表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
232/596

032

 飛び去って行く姿を見て、思わず安堵してしまった。


 まだ何も解決などしていない。

 得体の知れない巨大な黒が、今もまだそこに浮かんでいた。


 にもかかわらず、どこかで、大丈夫だろうと思ってしまった。


 不可思議な魔力の剣と、力強く羽ばたく白い翼。

 足場を蹴って勢いよく飛び立ったその背中を見て、終わりを予感していた。


 距離を詰めていく彼を阻む者は、一向に現れない。

 巨大な黒へと近づく彼も、両手で剣を握りしめたまま速度を上げていく。


 ――刃が黒を切り裂いたのは、その直後のことだった。


 どんな手品か、重力に逆らい続ける塊のごくごく一部。

 ヒトを容易く押し潰せてしまうそれにとってはおそらく、毛先同然。


 桐葉と衣璃亜の会話は、三凪もしっかりと聞いていた。

 何かしらの魔法で、宙に浮かぶそれを少しずつ削るつもりだろうと思っていた。


 妨害もなく、内部に何かが隠れている様子もない。

 念のための確認をもう少しだけ繰り返せば、あとは元凶を破壊してしまえばいい。


「て、天条くん……っ!?」


 そう思って、標的が破壊されるその瞬間を待っていた三凪が見たのは。


「……まだ、あんなものを隠していましたか」


 床に広がる黒と同じ色をした、大きな翼だった。





(こいつ、今まで隠れて……? いや――)


 ――地面の黒から、今、飛び出すように現れた。


 自身を狙う凶悪な爪から逃れた桐葉は、それを見下ろし心の中で呟いた。

 毛先に触れる冷たい壁の存在を感じながらも、降下をすることはなかった。


 犬型に似た形状。四つ足に、二つの紅い目を光らせている怪物。

 やや大型である事と、もうひとつ。他の個体にない特徴は自然と桐葉の視線をくぎ付けにした。


(どうしてまた、あんなとってつけたようなものを……)


 怪物はその背中から、大きな翼を生やしていた。


 鳥のような、桐葉の《飛翼》にも似た形の、黒い翼。

 それを形作っているのはやはり、怪物の身体を構成する黒いナニカ。


 実在の動物を模した個体が多いからこそ、その怪物の異様さは際立つ。


(……二種類融合させたんだか、羽根だけ無理矢理くっつけたんだか、分からないけど)


 しかし桐葉も、やるべきことに変わりはないと再び剣を握りしめた。


 今度は片手。より研ぎ澄まされた意識が、形状を確かなものにした。

 桐葉にその自覚はなかったものの、『片手でいける』という直感に従った。


(今の、標的は――!)


 そして桐葉は、左を向いた。

 怪物の姿を視界に収めながらも、身体をそちらに向けることはなく。


「――ッ、はァ!」


 巨大な黒を、再び魔力の剣で切り裂いた。


 怪物の凶悪な爪が空を切ったのは、その直後。

 斬撃の勢いをそのままに、桐葉がそれから遠ざかったほんの数秒後のことだった。


 桐葉の背を追うでもなく、元居た場所から一直線に突っ込んでいった。

 方向転換をしようと、全くの無防備な姿を晒していた。


「撃ち尽くしてでも焼き尽くせ――……!」


 生じてしまったその隙に、桐葉が大量の炎弾を生成している事にも、気付かなかった。


 次の瞬間、怪物の身体は爆炎に包まれた。

 桐葉の《火炎》が四方八方から襲い掛かり、巨大な翼をたちまち炎で呑み込んだ。


 度重なる衝撃に襲われた怪物は、既にバランスを失っていた。

 尽きない炎が、怪物の身体を焼き続けていた。


「そのまま落ちてしまえ、化け物……」


 ついには耐えきれず、怪物は落ちていく。

 その身体を周囲へ散らしながら、その姿を消していく。


 時間にしてみれば、ごく僅かな間の出来事。

 地面を埋め尽くさんばかりの黒さえなければ、桐葉も《飛翼》を使う必要のない高さしかない。


 むしろ、翼を広げたことで天井が必要以上に近付いてしまった。

 いつ激突してしまうかも分からない中、彼は飛ばなければならなかった。


 怪物の速度があと少し早ければどうなっていたことか――遅すぎる冷たい汗をぬぐいながらも、桐は思わず息を洩らす。


(まだ、こんな見張りが残ってたなんて……)


 怪物の強度に対する驚愕を露わにすることなく、息を整える。


 最初、桐葉は一発でも《火炎》を当てさえすればいいと思っていた。

 当てることができれば、仕留められるだろうと予想していた。


 しかし実際には、怪物は倒れなかった。

 耐久力に全てを注ぎ込んだ犬型の怪物を確実に仕留められる威力の炎弾を、八発も耐えきった。


(防御特化型と違って、遅くもないし……ベースが最下級じゃなかったんだろうな、あいつ……)


 もう一度、今度は両手で剣を握りつつ、桐葉は怪物が消えた地点を睨む。


 突如として、床を覆う黒の中から浮かび上がるように姿を現した怪物。

 辺り一面に広がる黒の一部から切り離され、この場で誕生した怪物。


(……じゃあ、まさか)


 そして桐葉は、すぐに気付いた。


 今この瞬間にも起こり得る、恐るべき可能性に。

 たった一匹潰しただけでは到底終わらない、最悪の展開に。


 一切手を加えることなく、魔力を高める。

 剣を手放した右手に集められた魔力は、真下へと向かって行く。


(っ、間に合わ――)


 到達より一瞬早く、怪物を半永久的に生み出し続けるそれは更なる脅威を生み出した。






「まだ出てくんのかよ……?」


 さすがにヤバいだろ。ヤバいって。

 今はまだなんとかできるかもしれないけどよ、いくらなんでももたないって。


「……そうきましたか」


 あんなことを繰り返してたら持たねーよ。誰でも。


 さっきの個体だって、倒すまで何発か使ってたのが見えた。

 聞いてねーよ。天条が何発も撃ち込んでやっと倒せるなんて。


 そりゃ少しくらい頑丈なヤツもいるだろーけどよ、硬すぎんだろ。いくらなんでも。


 それで空も飛べるとかどうなってんだ、さっきのヤツ。

 しかもまた同じヤツが出てきたじゃねーか。


 こっちは当てるだけでも大変なのによ。


「さすがに退こうぜ? これヤバいだろ。衣璃亜ちゃん、さっき言ってたよな? いざとなったら撤退させるって――」


「――えぇ、分かっていますよ。私も同じ考えです」


 ……そりゃそーだよな。


 こんなの、天条達だって退くしかねーよ。

 どうすりゃいいんだよ。すぐ次が出てきやがるってのに。


「……何をしているんですか。さっきから」

「何って。降りるんじゃねーの? だから飛行魔法使オーと思って」

「降りたところで利点などないでしょう。巻き込まれたいんですか、あなたは」


 ……なんか、会話かみ合ってなくね?


 っつーかなんだよ。巻き込まれるって。

 こえーよ。今から何する気だよ。


 まさか、下に見えてるこれが怪物になる前にどーにかするとか言う気じゃ――


「地面のアレを一掃するしかないでしょう。塵一つ残さず」


 ……マジかよオイ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ