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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
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027

 桐葉の対応は迅速だった。


 紫の光が彼の目の前を駆け抜けた次の瞬間。

 桐葉の右手に宿った《火炎》は、一筋の閃光が辿った道筋を駆けるように遡った。


 男性を支える右腕は固定したまま。

 その姿を一目見て、躊躇いなく炎に変えた魔力を解き放つ。


 その場で出せる最高速度。

 それでも、一直線に突き進む炎弾が白い外套を捉えることはない。


「小城。その人のこと、少しよろしく……っ!」


 返事を待つだけの余裕は、桐葉にもなかった。

 男性を小城の側へ寄りかからせるように抜け出した時にはもう、信徒の二の矢が迫りつつあった。


「――阻め、《岩塀》!」


 右手を振り下ろした桐葉の目の前。

 ショッピングモールの内装には似合わない壁のような岩が、景色の中に割り込んだ。


 微かな衝撃と、小気味よく弾ける小さな音。

 五つに数を増やして放たれた紫の光を、《岩塀》の魔法はひとつの例外もなく拒絶した。


「――《流穿》!」


 しかしすぐさま、他でもない桐葉の水の魔法によって貫かれる。

 紫の光を阻んだ岩の壁のど真ん中に、穴が開く。


 そこに在る筈の障壁をものともせず、渦を巻きながら突き抜ける青。

 突き出した桐葉の右手から放たれた《流穿》の勢いは留まることを知らず、虚空を貫いた。


 今の今まで信徒が立っていたその場所を、桐葉の魔法が貫いた。

 遅れて、《岩塀》の魔法が音を立てて崩れ去る。


 それもこれも、全て桐葉の狙い通り。

 そうなるように、桐葉は《流穿》の魔法に少しだけ手を加えていた。


「……気の毒に。懸命に守った主に壊されるなんて」

「残しておいても悪用されるだけ、だろ――!」


 すくい上げるように振り上げられた桐葉の左手。

 崩れ去った《岩塀》の破片が、旋風によって舞い上がる。


 更なる魔力が起こした風が直撃し、散弾のように飛び散った。


「お、おい……っ!?」


 直撃すれば、魔力を宿していようと致命傷は避けられない。


 小城が声を洩らしてしまった原因は、確実にそれ。

 小城の内心を悟りながらも、桐葉は彼の方を見ようともしない。


「……使うものか。お前達、[アライアンス]が作り出したものなど」


 ――飛び散る岩の弾丸は、たちまち砕かれた。


 しかし彼の視線は、不快感を隠そうともしない信徒へと向けられていた。


 白い外套の隙間に桐葉が見たのは、彼がよく知る[創世白教]らしい表情。

 その目は桐葉を、桐葉達を、ヒトとして見ていなかった。


「――この程度の小石、残しておく価値もない」


 そうしてようやく、桐葉はその視線を怪物へと動かした。

 物音一つ立てることなく姿を現した怪物へと動かした。


「どうした。もう終わりか。威勢がよかったのは最初だけか」

「そう思うならそいつをこっちにけしかけてみたらどうですか?」

「断る。お力を借りるのはこれで最後だ。お前達には勿体ない」


 これまで幾度となく彼の前に立ちはだかった、紅目の怪物。

 跳躍し、桐葉が打ち出した岩の破片をことごとく打ち砕いたのは、狐に似た外観を持つ個体。


「――《煙幕》!」


 しかし桐葉は、大きな尻尾を持つ個体との直接対決を避けた。


「け、煙……っ? 天条オメー、そこまでしなくたって――」

「話はあと! 引っ張るからこっち!」


 辺り一帯を、小城や東雲すら覆い隠すほど広い範囲を、煙で覆った。


 小城や東雲にとっても想定外の目くらまし。

 戸惑う声が聞こえるより早く、桐葉は小城へ手を伸ばす。


 魔法を発動させるより早く、桐葉は小城の正確な位置を再確認しておいた。

 衣璃亜とも、アイコンタクトで意思疎通を済ませていた。


 故に足取りに迷いはなく、勢いを落とす事無く小城の手を掴めた。

 男性の体重を一心に背負い、一気に走り出すことができた。


(あいつに時間を喰ってる場合じゃない……!)


 イリアの気配を隣に感じながら、広がり続ける《煙幕》の中を駆け抜ける。


 決して、勝算のない相手ではなかった。

 単純な能力だけを見れば、どれだけ高く見積もっても以前のゴリラ型の個体には劣ると推測していた。


 懸念材料となったのはやはり、信徒の存在。


 何者かの指示があれば動きに少なからず変化が生じる。

 そうでなくとも魔法による援護がある。信徒がただ眺めるだけでは終わらないことを、桐葉はよく知っていた。


 信徒の言葉など、当然桐葉は信用していない。

 鵜呑みにすることなど、桐葉にできる筈がなかった。


「大丈夫ですからね。もう少しで、外に着きますからね……!」


 今ここに居るのは、桐葉達[アライアンス]のメンバーだけではない。


 救出した男性の身の安全は、まだ確保されていない。

 それどころか、信徒が現れ一気に危険度は高まってしまった。


 速攻が決まらなければ、一度退く。

 信徒の姿を視界に収めた時点で、桐葉は密かにそう決めていた。


「――逃がすとでも思ったか」


 ただ走り回るだけでは、決して逃げ切れないことも承知の上で。


「来るだろうと思ったよ!」


 刹那、二つの光が交じり合う。


 迸る魔力が周囲に飛散し、激しい明滅が周囲を照らす。


 男性を背負ったまま突き出された桐葉の右手は、真っ直ぐに伸びきっていた。

 その先から放たれた一筋の光は、桐葉らを狙う紫の発光体を正確に捉えていた。


「《火炎》――……掃射!」

「《ライトニング》!」


 再び、爆発。


 あえて紫光の魔法へ群がった炎の魔法は衝突し合い、辺りの煙を吹き飛ばす。


「《水壁》……!」


 爆風から桐葉達を守ったのは、膜のような薄さからは想像もつかないほどの強度を持った水の盾。


 正面から襲い掛かった衝撃を、水の魔法は確かに受け切った。

 その証拠に四人は勿論、桐葉の背中の男性にも怪我はない。


 しかしそれでも、上からの攻撃を防ぐことはできない。


「降り注げ、《チェイン・サンダー》!」


 その隙を、信徒がみすみす放っておくはずがない。


 桐葉達の真上に生じた雷は、細い輪を成すように駆け巡る。

 標的を収め、火花を散らし、一気に駆け降りる。


「……そんなことだろうと思いましたよ」


 そうして降り注いだ雷は、またしても円形の盾に阻まれた。

 衣璃亜が直前まで発動させずに残しておいた、光の盾に阻まれた。


「焼き尽くせ――」


 雷の雨が止まない中、桐葉は右手に、灼熱を宿した。


 その魔法を放つ時、桐葉は上を見ようとしなかった。

 ただ一点、標的を、狐にも似た怪物だけを見ていた。


「《熱線》!」


 衣璃亜の盾が突破されることなど、彼はまるで恐れていなかった。


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