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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Gleams Butterfly
245/596

011

 ――意識が覚める。


 朝日が差し込むより少し早いこの時間。

 何一つとして変わった様子のない部屋を一瞥した後に、ため息をこぼす。


(……さすが、なのかな。部屋中を探し回ったのに全く痕跡を残さないなんて)


 そう。配置は何一つとして変わっていない。


 引き出しの中も、棚の奥も。

 飾られた小物類にすら、人の出が触れられた痕跡は何一つとして残されていない。


 わざとらしく張っておいたセロハンテープも、注意していても見落としてしまいそうなほど小さな切れ端も。


 何もかもが、元通りに戻されている。


 仮に指紋検出の技能があったところで、不審な点はきっと何も見つからない。

 その確信があったからこそ、感嘆のため息をつかずにはいられない。


(……向こうもそんなに甘くない、かぁ……。個人規模ではないんだね。やっぱり)


 今こうして自らがここに居るという事実から、予感を確信へと変える。


 間違いなく、一昨日に接触した少年の仕業ではない。

 そこまで器用な真似ができる性分とは思えない。


(問題はどうして彼がそんなところにいるのかだけど……その辺りは本人に聞くとして)


 はっきりと記憶に残っているのは、学校を出た10分後まで。


 そこから先を思い出そうとしても、何一つとして分からない。

 雲を掴もうとしているような気さえした。


 覚えているのは、その時誰かに会ったということだけ。


(やっぱり痛手だなぁ……。保険以外が全滅なんて。これじゃあ何を聞いたかもわからないや)


 愛用のメモ帳もページ数が減った様子はない。

 何かを新たに書き込んだ痕跡さえ見当たらない。


 着信履歴や、メールもない。

 突如として生じた空白の時間。どうやって帰宅したのかも分からない。


 しかし夕食を摂ったことも、自らの意思で横になったことも、覚えている。

 おぼろげながら、その記憶はあった。


(……調査続行、決まりだね)


 身の竦むような怪奇現象。

 しかしそれが、幽霊の類の仕業でない事を悟っていた――。






 橘さんに相談した、次の日の朝。

 始まりからして、いつもとはいろいろ違っていた。


「~♪」


 特に、イリアの様子。

 ご機嫌に鼻歌なんて歌っていらっしゃる。今まで一度もそんなことなかったのに。


 どこかで聞いたようなメロディ。確か、昨日の夜にもCMで流れてたやつ。


 集合場所を変えたことなんて関係ない。これっぽっちも。

 場所を変えたのは、先輩に誰か一人が捕まることがないようにするためなんだから。


 それもこれも、昨日メールで決めたこと。

 全員の家から遠すぎない場所も、東雲さんが教えてくれた。


 組織が対応してくれたみたいだけど、戻そうとは小城も東雲さんも言わなかった。

 いっそ、明日からはあそこに変えてもいいかも。


 それはいい。後でいくらでも相談できる。

 今考えなきゃいけないのはそんなことじゃない。


「……なんか今日の衣璃亜ちゃん、めちゃくちゃ機嫌よくね? 何かあったのかよ?」

「黙秘権」

「それ言ってる時点で自白してるよーなもんだろ」


 だったらどうした。そんなの知ったこっちゃない。


 昨日、寝る前からそうだった。

 どことなく強引さはあったけど、何故かやたらと楽しそうにしていた。


 それはいい。俺だって、イリアの仏頂面が見たいわけじゃない。

 原因が分からないからこそ首を傾げたくなるというか。


(まさか睡眠不足だったなんてことはないだろうし……)


 まさか、いくらなんでもさすがにそれは。

 ……一応、気付かれない程度に試しておいた方がいいかも。


「でも、よかった。最近の天上さん、何かに怒ってたみたいだったけど……解決、したんだね」

「そりゃあれだろ。原因だって分かり切ってたからすぐに解決できたんだろ。なぁ天条?」

「いや、何が。俺詳しいんだよ、みたいな表情をされても」


 どうして俺を見ながら言ったのか納得のいく説明をしてほしい。

 しかもにやにやと笑いながら。


 小城がいま何を考えてるのか分かる。

 なんとなくだけど、こんな表情を見せられたら分かってしまう。


「隠さなくたっていいじゃねーかよ。オメーがあの先輩のことばっかり言ってたせいなんだろ?」

「残念五点」

「ちょっとリズムよく言ってんじゃねーよ」


 無念とまではいかないから、五点。

 他にもある。間違いなく。満点の答えなんてイリアしか分からない。


 そもそもあの先輩の話ばかりしてたわけじゃない。

 イリアには『先輩のことばかり考えてる』とも言われたけど、そこまでじゃない。いくらなんでも。


「あ、でも、私も……それよりも前からだったと、思うけど……」

「…………えっ、マジ?」

「やっぱり……」


 それみたことか。


 俺が分かっているだけでももう一つ。

 諸々を総合したものなのかもしれないけど、そもそもの原因はきっとそこ。


 ……それなのにやたらと自信ありげな態度なんてとるから。


「おいおいおい、やっぱりってなんだよ。ちょっと外れただけじゃねーかよ。まさかオメーが全くの無関係ってわけじゃないんだろー?」


 それはそう。間違いなくそう。


 一昨日、料理をしている時に言ってくれたこと。

 そもそもの原因が俺にあるのは本当の話。


 ……ただ、何故か今は一人数歩先を歩いていらっしゃる。


「で、どーなんだよ。無関係とは言わねーよな?」

「どうしてそこまでこだわるんだよ。……まあ、先輩の件でいよいよ限界突破したのもないわけじゃないけど」

「やっぱ合ってんじゃねーか」

「だから言ったじゃん。五点って」


 正確には頭の中で考えていたことだけど、それはいい。


「何点満点中だよ。それ。十点とか小テストかよ」

「いやいや、まさか。百点満点中に決まってるじゃん」

「たったの五パーセントじゃねーか!?」


 何もかもを姫宮先輩のせいだけにされても。

 考えようによっては、小城だって……止めておこう。


「何をしているんですか? あまり遅いと置いて行きますよ」


 せっかくイリアが楽しそうにしているんだから、邪魔するのは悪い。


「イリアの話。ほら、今日は調子いいみたいだし」

「……? 別に昨日も不調ではなかったでしょう」

「それはそうなんだけど、今日は特に調子良さそうに見えるから」


 ここまで浮足立っているところを見るのは初めてかも。

 そんなに特別なことをした覚えはないんだけど……


「当然でしょう。あなたがいつもと変わらなすぎるだけですよ」

「…………なんて?」


 俺が? 変わってないのがおかしい? ……そんな要素、一体どこn


「まさか忘れたわけではないでしょう? 昨日のことを」


 ――イリアは、イイ笑顔を浮かべていた。


 それはもう、写真にとって額縁に飾っておきたいくらい。

 こんな状況じゃなければ、きっと見惚れてた。


「て、天条くん……?」


 ……何も企んでいなければ。


 ほんの一瞬、イリアと目が合った。

 それだけでも十分だった。


「待って。ちょっと待って。違う。そうじゃない。何かがおかしい」


 こいつ、何かを企んでる。絶対に企んでる。


 悪い方向に向かうかどうかなんて関係ない。

 この話題に食いつきやがる野郎が確実に一人いるんだから。


「どこもおかしかねーだろ。さっさと自白()いて楽になっちまえばいいんだって」

「他人事だからって随分と楽しそうだなこの野郎」


 ほら。ほらやっぱり。


 表情はともかく、態度。本人の態度が全てを語っている。

 肩をぷるぷる震わせて、まるで笑いを抑えられれてない。


「んなことねーよ。俺はただチームメイトのことを祝ってやってるだけだぜ?」

「わぁ嬉しい。……それならお返しに呪ってやろうか、え??」


 分かってるくせにわざと余計なことばっかり言いやがって。

 喧嘩したいならお望み通りいくらでも――


「――今日も今日とて、楽しそうだね? 」


「げっ……」


 ……この人はまた、なんて間の悪い……


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