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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Gleams Butterfly
240/596

006

「一体どうやって償わせましょうか。折角の時間を邪魔した罪を」

「またそんな恐ろしい事を」


 怖い怖い怖い。腕の中でそんなこと言わないで。


 家を出てからもイリアは相変わらず。

 ここぞという時に妨害されたせいで、ご機嫌は斜め一直線。


 ただ、矛先を向けられている教団のことはは、ざまぁみろとしか思わなかった。


「当然の報いですよ。こんな時に妙なことを企む方が悪いんです」

「それは同感。こんな時というか、年中休みっぱなしでいいんだけど、な……っ」


 辺りはすっかり暗くなっていた。


 ただでさえ少ない車の通りが一層まばらになるこの時間。

 信徒の連中が自分達の足で探りを入れるようになる時間。


 幸い、まだ誰かが襲われたなんて話は届いていない。

 この状況のまま明日を迎えられたらどれだけよかったことか。


「ちなみに、このままで大丈夫? 方角、間違ってない?」

「間違えていればその時に教えていますよ」

「そりゃよかった」


 準備をしている間の見張りとしても、あの化け物は呼び出される。


 どちらにしても放っておけない。

 近付く人々から少しずつ、本当に少しずつだけど、力を吸い取るような代物なんて。


 構造なんてこれっぽっちも分からない。

 ただ、それに近付いた時に気怠さを感じたことはあった。


 実際には、魔力がないと近付くだけでも危険らしい。

 そうでない人達がほんの少し疲れるだけで済んでいるのは、単純に距離が空いているからだと教わった。


 しかも、範囲内にいる時間は長くて数秒。

 騒ぎにならないよう、教団もその辺りは計算してやっているらしい。


(……こういうちょっとした騒ぎも、橘さん達が対応してくれてたんだろうな。きっと)


 それそのものは、知っている。

 潰し方も実演付きで教えてもらった。


 だけど、今までそれを活かす機会はほとんどなかった。

 頻繁に設置されるものじゃないのもあるだろうけど、もう一つ。


「あら、案外そうとは限りませんよ?」

「……だからまだ何も言ってないって」

「あれのことでも考えていたんでしょう。目を見なくても分かります」


 とうとうそんなところまで。


 朝からたった数時間の間に何があったらそこまで進歩するんだろう。

 それとも考えがオーラみたいに外に出てるのか。俺の身体って。


 当たっているから恐ろしい。

 俺の考えていることをほぼそのまま言い当ててしまうから本当に困る。


「……まあ、いいけど。それよりそうとは限らないって、どういう?」

「勿論そのままの意味ですよ。桐葉」


 自信ありといった様子で、イリアは言った。


 とはいえ、分からない。

 仮に橘さん達が対処していたわけじゃなかったとして、どうして被害が出なかったのか分からない。


 イリアを見るとそれもお見通しと言わんばかりの様子で。


「あなたの故郷と、この町。組織の母体は同じでも、状況はやや異なるようです。あなた方の言うところの教団の動き方の違いかもしれませんが」


 とても聞き流すことのできない答えを、返した。


 確かに教団の動き方というか、方針は違う気がする。

 具体的な説明は難しいけど、あっちの連中と違っているというのは同意。


 別に、ここの教団のやつらと直接喋ったわけじゃない。

 そんな気がする以上の感想が出てこない原因もそれ。


 これまでのあいつらの行動しか参考にできそうなものがない。

 だから、今まで以上になんとなくでしか語れない。


 その上で、ひとつ言えることがあるとしたら。


「回数が少ない上に規模が小さい、って? 今回も一匹だけだって言うし」

「そういうことです。この前のような例外を除けば、の話ですが」

「そういう意味であの件を気にしなくてもいいんじゃないか? 連中にとっても想定外だったみたいだし」


 後始末がどうとか。

 それが誰の、どんなミスを指しているのかまでは分からないけど。


 少なくともあの時、あんな形で大量発生させるつもりはなかったらしい。


 その件に関しては東雲先生達も同じように言っていた。

 無差別に怪物に襲わせたところで、得られるものはほとんどない筈だって。


 口が裂けても生き物とは呼べそうにない怪物達にはきっと、ストレスの概念もない。


 何故か連中は大層なもののように扱っているけど、そういう風には見えなかった。

 命令に従うか、ただ暴れ回るか。それ以外の行動をとる方が稀。


「ただ、そうなると……ここの連中、五四七のやつらとはろくに連携も取れてないってことになりかねないけど」

「別に一枚岩というわけでもないでしょう。あれらも」


 ……それを言われると何も返せない。


 多分、組織のことも言っているんだと思う。

 師匠の言う“クソボケジジイ”さんは勿論、俺達の移動を決めた人のこととか。


 橘さんも今は従っておけと言った。

 俺のことは応援してくれていたけど、命令自体には微妙に納得していなかった。


(いっそのこと、あいつの身内争いで勝手に自滅してくれたりしないか――)


 ――その時、偶然見つけた。


(……なんだ、あれ)


 揺れるように動く青い光。

 目を凝らさないとほとんど見えない、小さな光。


 それでも形は分からない。遠すぎて判断のしようがない。


「どうかしましたか? 前を見ていないと危ないでしょう」

「そっちは大丈夫。そうじゃなくて……あれ。あそこ。何か光ってない?」


 最初は見間違いだと思ったけど、違う。

 やっぱりいる。あそこに、何かがいる。


「……? 私の目には何も見えませんが」

「ほら、あそこ。あのやたら光の弱い街灯の辺り」


 もう一度、指差す。

 覗き込むイリアが腕の中から落ちないよう、左手でしっかりと支えながら。


 それでもイリアは、首を傾げていた。


 ゆっくり下りながら街灯に近づいても、反応は変わらない。


「……やはり、気のせいではありませんか? あなたが何を指しているのか……」

「何って、あそこの――」


 ――改めて目を向けて、すぐに自分の目を疑った。


(消え、た……?)


 いない。どこにもいない。

 ついさっき見えた筈の小さな光が見当たらない。


 どれだけその場所を見つけても、小さな光を見つけることはできなかった。






 カラン、カラン、と鐘が鳴る。


 間を置かずにもう一度、今度は強めに紐を引いて鳴り具合を確かめる。

 今もちゃんと聞こえているか、確かめる。


 聞こえていればそれでよし。

 聞こえなくても、きっとすぐに聞こえてくる。


 テーブルの上に浮かぶ、橙の明かり。

 ほんの少しの熱を持った光が、手元を照らす。


 紙の上を走るペンは止まらない。

 時計の針が一分、また一分と進んでも、決して止まることはない。


 淀みなく、その先を知っているようにインクが躍る。

 何一つとして予想が外れることは無く、全てが思い通りに進んでいる。


「もう少し……。ああ、もう少しだからね……」


 薄暗い中で響く戦慄。低く、そして力のない鼻歌。


 それにつられるように、光が舞った。

 ぼんやりと光る鱗粉が、音もなくあたりに降り注いでいた。


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