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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
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022

「……俺と東雲には逃げろって言うのかよ?」


 小城の声は、不満そうだった。


 顔を見なくても分かる。声を聞けば、誰だって分かる。

 言葉にはしなかったけど、きっと、東雲さんも。


「逃げろなんて一言も言ってない。お客さんを避難させてほしいって言ったんだ。それもだ重要な役目だよ」

「けど、オメーもイリアちゃんも行くんだろ?」

「もちろん行く。逃げ遅れた人がいるかもしれないんだし」


 あの怪物の姿はまだどこにも見当たらない。

 エレベーターの方から聞こえてくるのは、急ぐ人たちの声だけだった。


 無茶苦茶になっている買い物客を整列させる役目を、誰かがしなきゃいけない。

 少なくとも、ここの警備員が駆け付けるまでは。


「こんな議論に時間を費やしている場合ではないでしょう。早く行きなさい。それも立派な役目ですよ」

「そう、だけど……」


 信徒が近くにいないなら、どこかに発生装置の役割を果たしているものがある筈。


 どういうつもりか分からないけど、それは今も動いてる。

 それが偶然だったとしても、あいつらが止めるとは思えない。様子を眺めることはあっても、絶対に手を出そうとはしない。


 だから、どうしても役割を分けなきゃいけない。

 ただ攻撃力があるとか、経験値があるとか、それ以外の理由でも。


「――東雲さん、この辺りの地形に詳しいよね?」


 戦闘の向き不向き関係なく、外へ送り出す役目から東雲さんは外せない。


「それは、私がこの町の出身だからで……」

「それだけじゃなくて。裏道とか、普通の人は知らないような道にも詳しい。……違った?」


 選んでくれた店の中には、個人営業らしい場所も少なくなかった。


 結果的に今日は仲良く休業してしまっていたわけだけど、誰でも知ってるような場所じゃなかった。

 位置的にも分かりづらい。俺が一人で向かおうとしたら一瞬で迷いそうなくらい。


「し、調べただけだよ? 別に、全然……」

「それでもいいよ。今は、東雲さんの情報が頼りになるんだから。記憶力も、かなりいいみたいだし」


 今日、東雲さんは一度も地図を見なかった。出そうともしなかった。


 迷路みたいな裏道に入っていく時も、出ていく時もそう。

 似たり寄ったりの景色が続いても、東雲さんの足取りに迷いはなかった。


 だから、裏通りに構えた店を回ってもあの時間にはショッピングモールに着くことができた。


「お客さんには外に出てもらって、その後……案内してほしいんだよ」


 あまり、遠ざけるべきではないのかもしれないけど。


 一回にいても、化け鳥がいたら意味がない。

 戦闘に巻き込まないためには、少しでも離れてもらうしかない。


「安全のために、小城には東雲さんについていってほしい。声もよく通るみたいだし」

「ちょっと待て。一気に取ってつけたような理由になったぞオイ」

「大真面目だよ、これでも。……さすがに、それだけが理由じゃないけど」


 声だけなら拡声器を一旦貸してもらえばいい。

 魔法を使える誰かが少なくともあと一人いた方がいいのはあるけど、小城に頼みたい理由はもう一つ。


「正確な東雲さんの魔法と、『はやい』小城の魔法。一番、相性がいい組み合わせだと思うんだよ」


 小城の魔法が作った隙を使って、東雲さんが叩き込む。


 外にもし出てきたとしても、それでなんとかできる筈。

 倒せなくても、行動不能に追い込むことさえできればそれでいい。


 人数を均等に割り振る以外にも、小城に頼む理由はしっかり持っているつもりだった。


「ったく……どっちもできる天条が言うか? それ」

「それは魔法の話。小城が俺の代わりになれないように、俺も小城の代わりにはなれないんだから」

「……へへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねーか」


 ――そうして、小城は笑った。


 もちろん、あんな言葉だけで納得してくれたわけじゃないと思う。

 騒ぎが起きてから立てたプランだから、まだまだ穴だらけ。


「そこまで考えてあるなら、後のプランもちゃんと出来てるんだよな?」

「もちろん。――なんて、さすがに向こう次第なところもあるけど」

「そりゃ仕方ねーよ。……けど、見つけたらちゃんとこっちに向かわせろよ?」

「当然」


 それでも、小城は俺のアイデアを受け入れてくれた。

 東雲さんも悩んでいたけど、結局、納得してくれた。


 そのことが、自分でも不思議なくらい嬉しくてしかたがなかった。






「……そのつもりがなくても、自然となってしまうものなのかもしれませんね?」


 いつものように空中を滑りながら、衣璃亜は言った。

 彼女に限っては、走るよりもその方が速い。桐葉を見ながらであっても、その勢いが落ちることはない。


「からかうなっての。別にそういうつもりでやったわけじゃないんだから」

「えぇ。勿論、分かっていますよ。真剣に考えた末の結論でしょう?」


 分かってるなら言わなくても。その言葉を、桐葉は呑み込んだ。


 今は衣璃亜の走る速度に合わせている程の余裕もない。

 こうしている瞬間にも、何処かで怪物が買い物客に危害を加えているかもしれないのだ。


 ――足を止め、周囲を見回す。そして、すぐさま走り出す。


 怪物の姿を見つけることはできないまま。

 紅く爛々と光る眼に、ヘドロのようにも思える黒は、どこにもない。


 あれだけ特徴的な見た目であれば、嫌でも気付く。

 たとえ視界にとらえられずとも、隠しきれない凶暴性が魔力を通じて伝わってくる。


「呆然と立ち尽くしている姿を見た時はどうなることかと思いましたが……あの二人も、相応の訓練は受けていたわけですね」

「無茶言うなよ。いきなりの襲撃だったんだから」

「ですが、あれらはそういう集団でしょう?」


 組織に属した後も、全く予期せぬタイミングに襲撃を受けたからこそだと桐葉は自覚していた。


 今日とは違って、本当になんてことのない一日として終わる筈だったその日。

 あの時も、同様に教団は前例を無視するような行動に出た。


「……もっとも、その心配も必要はなさそうですね。今日の様子を見る限り」

「さっきは呆れかえってなかったっけ?」

「それとこれとは別問題ですよ。えぇ、どちらの意味でも」

「まだ他にも文句があるのか、お前……」

「ないと言えば嘘になりますね」


 そして、その時と今とは――何もかもが違っていた。


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