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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
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034

「うげぇ……こんだけやったのにまだ終わんねーのかよ……」


 小城の声は未だかつてないほどに疲れていた。


 ようやく半分に差し掛かろうかという頃。

 明確な終わりがあることは分かっていても、まだまだ遠い。まるで見えてこない。


 小城が愚痴りたくなる気持ちも、正直分かる。

 小城みたいに、ブラシに体重を預ける気にはなれないけど。


「それでもやるしかないんだよ。いいから手を動かせ、手を」

「そりゃそーだけどよー……」


 それなりの広さがあることは知っていたし、覚悟もしていた。

 罰として命じられた以上、軽いもので終わる筈がないとは思っていた。


 それにしてもまさか、まさかだ。ここまでとは聞いてない。

 施設内のトイレ掃除にこれだけ時間がかかるなんて、俺も聞いてない。


「……これ、やっぱいくらなんでも広過ぎねぇ? こんなにあったって使わねーよ。避難所にでもするのかよ」

「元の施設の名残とかなんとか。それなりに改修もしたみたいだけど」

「その時に小さくしときゃよかったんだって。なぁ?」

「『なぁ』って言われても。いいじゃん。別に。汚いわけでもないんだから」


 汚くないどころか、真新しい。高校のお手洗いとは比べ物にもならない。

 どこに資金を投入してるんだか。547みたいにゼロから建て直しをしたわけでもないのに。


(……あっちの建て直しも、かなりお金がかかってそうだったけど……)


 どちらの出費が多いのかと聞かれると、微妙なところ。

 組織のこういうところだけは本当に分からない。石油王でもいるのか。どこかに。


 さすがに、場所によって設備に差はある。あるけど、一番広い場所が決まって他よりも設備が整っている。

 どこのフロアでも例外なく、規模と設備の充実具合が比例している。


 俺達に掃除させるから使ってないだけで、自動洗浄機能があってもおかしくない。


 一人一か所にしなくてよかったとつくづく思う。

 あまりに虚無過ぎて、今よりも作業効率が落ちていただろうから。


「……な、天条。俺思いついたんだけどさ」

「止めとけ、止めとけ。そこまでやったらさすがに懲罰室に送りにされるから」

「そこまでってなんだよ!? まだ何も言ってねーよ!」


 あまり雑談するべきではないんだろうけど。

 小城がそんなことを言い出すから、思わず反応してしまった。


 こればっかりは看過できない。

 たとえ何を言われても止める。意地でも止める。何せ。


「いやいや、壊して狭くするなんて非常識な真似はさすがにちょっと……」

「真っ先にそんなこと思いついたオメーの方が非常識じゃねーか!!」


 納得いかないと言わんばかりの叫び声。

 場所が場所だからかよく響く。スーパーボールみたい跳ね回ってよく響く。


「…………えっ、違った?」

「っしゃ、表出ろコラ。今日はとことんやってやるよ。いつまでもやられっぱなしだと思ったら大間違いだかんな?」

「やめとけ、やめとけ。進んでペナルティを受けに行く気か、お前は」


 これでも一応、甘めの措置。

 今ここで喧嘩なんてしたら、それこそ施設への出禁くらいは普通にあり得る。


「それよりも。小城が最初に言おうとしたアイデアって? できることなら聞くだけ聞いておきたいんだけど」


 もし本当にいいアイデアなら採用。

 具体的には時間を短縮できる方法とか。同時に二つの作業を進めるられるとか。とにかく大歓迎。


 それなのに、『オメーのみたいにぶっとんだアイデアじゃねーけど』なんて失礼な前置きをしてくれやがって。

 確かに吹っ飛ぶけど。実行したら。


「こんなに綺麗なら、そこまで力を入れて掃除しなくても分からないんじゃねーの? って」

「…………うわっ」


 却下。論外。あり得ない。

 あれだけ勿体ぶっておいて、そんなのありか。


 文句を言いたいのは俺の方。少しでも期待した時間を返してほしい。


「おい。待て。待てって。何だ今の『うわ』って。そんな態度とられる覚えねーぞ。オイ」


 当の本人は全く問題に気付いていないときた。

 じゃなきゃ普通、ここまで言い返そうなんて思わない。


「いや……いやいや、まさかそんなこと……。……恐れ入りました」

「ぶっ壊すっつったオメーよりは穏やかじゃねーかよ!?」


 ……人がせっかく遠回しに伝えようとしてるって言うのに。


 穏やかだよ。確かに穏やかだろうよ。

 馬鹿馬鹿し過ぎて実行に移す気にもならない俺のアイデアより現実的だろうよ。


「……じゃあ、言っていい? 正直な感想」

「おうよ。言ってみろよ。あんな態度とるだけの理由あるんだろーな?」


「やけに現実的でぶっちゃけ引いた」


 ――現実味溢れる方法だってことが、一番の問題なわけだけど。


「トイレを壊すとかそんな物騒な真似、実際にやるわけないじゃん? でもその、小城の案はなんて言うか……ね?」

「『ね?』じゃねーだろ。納得できるわけねーだろ。天条のアイデアこそ思い浮かべた時点でアウトだろ」


 典型的なサボり魔の発想。一回怒られた方がいい。

 確かに分からないかもしれないけど、バレなきゃいいってわけでもないんだから。


「んだよ、オメー……ちょっと前まであんなに真面目そーな顔してたくせに素はこれかよ……」

「だから何度も否定したのに。真面目とは程遠いって」

「それでもここまでとは思わねーだろ。普通。謙遜だと思うだろ」

「その言葉、自分にも刺さってるって気付こうか?」


 ちょっと抜けてるだけだと思ったら。とんでもない本性を隠し持っていたらしい。


 問題児が目の前の相手だけだと思ったら大間違い。

 どれだけ不満そうな顔をしても、そっくりそのまま突き返してやる。


「大丈夫かよ、俺達……。コレがリーダーで……」

「コレ呼ばわりはないだろ、コレ呼ばわりは。……それとも変わる? そこまで言うなら」

「全身全霊で却下」


 考えようによっては、一歩前進。……後退しているのは多分気のせい。


「冗談だって。今のも。……オイ、天条? 分かってるんだろーな?」

「分かってる、分かってる。小城が、いつかこの立場を手に入れようと画策してるってこともちゃんと分かってるから」

「思ってねーよ! これっぽっちも分かってねーよ! 謀反起こせってか!?」

「誰もそこまで言ってない」


 嫌だよ、常に背中に気を付けながら戦わなきゃいけないなんて。






「――今回の件に関しては、全て俺の責任です」


 事件が起きた翌日。

 桐葉達はそれぞれ個別に呼び出され、聴取を受けていた。


 そこで桐葉は、当日指揮を執った[アライアンス]のメンバーに深々と頭を下げた。


「……全て、と言うと?」

「あの化け物を捕捉してから、俺達四人がとった行動の全てです。俺がそうするように言って、他の三人にやらせました」


 呼び出される前から、桐葉は答えを決めていた。

 自らの指示によるものだと話すつもりで、この場所を訪れた。


 桐葉自身、そうだという自覚があった。

 増援の到着を待たず抵抗を始めたのは自分だった、と。


「だが、協力したのであればそれはあの子達自身の意思だ。……そのことについては、どう説明する?」

「真っ先に声を出したのは俺です。そこで、避難するように言っていれば――」

「彼らはそれに従っていた。そう言いたいわけだな、天条桐葉君」


 衣璃亜や宏太、三凪の姿はそこにない。今も別室で聴取を受けている。


 その状況は桐葉にとっても、都合がよかった。

 一対一の聴取だからこそ、両隣から『待った』をかけられることがない。


 しかしそれでも、桐葉の目の前にいる男性が首を縦に振ることはなかった。


「君の指示がきっかけだったという事は分かった。……しかし、だとしたら猶更、腑に落ちない部分がある」


 思わず桐葉は、自身の耳を疑った。

 その言葉に、全くと言っていいほど心当たりがなかったからだ。


 桐葉が視線で問い返すより早く、彼にとっては上官に当たる男性は続けた。


「小城宏太君と東雲三凪君が引き返したのも、君の指示だったのか? 違うだろう?」

「うっ……それは……」


 思わず桐葉は、言葉に詰まった。

 嘘をついたところで意味がない。宏太や三凪の証言で、すぐにバレてしまう。


「…………俺が、イリアと奥に突っ込んでいったからじゃないですかね」


 苦し紛れの回答。

 紛れもない事実ではあったが、説得力に欠けることは桐葉自身、よく理解していた。


「なるほど、君達を心配して。一理ある。――ところで君は、彼らが心配して戻ってくることも織り込み済みで向かったのか?」

「まさか。その逆ですよ。お客さんと逃げてくれって思ってましたから」

「ではやはり、彼ら自身の意思もあった」

「いやまあ、そういうことになるんですけど……」


 男性の反応は、桐葉にとって全くの想定外。

 すぐに話をまとめ上げるものだと、桐葉は勝手に思っていた。


「そう身構えるな。無謀だったのは間違いないが、結果として救助を早められたのも事実。無謀ではあったが」

「だからって、わざわざ二回も言わなくても」

「忘れてもらっては困るからな」


 桐葉にとっては、耳の痛い話。

 無謀だったという自覚があるからこそ、聞き流せる筈もない。


 しかし、そんな桐葉が見たのは、何故か穏やかな笑みを浮かべる上官。

 桐葉と目が合うと、今度は桐葉の更に後ろへと視線を向けた。


「――と、いうことだ。今回の命令無視については君たち一人ひとりに責任がある。……異論はないな?」


「最初からそのつもりっす。誰か一人になんて押し付けませんって」

「わ、私も……! ……私も、同じ気持ちです」


 そしてそこには、宏太と三凪の姿があった。

 二人の後ろで、衣璃亜も『何を今更』と言わんばかりに鼻を鳴らす。


「お、小城? それに、東雲さんまで……」


 その姿に驚かされたのは、他でもない桐葉だった。


「ったく、水くせーこと言うなよな。俺は俺の意思でやったんだぜ?」

「後悔なんて、してないから。……ありがとう。天条くん」


 桐葉が呆気にとられている内に、衣璃亜は二人と入れ替わる。

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、桐葉の目の前に立つ。


「……どうやら、見抜かれていたようですよ? あなたの考えも」

「イリア……まさか話してないだよな? な??」

「さあ、どうでしょう?」


 その言葉が答えだろう。とは、桐葉も言わなかった。

 代わりに零れたのは、心からの笑みだった。


「……益々、今後が楽しみなチームだ」


 背中から聞こえた言葉も、聞き逃してしまうほど。


「さて、君達の処分だが――」







「ちっくしょ、これ全然軽くねーよ。『成果を考慮する』とか何とか言ってなかったか? あの人」

「じゃあ、スカイダイビングの方がよかった? パラシュートなしの」

「なに言ってんだよ。そんなの楽し――……オイ待て。なし? 何が?」

「パラシュート」


 あんなことをさせられるより、はるかにマシ。


 決まったんだから仕方がない。文句を言ってもどうにもならない。

 施設全体のトイレの掃除を二週間。こんな甘い対応、そうそうない。


「……それどうやったって生き延びらんねーじゃねーか!?」


 だからもう、さっさとやるしかない。

 焦らず確実に、早急に終わらせるしかない。


「いやいや、飛行魔法で踏ん張ればなんとか」

「オメーは飛行魔法を信頼しすぎなんだよ!?」

「いける、ギリギリいける。めちゃくちゃ頑張れば」


 全力で飛べばなんとかいける。できることなら二度とやりたくないけど。


「――お喋りが長いのは感心しないな。二人とも」


 注意にしては、柔らかい声。


 いつまでも続きそうなやりとりを止めたのは、やっぱり東雲先生だった。

 後ろにはイリアも東雲さんもいる。


「あっ、東雲先生! 聞いてくださいよ、天条のやつとんでもねーことしか言わなくて」

「それを言うならお前こそ」

「ばっ、言うなよ!? さっきのあれは絶対言うなよ!」

「そういう前フリ?」

「んなわけねーだろ!?」


 さすがに言わない。言うわけない。……いくらなんでも気の毒だし。


「ほら、二人とも落ち着いて。特に天条君はリーダーだろう? 君がしっかりしないと」

「そういう区別はどうなんですかね? ここは全員そうするべきだと思いますけど」

「た、確かに……」

「東雲も俺の味方してくれよ!?」


 ――それは、あの話し合いの後に決まったこと。


 満場一致。反対意見なし。


 小城から東雲さん、イリアと三人立て続けに同じ相手を推薦した。

 だから、俺も本気で引き受けさせてもらうことにした。


「それより二人とも、ここの掃除は終わったのかな? まだこれで終わりじゃないんだよ?」

「……そういえばそうでしたね」


 一応、残りはあと少し。

 このフロアに限れば、あと少しで終わる。……まだ次があるけど。


「終わらせます、すぐに終わらせますんで! ほら行こーぜリーダー!」

「その呼び方禁止。破ったら、リーダー権限で明日はどこか一か所任せます」

「そこまでの権限ないだろ。あってたまるかよ」


 雑にならないように、遅くならないように。

 待たせるのはさすがに悪い。


「ないなら作ればいい。はい決定」

「却下に決まってんだろ。とんだ暴君じゃねーかよ」

「……会話に使うエネルギーを抑えようとは思わないんですか。あなた方は……」


 俺自身を含めて、まだまだ荒削りのチーム。


 ――騒動の中での結束が、俺達の最初の一歩となった。




(To Be Continued...)


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