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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
212/596

012

 桐葉が《煙幕》の中から飛び出したその瞬間を、二人の信徒は当然のように狙っていた。


 桐葉を貫くべく成されていく、炎と水の魔法。

 両側から挟み撃ちにするべく、それぞれが魔力を高ぶらせる。


 たとえ靄の中であっても、力強く羽ばたく《飛翼》はよく分かる。

 黒く濃い《煙幕》の中を見通すことはできなくても、強大な魔力の脈動は辺りにも響く。


 飛行魔法として見れば、多過ぎる魔力。

 二人同時に、しかも急上昇しようとしなければ、そんなことをする必要はない。


(馬鹿なやつだよ……!)


 せっかくの目くらましも、ただ自らの首を絞めるだけ。


 二人の信徒はその身に纏う外套の力も借りながら魔力の放出を抑えていた。

 魔力をまき散らすかのような桐葉とは、対照的。


「――《爆炎》!」


 それがもう一つの魔法を隠すためのカムフラージュであると気付いたのは、二つの魔法が爆風に呑まれた後のことだった。






「お、お前……っ!?」

「《激流》!」


 信徒の一人は、案の定すぐ傍にいた。


 桐葉の右手側。驚愕の声を上げた男の姿を呑み込んだのは、手から放った《激流》。

 量と勢いに全てを任せた水の魔法は障壁ごと男を押し流す。


(次――)


 完全にバランスを崩した男の魔力だけを追う一方、桐葉の目は遠くへと向けられていた。


「《旋風》!」


 木々の中に紛れ込もうとしていた信徒の姿を、確かに捉えていた。


 もう一人の信徒を下から突き飛ばす突風。

 飛行魔法による逃亡が間に合うはずもなく、白い外套が空へと投げ出される。


「あ……《アクア》!」


 一気に詰めようとしたその瞬間、桐葉の目の前を水の柱が呑み込んだ。


 急ブレーキと同時に暴風で吹き飛ばすも、空へ投げ出された信徒の姿は見当たらない。

 代わりに立ちはだかったのは、《激流》に押し流された最初の一人だった。


「い、いきなり水をぶっかけるやつがあるか! おかげでびしょ濡れじゃないか!?」

「先に炎を投げ込んできたのはどっちだと……!」


 炎と水の魔法が、お互いを打ち消し合う。

 やや信徒寄りの位置で起きた爆発は、両者を更に引き離す。


 その勢いに身を任せながらも、桐葉は《電雷》の魔法を放つ。

 しかしそれも、態勢を立て直したらしい信徒に最小限の被害に抑え込まれてしまった。


 ――更に桐葉が魔力を高めたその時、彼の側面でまたしても炎が弾けた。


 しかし炎の弾丸が辿った道筋を遡るように放った《雷電》は、空へと消えていく。


 今しがた狙撃した筈の信徒の姿は、またしても消え失せた。


「……ふざけている割には、随分と手慣れているようですね」

「同感。さっきの馬鹿発言も、油断させるための罠だったのかもな――!」


 桐葉は、弧を描くように虚空を撫でた。

 桐葉の右手の軌跡を刻むように、小さな炎が次々灯り、


「《火炎》……掃射!」


 我先にとばかりに、飛び出した。


 狙いは桐葉の正面の信徒と、機敏に動き続ける狙撃手。

 一斉に飛び出した炎は、より巨大な弧を成すように朝の空を駆け抜ける。


 手のひらに収まる小石ほどしかなかった炎は、たちまち炎弾へと膨れ上がっていた。


「渦巻け、渦巻け……《スパイラル・シールド》!」


 しかし桐葉の正面の男は直撃しかねない数発だけを防ぎ、動かない。

 真正面の桐葉目掛けて、お返しとばかりに強烈な水の魔法を放つ。


(……本当に、手慣れてる)


 魔力を防壁に変え防いだ桐葉が睨むと、信徒の男も睨み返した。


「聞こえてるからな! 馬鹿発言ってどういう意味だ!?」

「そのままの意味だよ……っ!」

「うわっ……!? しゃ、喋りながら魔法を撃つな!」


 そう言いながらも、男は躊躇いなく炎の魔法に切り替えた。

 すかさず桐葉も風を起こし、それらを払い除けていく。


 空高くへ舞い上げられた炎弾は、萎んで消えていった。

 

(っ、また……!)


 突風が男を吹き飛ばすその瞬間、灼熱の弾丸が桐葉の目の前を駆け抜けた。


 今度は少し、ズラして放つ。


「――させるかぁっ!」


 しかし居場所を絞り切ることはできなかった。

 飛び掛かってきた男を躱さなければならなかった。


 ――信徒の魔法を受ける中、桐葉の中にはある疑問が浮上していた。


(なんだこいつら……教団の連中、こんなに騒がしかったっけ……?)


 衣璃亜が指摘した通り、決して弱いわけではない。


 飛行魔法を使いながらも、魔法の狙いはきわめて正確だった。

 以前、桐葉の故郷で彼を捕らえようとした集団とは比べ物にもならない。


 だからこそ、疑問だった。


 桐葉が知る[創世白教]の者とは似ても似つかない。

 自らの目的のため、時には部下にすら容赦なく当たる姿とはあまりにかけ離れていた。


「……いくらなんでも油断しすぎですよ」

「だからまだ何も言ってないって……っ」


 潜り抜け、盾で防ぎ、反撃の魔法を放つ。

 ようやく、男の魔法の狙いが狂い出す。


「あなたが言ったでしょう? 私達の油断を誘うための演技かもしれません。……足元をすくわれるようなことがあれば、それこそあれに何を言われるか分かりませんよ」

「そりゃ、勘弁……っ!」


 ――朝の空を、桐葉と信徒の魔法が彩っていった。


 衣璃亜のことをしっかりと抱きよせ、桐葉は自ら《加速》させていく。


 必要以上に負荷をかけることがないように。

 ただ男の魔法を見切って、静かに反撃の一手を刺す。


 その動きは次第に信徒の男を置き去りにし――ついには男の背後を取った。


「なんっ……!?」


 そうして、雷の魔法を放とうとしたその瞬間。


「――待て!!」


 下から、呼ばれた。唐突に呼び止められた。


「……?」


 確かな根拠があったわけではない。

 とてつもなく嫌な予感がして、桐葉は動きを止めざるを得なかった。


 その予感は、実際正しかった。


「……お前――ッ!」


 老人が、走っていた。


 おそらく、朝のランニング。

 その背後に迫る怪物に気付くことなく、走っていた。


 鼻先から尻尾まで黒に覆われた、不可解な存在。

 他でもない桐葉自身、その怪物に襲われた経験があった。


「……今回は退いてやる。喜べ。[アライアンス]」


 桐葉がそれを消滅させたその時、二人の信徒の姿はもうどこにも見当たらなかった。


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