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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Gleams Butterfly
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010

 その話について聞かされたのは、昨日のこと。


 俺が見た不思議な光について報告した時、東雲先生の口から教えてもらった。


「目撃されるようになったのは最近のことだ。……君達が出掛けて着る時に巻き込まれた後、だったかな」


 組織も、教団との関連が見つけられなかったらしい。

 それでも、念には念を入れて調査を行っていた。


「蝶とは言ったけど、そのものというわけじゃない。……遠目からだと、それこそぼうっと光っているようにしか見えないんだよ」


 ひょっとすると、実際にはもっと目撃されているかもしれない――東雲先生はそう言った。


 夜、どこからともなく現れて消えていく奇妙な存在。

 直接的な被害もなく、組織でさえ正体を突き止めることはできていなかいそう。


「つまり桐葉が見たのもそれだ、と?」

「そういうことになる。……もしかしたら、幽霊だったかもしれないけどね?」

「それはないですね。俺、そういうのには疎いので」

「だったら間違いない。君が見たのもそれだよ」


 東雲先生は冗談めかして言っていたけど、さすがに笑えなかった。


 直接的な被害はまだ出ていないらしい。今のところは。

 寄せられた中に、そう言う話は一つもなかったと言っていた。


「事情は分かりました。もしまた見かけることがあったら、その時はさっさと倒すことにます」

「できる事なら捕獲を試みてほしいな」


 とにもかくにもわからないことだらけ。

 組織もそれなりに人員を割いているみたいだけど、未だに手掛かりはなし。


 目撃証言が魔力を持っていない人のものばかりだったというのもあるけど、もう一つ。


「勿論、無理にとは言わない。できればの話だからね。……でも、頭の片隅には留めておいてほしいんだ」

「……それ、煽ってます? ひょっとして。捕まえて来いって」

「ううん、そんなことはないよ。まだはっきりしていないことがあまりに多いからね」


 近付く間もなく、まるで逃げるように消えてしまう。


 色もあの化け物たちとは似ても似つかない。ほとんど真逆と言っていい。

 そもそもあの化け物の身体が光るようになったなんて話は聞いたことがない。


 移動が特別速いわけじゃない。

 ただ、その場からふっと消えてしまう。


 あの時、俺が目を話した一瞬のうちに消えてしまったように。


「組織のメンバーの中で姿を見たのは今のところ天条君だけだ。もしかしたら、また君の前に姿を見せることがあるかもしれないと思うんだよ」

「遠くから見ただけですけどね。まるで俺がおびき寄せているみたいじゃないですか」

「何かに引き寄せられているのは確かだよ。もちろん、それが君とは思っていないけどね」


 誰かが手を回していない限り、そんなことにはならない筈だ。






「……終わりましたか」


 電話を切ったその瞬間に、声が聞こえた。

 まるでそのタイミングを待ち構えていたかのようなイリアの声が、聞こえきた。


「ごめん、イリア。ひょっとして起こした?」

「いいえ、偶然目が覚めただけですよ。……本当はこんな時間に寝るつもりなんてありませんでしたから」


 まだ午後九時。

 いつもなら、座ってくつろいでいる時間。


「仕方ないって。今日はあれだけしつこく追い回されたんだし」

「……何も掘り返すことはないでしょう」


 橘さんから同情される程度には。


 昼食をゆっくり摂る時間すらないとは思わなかった。

 授業があれだけ待ち遠しかったのは生まれて初めてかもしれない。


「そんなことより、あなたはどうなんですか? 私のために布団まで敷いて……疲れているのはあなたも同じでしょう」

「ん、大丈夫。壁の辺りは空いてたし」

「……あれは隙間と言うんですよ」


 一人用ではあるけど、前にお邪魔させてもらった篝さんのアパートよりは広い。

 俺とイリアの布団を敷いてもまだ余裕はある。


 それでもさすがに、足を延ばす気にはならなかったけど。


「少し確認に使っただけだって。すぐに橘さんに電話したし」

「……そのために移動したんですか。玄関の方まで」

「さすがに寝ている傍で話すわけには」


 夕食の時から眠そうにしていた。

 メールが届いた時なんてほとんど生返事だった。


 布団を先に用意しようか――そう訊こうと思った時には、テーブルの上で寝ていた。


「私は気にしませんよ? ……あれとの会話というのは、少々気になりますが」

「ごめんって。今日のことでいろいろ相談しておきたくて。橘さんと話せる時間なんて限られてるし」

「何も今日でなくてもいいでしょう」


 そうは言うけど、むしろ早い方がいい。


 何故もっと早く言わなかった、なんてことになるよりはいい。

 ……そもそも他の人を頼れとか言われそうだけど。言われたけど。


 ここの人達を当てにしてないわけじゃない。

 それでもやっぱり、橘さんと同じようにはいかないというか。


「こんなことなら、あなたのことも寝かせておくべきだったかもしれませんね。……あなたのことなら、浮かせられますから」

「止めて。そんなことに魔法使わなくていいから。怒られた時に庇いようがないから」


 ……いきなり不穏なことを言ってくれる。


 俺ならってどういうことだ。なんで断言できるんだ。

 今までそんなことはされてない。絶対に。俺が覚えている限り。


「だったらあなたが自分の意思でここに横になればいいんですよ。桐葉」

「またそんな無茶苦茶な……」


 寝ろと。この時間に。いくら欠伸してしまったとはいえ。


 イリアが起きてくれたおかげで少しは目も覚めた。

 それなのに寝ろと言われても。こんな時間に寝たら朝の三時には目が覚めてしまう。


「無茶苦茶ではありませんよ。えぇ、全く。あなたに何かあってからでは遅いでしょう」

「何かって、大袈裟な。先輩のことも一区切りついたのに」


 もしかしたら、またどこからともなく情報を手に入れるかもしれないけど。


 おおもとの情報提供者も、既に組織が対応した人の中にいたのかもしれないし。


 明日また問い詰められるなんてことはない。……はず。きっと。


「だとしてもですよ。休めるべき時に休むのは当然のことでしょう」

「うぐ……」


 ……言っていることは正しいから反論しづらい。


 イリアが俺のことを心配してくれているのは分かる。

 分かるんだけど、このまま寝てしまうのも何か申し訳ない。


「これからのこともあるんです。……さぁ、どうぞ?」

「どうぞじゃなくて。布団、一枚しかないんだけど」

「えぇ、そうですね。何か問題が?」

「あるよ。大ありだよ」


 先にあるだろ、やることが。……もう一枚敷くとか、あるだろう。


「余計なことは気にしなくていいんです。……邪魔はしませんから」

「……どうしても?」

「えぇ、どうしても」


 ――結局、根負けしたのは俺だった。


 その日はやけに押しが強くて、笑顔のイリアに逆らえなかった。


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