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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Gleams Butterfly
243/596

009

「……えっ、マジ?」


 朝礼後に教室で机を合わせて、本気で耳を疑った。

 声を抑えるのも難しい。口を滑らせないようにするのがやっと。


 まさか、まさかそんなことがあるなんて。

 組織としてもいろいろ対応をしていた筈なのに、どうしてまた。


「う、うん……。姫宮先輩、あの店であったことも知ってるみたいで……。映像も、見せてもらったんだけど……」


 映像が残るなんてこと、今までなかった。

 もし誰かに撮影されるようなことがあっても、すぐに消去される筈。


 そんな話は東雲先生からも聞いていない。

 もし映像が大々的に出回るようなことがあったら、組織にとっても一大事。


「ちなみにその映像、どんな? 長さとか分かる?」

「多分、天条くんが戦ってるところ……。でも、私が見たのはそれだけで、その、全体がどのくらいまでかは……」


 ……撮られてた? あの時の戦闘が?


 確かに、あの時はまだ逃げきれていない人もそれなりにいた。

 あの化け犬に襲われていた人の他にも数人いたのはなんとなく覚えてる。


 でも、カメラを向けられたかどうかまでは分からない。

 というか、気を配る余裕がなかった。


「ご、ごめんなさい。もうちょっとはっきり見せてもらっておけば……」

「ううん、そんなことない。ありがとう。教えてくれて」


 下手に映像に気を取られたりしたら『何か関係があるんじゃないか』なんて問い詰められるのが目に見えている。


 あまりに興味のないそぶりを見せても疑われそうだけど、それはそれ。

 あの先輩、最初から俺達に狙いを定めていたみたいだし。


「けど、ヤバくねーか。それ。あの先輩、この前のことを知ってるってことは……」

「大ヤバだよ。間違いなく。……さすがに、まだ全体的なところまでは把握してないと思うけど」


 魔戦のこととか、いろいろと。


 やっぱりあそこで逃げておいて正解だった。

 細かいところまで突っ込まれたらさすがにごまかしようがない。


 あの怪物を倒すところを撮られていたなら、炎の魔法もしっかり映っている筈。


「……つまり、先輩からその映像を回収することができれば……」

「待てよ。待てって。ぶんどろうとか言わねーよな。いくらオメーでも言わねーよな」

「俺でもって。お前は俺のことをなんだと思ってるんだよ。こら」


 もしもの時には強引に回収する必要も出てくるかもしれないけど。


 東雲さんに見せる時に使ったカメラ以外。

 先輩が持ち歩いてるもの以外の、どこかに保存していてもおかしくない。


 たとえば、家のパソコンとか。

 大元のデータを回収できなきゃどうにもならない。


「――失礼するよ、後輩諸君?」


 ……あとは、先輩本人に掴まらないように気を付けないと。






『……そんな話を教室でしてどうする。馬鹿者』


 でしょうね。そう言うと思いましたよ。俺もそう思ってましたから。


「さすがに気を付けましたよ。声量とか、固有名詞を出さないように、とか」

『そのくらいは当然だ』


 どこから話が漏れるか分からないという意見には、俺も同意。


 いつの間にか人の名前を調べ上げていたみたいだし、そのくらいはやりかねない。

 それらしい理由を言えば、つい答えてしまう人もいるだろうし。


 だから小城や東雲さんとの連絡も全部メール。

 組織から支給されている携帯電話だから、変な心配をする必要もない。


『そもそも、何故その話を私にする。今の貴様は2943の所属だと前にも言った筈だ』

「分かってますよ。ちゃんと覚えてますってば。だから先生にもすぐに伝えておきました」

『ならばその指示に従えばいいだろう』


 それができればどれだけよかったことか。


 多分、指示があっても橘さんに相談はしていた。

 こんな状況だし、他の人よりはどうしても頼りになるし。師匠は捕まらないし。


 まして、今回みたいな状況。さすがに相談するしかない。


「まだ、いろいろと協議中みたいで。ここは一つ、橘さんの助言をもらえたらと」

『ほう。貴様が。私の助言を』

「どうしたですか。まるで俺が今まで人の話を聞いていなかったみたいですね?」

『これまでの自分の行動を思い出せ。何度命令を無視してきたと思っている』


 ……また耳の痛い話をしてくれやがる。この野郎。


「……前の話を持ち出すのはどうかと思うんですけど」

『フン、今まで散々あの日のことをやり玉に挙げたのは貴様だろう』

「だからそんなところまで合わせてくれなくていいんですってば」


 本当にこの人は。

 いつもなら言い返してやるところなのに。……言い返されそうだけど。


『アイデアもそうだ。記憶処理をして回収する以外にないだろう』

「終わったみたいですよ。そこまでは。……ただ、入手経路が怪しいみたいで」


 そういうところは本当に動きが早い。

 夕食が終わる頃には、一区切りがついたとメールもあった。


(あの人がそのままで終わる気はしないけど……)


 それから、もう一つ。

 接触した時には妙な話を聞くこともできたらしい。


『その生徒が自ら撮影したわけではない、か』

「みたいです。なんでも、ネット上に一度公開されていたみたいなんですけど……」

『そこから直接取得したわけでもないんだな?』


 先輩の口からは、そういう話が聞けたらしい。


 どうやってその話を聞き出したのか、先生は教えてくれなかった。

 なんとなく目星はついていたけど、何も言えなかった。


「撮影者は既に特定されたみたいです。ただ、その人と接点はなかったみたいで」

『ならば校内はどうだ。可能性としては低いかもしれんが……』

「それもなかったみたいです。そもそも利用者自体多くなかったみたいなんですよ。そのサイト」


 ……もう少し詳しく見てもらったら、分かるかもしれない。


 俺も全部見せてもらったわけじゃない。

 変に心配させないようにと、いろいろ気を回してくれているみたいだし――……


「ふぁ……」


 ……やばっ。


『どうした。随分と気の抜けた声だな』

「いや、ちょっとさすがに……師匠のトレーニングとは別ジャンルだったせいで耐性が不足していたというか」

『貴様は何を言っているんだ』

「意味わからないくらいに疲れたって言ってるんです」


 疲れた。今日ばっかりは、本当に疲れた。

 イリアも珍しく眠っている。……さすがに申し訳ない。


 それらしい理由を付けて逃げ回るだけでも一苦労。

 朝だって、一時間目が東雲先生の授業じゃなかったらどうなっていたことか。


『……だったら休め。そちらでは今、“光る蝶”とやらも出ているんだろう』


 橘さんも、そのことでなにか言ってくることはなかった。


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