。


 まだどころか、これからもなくていいけど。

 運動部の活躍とか、そっちの方面に話題はいくらでも転がっているだろうし。


 少し露骨だったから怪しまれたのかと思えば、先輩は。


「ほう。噂。誰が誰のことを話していたのかな?」

「プライバシーの侵害ですよ」

「大丈夫だよ。君が情報提供者だということは伏せるから」

「俺が言ってるのはその話じゃないんですけどね?」


 ――やっぱり、忘れてるんだろうか。


 センセイ方の秘密どころか――なんて言われるような人がこんな簡単に。

 ……あっさり忘れさせられたというのも、それはそれで腑に落ちないけど。


 組織がちゃんと対応したんだから、もしものことなんてない。その筈だ。


 組織の専門部隊の腕は俺も知っている。

 俺達の親睦会に乱入されたあの事件も、まるで話題になっていない。


 ぼや騒ぎになったとか、ナイフを持った男が出たとか。

 それらしい話はいろいろ聞くけど、あの化け物についての噂はまるで聞かない。


 だから、東雲さんの話には余計に驚かされた。

 先生の話が本当なら、すぐに消された筈の映像を持っていたことになる。


(俺の警戒し過ぎなら、それでいいけど……)


 なんだろう。この違和感。


 覚えていないと言われても、引っ掛かる。

 何か釈然としないものが今でも胸の内で渦巻いている。

 具体的にそれだとは一言も言っていないのに。


 結局、昇降口に着いても、その違和感を拭いきることはできなかった。






「うへぇ……」


 ようやくやってきた昼休み。

 テーブルにもたれかかった小城からは、活力というものを感じない。


 すぐさま教室を出なきゃいけなかった昨日が嘘のよう。

 ……昨日この調子だったら最悪置いて行ったかもしれない。


 その分授業の退屈さは三割増し。……どうしてあんなものをありがたがっていたんだろうな、俺。


「何これ、一体どうした? 撃沈?」

「あなたが分からないのなら私にも分かりませんよ。――どうなんですか?」

「わ、私もちょっと……。見てたわけじゃないから……」


 いくら中学の復習が終わったからって、こんな。

 別に抜き打ち小テストがあったわけでもなんでもないのに。


 集まっても、天板に倒れた小城はうんともすんとも言わない。

 頭の下に敷いてあるのは教科書とノート、それから筆箱。


 痛くないんだろうかと、覗き込もうとしたその時――小城は、突然起きた。


「……少しは心配してくれてもよくね!?」


 悲痛に思えなくもない叫びと共に。


 そんなことを言われてもどうしろと。

 最初に声をかけた時にはほとんど何も反応しなかったのに。


「してるよ。だからまずは原因を突き止めようと思ったんだよ」

「なんでだよ。その前に声かけるとかあるよな? なぁ?」

「あれだけ叫ぶ体力があるなら問題ないでしょう」

「イリア、気持ちは分かるけどそのくらいで」


 それ、死体蹴りだから。そのまま続けると本格的に動かなくなるから。

 小城も本気でくたばりかけてるわけじゃないだろうけど。


「おいちょっと待て。『気持ちは分かるけど』じゃねーよ。味方の振りして追い討ちかけてんじゃねーかよ。オイ」

「はてさて、なんのことだか俺にはさっぱり」


 ほら、やっぱり元気じゃん。


 そんなことだろうとは思ったけど。

 昨日の今日で朝練にやる気満々だった小城が、ここに来て疲れるとは思ってない。


 それに、イリアの提案で今日はメニューも減らしてあった。

 体育もなかったし、動けなくなるほど疲れるなんてことはさすがにあり得ない。


「東雲……っ」


 それなのに小城ときたら。

 東雲さんに縋りつくような真似までして。


「えっ、あ……小城くん、大丈夫……?」


 東雲さんが断れないって、分かってるくせに。


「……うわー……」

「おい、なんだよ。なんだその目。言いたいことあるならはっきり言えばいいじゃねーかよ」


 小城にだけは言われたくない。

 東雲さんにわせた後で、『こういうのだよ』と言わんばかりの目を向けてきた小城にだけは。


 それに関してはやっぱりイリアも同意見だったみたいで――


「あんなやり方で言わせて満足ですか?」

「そこまで言わなくてもよくね!?」


 ……訂正。俺より容赦なかった。


 言っていることは正論。全くもってその通り。

 それにしたって、何もそこまで言わなくても。否定はしないけど。


(……って、そこまででもないか)


「いやいや、言えって言ったのは小城の方だし」

「誰も蔑んでくれなんてひとことも言ってねーよ」

「それに関してはもう自業自得としか」


 東雲さんのことだ。あんな風に頼んまれたら言うに決まってる。


 小城だってそれが分かっているからあんなことをしたんだろうし。

 早く東雲さんにお礼くらい言えばいいのに。


「で、結局原因って? やけにぐったりしてたけど」

「さっきの授業全部」


 …………マジか。


「小城……勉強会、やる? 朝練の代わりに」

「おい止めろ。マジトーンで言うな。怖ぇーんだよ!?」


 失礼な。


 人がせっかく親切心から提案したっていうのにその言い草か。この野郎。


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