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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
221/596

021

「おいおいおい、大丈夫なのかよ、あいつ……!」


 桐葉が走り去っていった方に視線を向けつつも、一歩を踏み出すことができなかった。


 突如響いた悲鳴の原因が、すぐには分からなかった。

 そもそも、突然割り込んできた悲鳴に身体が固まってしまった。


 まして、[創世白教]が動き出したなど、考えもしなかった。


 そもそも、こんな時間に動き出すことはめったにない。

 まして人混みの中にあの怪物を差し向けられるなど、思いもしなかった。


 以前、例外としては聞かされていた。

 しかしまさか、その例外に自分が直面するとは思っても見なかったのだ。


「大丈夫に決まっているでしょう。中途半端に偏った能力を持っていようと、関係ありませんよ。桐葉には」

「そりゃ、俺達よりは経験あるかもしれねーけど……!」


 だというのに、桐葉は躊躇いなく走り出した。


 それが教団に呼び出された怪物だということを確信した上で、走り出した。

 直前の姿からは想像もつかないほど真剣な表情で、イリアに声をかけて駆け出した。


「それより早くあれらを逃がしますよ。巻き込まれてもいいんですか」

「ぜ、全員……? 警備員さんに言った方が……」

「いつ来るか分からないものを待っても仕方がないでしょう。――始めますよ」


 それだけ言うと、イリアは何も言わずに手を掲げた。


「――ここから、立ち去りなさい。今すぐに。巻き込まれますよ」


 並のような魔力が彼の中を通り過ぎたのは、その直後のことだった。


「これ、人払いの……」

「えぇ、その通りですよ。一人ひとりに声をかけるより、こうした方が早いでしょう? 叫び回るよりも確実ですから」

「じゃ、じゃあ、私も……」

「あなたはそれより姉に連絡しなさい。……向こうが気付くのを待っていても仕方がありませんから」

「は、はい……っ」


 人払いの魔法が徐々に広がっていくのを、小城は肌で感じていた。


 今の今まで悲鳴に気を取られていた人々が一人、また一人と去っていく。

 誰に声をかけられるでもなく、そうすることが当然であるかのように去っていく。


 それは小城にとって、不気味な光景でもあった。


 大勢いた買い物客たちが、足を揃えてエスカレーターの方へと向かって行く。

 たった一人の例外を除いて、こちらに向かって来ることはない。


「――た、助けて! 怪物が、怪物が……!」


 怪物に襲われていた女性以外、誰も。


 どうにか逃げ出してきたであろうその人こそが悲鳴の主。

 そのことは、小城もすぐに分かった。


「っ……怪物がとだけ言われても分かりませんよ。少し落ち着きなさい」

「ぅっ……?」


 最も近くにいた衣璃亜に縋りつこうとした女性は、その衣璃亜によって眠らされた。


 それ以上は近付くなと言わんばかりに衣璃亜が手をかざすと、たちまち眠った。


「い、いいのかよ? そんな眠らせたりして」

「何か問題でも? 正当防衛ですよ。いきなり近付こうとするからです」

「逃げてきた相手に容赦ねーなオイ」

「……簡単に言ってくれますね」


 服の一部は引き裂かれてしまっているが、大きな傷はない。

 躓きそうになりながらも、走るだけの力は残っているらしかった。


「そこまで言うならこれの面倒はあなたが見なさい。……背も一番高いでしょう?」

「いや、いいけど背は関係ね――うぉっ!? 危ねーな!?」


 そんな人物に、どうして衣璃亜があんな態度をとったか分からなかった。

 目的は、桐葉と同じ筈だと言うのに。


「静かにしなさい。怪我をさせるとでも思いましたか?」

「怪我っつーか、今の渡し方はちょっと危なかったろ……」


 衣璃亜がその人物に立ちして、特別嫌悪しているようには思えなかった。


 どういう経緯であれ[アライアンス]に属しているのだから、そういう気持ちがないわけではない筈なのだ。


「――ごめん、遅くなった!」


 その秘密を他に知るのは桐葉くらいのものだろうとも、感じていた。






「て、天条くん……よかった、無事で……」


 見れば、この辺りの買い物客も離れた後。

 途中で一瞬感じたイリアの魔力は、やっぱり人払いの魔法だった。


 ……どうしてさっきの女の人が眠っているのか分からないけど、一安心。


「……一匹だけでしたか」

「今のところは。多分、どこかにまだいるんだろうけど……」


 仕留めた後に改めて周りを調べてみたけど、襲ってきた一匹の他には何もいなかった。


「ま、まだいるの……? 他に魔力なんて、感じなかったけど……」

「信徒がいなくても、発生装置を置けばいいんだし。問題はそれがどこにあるかだけど……」

「それを晒け出すほどの間抜けではないでしょうね、確実に」


 そういうところではもっと堂々としてくれていいんだけど。

 どうせ自分達の行いには自信を持ってるんだから。


 あの化け物を見た人達はすぐに逃げただろうけど、このことを知らない人もまだ大勢いる筈。

 それでも、さすがにあのまま先へ進むことはできなかった。


「東雲先生とはどう? 繋がった?」

「えぇ、ちょうど聞こうと思っていたところです。……あれは、なんと?」

「あっ、はい……!」


 近くに部隊がいてくれたら、それが一番なんだけど。


 この時間に出回っている舞台なんてほとんどない。

 個人的な用事で一人くらいは近くにいるかもしれないけど、いるとしてもそのくらい。


「えっと、到着まで30分くらいかかるって、言われて……状況が分からないから、できれば、無理せずに皆も避難するように、って……」


 東雲先生じゃなくても、そういう対応をとるだろうって思った。


(あの一匹だけなら、それでもよかったんだろうけど……)


 まさかこれで終わりとは思えない。

 信徒の姿も見当たらないけど、きっとあの化け物はまだどこかに隠れている。


 多分、三〇分でもかなり早い方。

 今からメンバーをかき集めて、その後で拠点を出ることになるんだから。


 でも、それもこれも本当に三〇分以内に個々へ駆けつけられたらの話。

 正直、三〇分以内に着くとはとても思えない。


(……やっぱり、大違いだな。色々と)


 どんな距離だろうお構いなしにとひとっ飛びするのは、あの人だけで十分。


「……見捨てて逃げろというわけですか」

「言い方。東雲さんのせいじゃないんだから。……できるだけ多くの人を連れて避難しろってことだよ、きっと」


 だから、今ここにいるメンバーで、今できることをやっていけばいい。


 ()()()()()多くの人の安全を確保するのが役目なんだから。


「ど、どうしよう……」

「どうするも何もありませんよ。……そうでしょう?」

「もちろん。――俺とイリアであの化け物をどうにかするから、二人は避難をお願い」


 それでも人手不足、まだまだ足りない。


 今のこの状況で動こうと思ったら、それ以外に手はない。


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