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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
233/596

033

「待て待て待て! 吹っ飛ばすってどーすんだよ、めちゃくちゃあるじゃねーか!?」


 下を指差し、小城は叫んだ。

 小城の右手の人差し指の先は、確かに信じがたいほど濃密な黒に埋め尽くされている。


 たった今、怪物の源になり得る事を証明してしまった膨大な黒。


 生み出された怪物は、衣璃亜がこれまで見て来たものと比べても異質。

 この環境が影響を与えているのは火を見るより明らかだった。


「最大火力を一度にぶつける以外ありません。――発生源諸共、消滅させるために」

「じゃあ、その発生源だけどうにかするってのは駄目なのかよ。いくらなんでも、範囲が広すぎて……」


 自身の目に見えない範囲まで広がっているだろうという予感は、衣璃亜にもあった。


 それら全てを一滴も残さず吹き飛ばそうと思ったら、この建物を崩壊させることに繋がりかねない。

 それだけの火力を発揮させる時点で、あまり現実的ではない。


「既に広がっているそれをどうにかしなければ、無限に湧き出るでしょう? この区画にあるものだけは消しますよ。なんとしても」

「じゃあ、東雲先生たちが着くのを待つのは」

「待てませんよ。……あれが一体だけで終わる保証がどこにあるというんですか?」


 翼を広げた桐葉を追うように、黒の中から姿を現した怪物。

 個体としての能力も決して低くはなく、小鳥のように自在に飛び回る。


 それも今、桐葉の《炎弾》を浴びせられて消えた。今度は五発だった。


「一体だけって、今そこにいたじゃねーかよ。二匹目が。どうせ次も出てくるんだろ? だから待った方がいいって言ったんだって」

「……どうやら、言い方が悪かったようですね」


 呟き、衣璃亜は視線を左へ逸らした。


 視界の中央に桐葉を捉えたまま、左手へと魔力を集める。

 頷いた桐葉が再び炎を作り出すのを見て、狙いを定める。


「――同時に二匹以上出ることが、絶対にないと言えますか?」


 青白い閃光を背に、衣璃亜は小城と東雲の方を振り返った。


 同時に現れた二匹の内の、手前の個体。

 桐葉の炎を浴びせられた個体と瓜二つのそれが消滅する瞬間を、見届けようともしなかった。


「……ないっつーか、出てたじゃねーか。今。すぐ仕留めてたじゃねーか。二人で」

「えぇ、そう。それが答えです。姿を変えられる前に始末した方が都合がいいんですよ」


 このままの状態であれば、防御力などないに等しい。


 二匹目の出現とほぼ同時に桐葉が放った《魔力砲》によって証明された。


 怪物としての姿を得るより早く仕留めるために放たれたもの。

 彼の狙い通りの結果にはならなかったが、広がる黒に大きな穴をこじ開けた。


 そしてその穴も、際限なく溢れ出す黒によってたちまち埋められた。


 消滅させること自体は決して不可能ではない。

 発生源も併せて潰すことさえ出来れば、これ以上の被害は食い止められる。


「で、でも、もしかしたら、どこかに誰かが……」

「そんなことは分かっていますよ。……ここからただ眺めているだけだと思いましたか?」


 唯一最大の懸念も、じきに解消される。

 宙に浮かぶ巨大な黒の影に隠れた彼が戻れば、その心配をする必要もなくなる。


「――そういう、こと……っ」


 取り残されたであろう唯一の人物を助け出した今、その事を気に病む必要はない。


「て、天条くん……その人……」

「埋もれてたんだよ、あの隅の辺りに。……少し消耗してるけど、なんとか大丈夫。組織の病院で診てもらう必要はあるだろうけど」


 警備員の男性をしっかりと抱きかかえて、桐葉は戻って来た。


 制服にこびりついた黒を払い落としながら、男性を床に寝かせる。

 ある人物のもとに残していったため、上着をかけることまではできなかった。


「そのためにも、これをなんとかしないと。今度は俺達が取り残されることになるし」

「笑えねーよ。その冗談。マジでそうなる寸前じゃねーか。今」

「だからあれを一気に吹っ飛ばして……あれ、聞いてない? イリアから」


 一度は黒に取り込まれてしまった男性の様子を確かめつつ、桐葉も振り替える。


 微かな驚きと疑念がその顔には浮かんでいた。

 小城や東雲の反応が引っ掛かったからこその反応だった。


「話しましたよ。もう。納得はしていないようですが」

「いや納得ったって……なぁ? 東雲……」

「あ、えっと……うん……」


 あとはもう仕上げだけだと言うのに、小城と東雲はなかなか首を縦に振らない。


 衣璃亜が、飛行中の桐葉とアイコンタクトを交わしてまとめあげたプラン。

 時間も余裕もないからこそ、力押しに頼ってしまっている部分が大きいのは否めない。


 今まさに、新たな怪物が産声を上げようとしている。

 煮えきらない態度の二人に、衣璃亜が駆けられる言葉も限られる。


「何かまだ、他に心配事でも? あるのなら言いなさい。すぐに解消してあげますよ」


「えっと、心配っていうか……」

「……いくらなんでも俺達だけじゃ厳しくね? コレ」


 そんなことか――喉まで出かけた言葉を衣璃亜は呑み込んだ。

 隣に移ってきた桐葉に、待ったをかけられ呑み込んだ。


 そしてそのまま、小城と東雲の方へと振り返る。

 いつも以上に穏やかな、しかし確かな決意を宿した表情で振り返り、そして。


「大丈夫だよ。だって、ここにいるのは――」






 二葉は走った。


 足場を新たに用意している暇などない。

 足場を作り出すための僅かな時間すら惜しかった。


 故に力を振り絞り、足元に広がる黒にも構わず、走り続ける。

 先の戦闘の疲労も押し退け、ひたすらに走った。


(無事でいてくれ、皆……!)


 走る続ける二葉を阻むように、奥から次の黒が押し寄せる。

 怪物に姿を変え、一度は辺りから完全に消え去った黒が再び並みとなって押し寄せる。


 ――発生源を潰さない限り、半永久的に発生する。


 戦闘後に提示された最悪の可能性。

 二葉の周囲の状況こそが、予想の正しさを証明していた。


 同時に、対処すべきという彼らの判断が正しかったことを示していた。


(あと少し、あと少しで着くから……!)


 救助された男性と、信徒は同行していた二人によって運ばれた。


 A班から向かっているのは、二葉と指揮役。

 そして今も、別の方角からB班の二人が三凪たちのもとを目指して移動を開始した。


 発生源が倉庫にあたるエリアであることは分かっていた。

 四人も今、そこにいる。


 三つの端末の反応は、依然としてその場から動かない。


(もう少しだけ、頑張ってくれ……!)


 ――四人はおそらく、その場を動くことができない。


 そんな予感が、いっそう二葉を駆り立てる。

 一刻も早く辿り着かねばと、二葉の身体を突き動かす。


 無事でいてさえくれるのなら、二葉はそれでよかった。


「っ、あと……!」


 いよいよ入口が見え、二葉が更にペースを上げようとしたその瞬間。


「なっ――――!?」


 目を覆っても防ぎ切れない眩い光が、たちまち辺りを呑み込んだ。


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