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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
224/596

024

「――っ、はァ!」


 桐葉の拳が、闇を貫いた。


 桐葉と衣璃亜の姿を見つけるや否や走り出したのは、虎のようにも見える個体。

 犬型にしては明らかに大きなそれは、飛び上がった直後に桐葉の手で葬られた。


「……また別の種類ですか」

「こんな悪趣味なサファリパーク、誰が好き好んで来るんだか……」


 フードコートのある三階。

 その限られた範囲内でも、同じ怪物の姿を二度見ることはなかった。


 エレベーターとエスカレーターが近くに集まった区画は、既に小城と東雲が向かっている。

 それ以外――おもちゃ売り場や文房具売り場へも、二人は足を運んだ。


 少し歩けば、たちまち怪物の姿が視界に映り込む。

 売り場を破壊し、時には店員にも襲い掛過労とした怪物を、二人は仕留め続けた。


「文句を言っても仕方がありませんよ。……それより、そろそろこの階から引き上げるべきではありませんか?」

「待って。少し。……どこか、見落としている気がして」


 荒らし尽くされた雑貨店を一瞥した桐葉は、堪らずため息をついた。


 棚は倒され、キャラクターのプリントされたハンカチは無残にも引き裂かれている。

 こういう形での被害を目で見るのは、桐葉も初めてだった。


「……時間をかけすぎると、あれらが勝手に動くかもしれませんよ? 倉庫側は後回しにするしかないでしょう」

「分かってる。倉庫じゃなくて……どこか、当たり前の場所を見落としている気がして」


 そこが具体的にどこなのか、桐葉本人にもよく分からなかった。

 しかし、見落としているという感覚が今も枯れに付きまとって離れなかった。


 このフロアの売り場は、二人で全て見て回った。


 赤目の怪物は逃がす事無く仕留めて回り、襲われていた人々を連れ出した。

 時に背負い、時は肩を貸し、めちゃくちゃに荒された売り場から連れ出した。


 それでも自力で逃げられそうになかったために、一か所に集めるほかなかった。


 一人ひとりを送り届けるだけの時間は、桐葉達になかった。

 避難誘導を頼んだ小城や東雲を呼び戻すことなどできる筈がなかった。


 怪物に襲われたために、怪我を追ってしまった者もいる。

 応急処置は済ませたものの、手荒なことはできない。


「だったら、戻りながら考えればいいでしょう。何か思いつきませんか?」

「思いつかないかって言われても――」


 やはり戻るべきなのだろうか。

 つい視線を上に向けた桐葉の目に、ふとあるものが映り込む。


「…………あぁっ!?」


 それは、案内用の看板だった。


 光を失ったそれが指し示すのは最寄りのエスカレーターと、もう一つ。

 彼の胸の中に留まり続けた疑問が今、氷解した。


「……そういえば、まだ見ていませんでしたね。籠るには絶好の場所だというのに」


 桐葉の視線を追いかけた衣璃亜も、表記を見て、納得がいったように呟いた。


 丸と三角。組み合わせられた二つの図形。

 それぞれ赤と青に塗られたそれは、人の姿を現している。


「……まさかとは思いますが、あなたが行きたいわけではありませんよね?」

「ないから。言い訳になんて使うわけない」

「えぇ、だと思いました。あなたのことですから」


 その言葉を最後に、二人の足は自然とそちらへ向かって動き出した。


 その気になれば、上からでも下からでも入り込めてしまう。

 しかし、咄嗟の避難場所に選ばれてもおかしくない。


(せめて、どのくらいいるかだけでも分かればいいんだけど……)


 避難を促すアナウンスの声は、あれから一度も聞こえてこない。

 他のフロアを確かめる手段も、今はない。


 誰が作動させたかも分からない警報だけが、辺りに響き続けていた。


「それが分かれば苦労はしませんよ。店側も完全に把握しているわけではないでしょう」

「まだ何も言ってないんだけどな、俺?」

「顔を見れば考えている事くらい分かりますよ。いつも一緒にいるんですから」


 桐葉が真っ先にこのフロアの捜索を選んだのも、最初に怪物が姿を見せた場所というのが大きい。

 しかし一〇分が経過した今、移動も視野に入れるべきだと感じていた。


 南の隅に置かれたトイレを調べて、そのまま退くつもりでいた。

 教団の痕跡がなかろうと――


「――っ、当たり……!」


 教団の手が、そこまで伸びていたとしても。


(うっわぁ……)


 トイレへ続く狭い通路。

 その床を埋め尽くす一面の黒を見て、桐葉は思わず顔をしかめた。


 絨毯と呼ぶにはひどく醜悪。

 波のように蠢き、赤い点がその位置を変えつつ怪しい光を放っている。


「……今更になって頭数を揃え始めましたか」

「もしくは、忍び込むために最適だとでも思ったとか」

「だとしても、わざわざこんな姿を取らせる必要はないでしょう?」


 それもそうだと、桐葉は駆け巡る魔力を右手に集める。


 ネズミを模した小さな怪物が、桐葉達の側を見ることはない。

 その後ろで桐葉が手を突こうと、一匹も振り替えることはない。


「――《凍結》!」


 故に全てが、一瞬のうちに氷に包まれた。


 奥へ続く細い床は、半透明の氷に覆われた。

 蠢く怪物は、氷の圧力を払い除けられず動きを止めた。


(こっちの連中は後回しにして、一気に――)


 いざ突入しようとした桐葉の足が止まった。


「っ……!?」


 奥から飛んできた黒い影に止めさせられた。


 それは、怪物に限りなく近い球体だった。

 怪物の身体とよく似た色の、得体の知れないボールのようなものだった。


「桐葉」

「分かってる……っ!」


 ――再び飛んできたそれを、桐葉は左手で撃ち落とす。


 壁に弾み、勢いをつけた黒い球体。

 桐葉の手で地面に叩きつけられたそれは、たちまち溶けるように消えていった。


(やっぱりこれ、あいつらの身体と同じ……!)


 その事実が、桐葉の予感を確信へと変えた。


「曲がり貫け――《流穿》!」


 水の魔法であるからこそ、《熱線》のように威力の低下を気にする必要もない。


 一直線に進む筈の水の魔法は、緩いカーブを描いて奥へと消えた。

 そして何かを、確かに貫いた。


「……いっそ、この壁ごと取り除いてしまいましょうか」

「そこまでしなくていいから。最終手段だから。崩れるかも、しれない……しっ!」


 ――まだ、標的は倒れていない。


 その確信をもって、桐葉は氷の床を駆け抜けた。

 飛来する砲弾を叩き落とし、砕き、駆け抜けた。


「~ッ……!」


 幸い、標的はすぐそこにいた。


 角にその身を隠していた怪物は、確かにキリハの出現に驚いていた。


(おい……っ!)


 しかし、そこにいたのは一匹だけではなかった。


 狭いその場所に、すし詰め状態。

 両手の指でも、数え切れない。


 その奥にまだ隠れていることは、桐葉にもすぐに分かった。

 固く閉ざされた多目的トイレに、誰かが必死で隠れているのも。


 ――すぐにでも、助け出さなければ。


「――《火炎》!」


 炎を纏った桐葉の右拳が、二足歩行の怪物の身体をブチ抜いた。


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