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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
223/596

023

 暗闇の中、蠢く赤。


 淡い光を放つ円陣の上に、それは静かに佇んでいた。

 その場所を一歩も離れることなく、ただその場にあり続けた。


 すぐ傍に転がる一つの影には目も暮れず鎮座する様は、守護者のよう。


 引きちぎられた茶色が無残に転がっていた。

 中身は等しく黒へと取り込まれ、辺りにはもう何も残っていない。


 全てはそれの内を駆け巡る力に変えられた。

 脈打つ鼓動のように光る円陣の糧となった。


 来るべきその時、無関係なものは邪魔にしかならないからだ。






「そ、そういうことだから……! ご、ごめんなさいっ!」


 相手の言葉が聞こえてくるより早く、三凪は携帯電話を閉じた。


 口では謝っていたものの、躊躇いのようなものはまるでなかった。

 明らかに自らの意思で、通話を強制終了させていた。


「お、おい東雲? 大丈夫なのかよ。今の」

「ちょっと、止められちゃって……。ごめんなさい、納得してもらうまで、時間がかかっちゃって」

「いや、そのくらいはいいけどよ……」


 果たして、あれを納得させていたと言っていいのだろうか。

 本当に、『ちょっと』の一言で済まされるような止め方だったのだろうか。


 少なくとも宏太の目には、三凪が一方的に電話を切ったようにしか思えなかった。

 二葉の声は聞こえなかったが、なんとなく想像はついてしまう。


 今も響く着信音が、その証拠。

 三凪の手が一瞬電源ボタンにかけられたのを、宏太は見逃さなかった。


 しかし、とてもそのことを指摘できる雰囲気ではなかった。


 状況が改善されたわけでも、なんでもない。

 彼らが取り組むべき課題はまだまだ山積み。


 宏太と三凪。二人の背中には、今も不安交じりの視線が向けられている。


「――大丈夫っすよ! 外と、ちゃんと連絡取れてるんで! このままこっちついて来てください!」


 あえて大声を上げたのは、宏太が自分自身に言い聞かせるためでもあった。

 暗い階段の上下に、自身の声が響き渡るのを、宏太は感じていた。


 一階まで降りる階段の途中、二人は進むに進めない人達の姿を何度も見つけた。


 転んで負傷してしまった者や、足が竦んで動けなくなった者。

 アクシデントで気を失った者や、それを解放しようとしている者もいた。


 そうした人たちを助け出し、共に慎重に下へ降りていく。そうするしかなかった。

 辛うじて動ける面々の力を借りて、どうにか足を進めていた。


(途中でこれって、下にはどんだけいるんだよ……?)


 物足りなく思っていた買い物客が、今は多くて仕方がなかった。


 見て回っている時には確かにまばらだったはずの買い物客が、後ろに大勢いる。

 思わず宏太は、すぐ近くの手すりに手をかけてしまった。


「……大丈夫っす! このまま行きましょう! このまま!」


 まず宏太が踊り場まで降りて、下の様子を確かめ叫ぶ。

 わざわざそれあと三凪のところへ戻り、上の方にいる人々の様子を確かめながら、ゆっくりと階段を下っていく。


 慎重だからこそ、どうしても時間はかかってしまう。

 怪物に鉢合わせるという可能性を追いやるだけでも、宏太は必死だった。


 不幸中の幸いというべきか、途中で衣璃亜が思わず眠らせてしまった女性の夫と会うことができた。

 それでも、肩にかかる主には増える一方。


「……わりーな、東雲」


 その言葉は、宏太の中にある現状への不安が姿を変えたものでもあった。


「そ、それって……どういう……」


 しまったと思っても、時すでに遅し。

 三凪の目はしっかりと宏太に向けられていた。


 大きく見開かれた目が、自身の耳を、宏太の発言を疑っている三凪の内心を現しているかのようだった。


「計画がちょっと大雑把だったのもあるけどよ、結局、こんなとんでもないこと巻き込まれちまったじゃねーか」


 それは、事件が起きた事を認識したその時に芽生えた気持ちがそのまま言葉になったもの。

 同時に、他の誰にも聞かせるつもりのなかったものでもあった。


 しかし、聞かれてしまった今、それを止めることは宏太自身にもできなかった。


「今日以外の日だったら、こうはならなかったんじゃねーかって。……そんなこと分かんねーのにな」


 突然の襲撃に、宏太は確かに恐怖を感じていた。


 全く予期せぬタイミング。

 まして今は、経験豊富な組織のメンバーも近くにいない。


 チームの中では最も経験の多い桐葉も、今は衣璃亜と共に向かっている。


 こんな状況に置かれながら、足を止めることなく怪物へと向かって行った。

 真っ先に走り出し、怪物に襲われていたという女性を助け出して戻って来た。


 彼らが向かって行った方には、それこそ何があるかも分からない。

 怪物がいないなんてことは、まずあり得ない。


 こうなってしまった責任を全て教団に押し付けることなど、宏太にはできなかった。


「悪い。今の、忘れてくれよ。今は早く下りねーとだよな」


 足を止めることはできない。そんな暇は一瞬もない。

 こんなところで立ち止まっては、いつ怪物に追いつかれるかも分からない。


 終わってしまえば、後でどうにでもなる。そう思うしかなかった。


「……違うと思う」


 三凪の声が耳に届くまで、宏太は自分に言い聞かせ続けた。


「その、こんな風になったのは、残念だけど……私は、今日来れて、よかったよ」


 答えが返ってくることはないと思っていたからこそ、聞き入ってしまった。

 足は、無意識のうちに動き続けていた。


「多分、天条くんも、天上さんも……同じ気持ちだと思うな」


 宏太の中に生まれた小さな安心感を原動力に、動き続けた。


「…………かも、な」


 桐葉の、衣璃亜の答えなど分からない。分かる筈がない。


 それでも、宏太はそんな気がしていた。

 そうあってほしいと、思っていた。


「ちょっと、弱気になってた。……でも、そーだよな。さっさとなんとかできりゃ続きも出来るよな!」

「さ、さすがにそれは止めた方が……」

「……ありっ?」


 ――勢い余って躓きそうになったのは、ここだけの秘密。


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