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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
208/596

008

(あの人が、例の……)


 初日から大慌ての重役出勤を決めてみせた男子生徒のことを、東雲先生は確かに小城宏太と呼んでいた。

 昨日ようやくこちらに着いたというその人の名前で呼んでいた。


 今朝、東雲さんに教えてもらった通り。

 魔力を持っているみたいだから、まず間違いない。


「小城宏太君――……うん。やっぱり間違いないね」


 魔力の量は、大体東雲さんと同じか少し下。

 といっても、あんな勢いで教室に飛び込めるくらいだから、運動神経は悪くない筈。


 わざとらしく名簿に視線を落とした東雲先生を見て、小城はきまり悪そうに視線を逸らした。


「さ、サーセン……ちょっと、寝坊しちゃって……」

「いや、いいんだ。何かトラブルに巻き込まれたわけじゃないなら。――ただし、明日はちゃんと時間に間に合わせるように」

「うーっす……」


 羨ましいことに、身長は俺より高い。

 東雲先生と並んでくれたおかげでよく分かる。すぐ、自分の席に向かってしまったけど。


「……うん。今度こそ、全員揃ったね。――改めまして、ご入学、おめでとうございます」


 そのインパクトのおかげで、絶対に忘れられない一日になったのは間違いない。


 入学式のつまらない長話の記憶も、どこかへ飛んでいってしまった。


 特に、これといった連絡事項もない。抜き打ちのテストも何もない。

 学校の行事としては、あくまでここまで。


 ――解散の合図からほどなくして、教室はまた喧騒に包まれた。


 保護者のところに行く人もいれば、中学以前の知り合いと話す人も。

 しかし、全員がそうというわけでもなく。


「あっ、天条くん、天上さん。この後だけど――」


「おいおい、仲間外れにすんなってー」


 ノリの良さが、いい意味で顔に現れている人を見たのは初めてだった。


 遅刻してなかったら、朝の内に話すこともできたのに。

 ……もしかしたら、もしかすると、若干、イリアとは相性が悪いかもしれないけど。


「よっ。全員、初めましてだよな。東雲に、天上に……天条だっけ?」

「ああ、合ってるよ。――こちらこそ初めまして。小城、宏太君?」

「『君』なんてつけなくていいって。俺も天条って呼ぶからさ」

「ん、了解」


 俺としては仲良くしたいところ。

 同性で同年代の組織のメンバーなんてそれこそ一人もいなかったから、実はちょっと楽しみだった。


「……んー……?」


 ――のに、小城はといえば人を見ながら不思議そうな顔を浮かべてる。


「どうしたんだよ。そんな首なんて傾げて」

「いやぁ……なんつーか、思ったより普通のヤツっぽいなって」

「一体どんな想像をしてたのか聞かせてもらおうか」


 どうして俺の話を聞いてとんでもないやつが来ると思うのか。


 師匠や橘さんならまだ分かる。

 不器用というか口が悪いというか……とにかく変なところで誤解されやすそうなあの人達なら分かる。


 それでもない。俺はない。絶対にない。あの人達、というか師匠のデタラメ人間エピソードを間違えるなんてことはないだろうし。


「だってオメー、あれだろ? あの人に見てもらったんだろ? それにしちゃなんか普通っつーか……言っとくけど、悪い意味じゃねーぞ?」

「だと思ったよ。……ついでに、おかげで色々腑に落ちた」


 そうか。そういうことか。

 あの人か。あの人と関係してるのがそもそもの原因か。……俺のせいじゃないじゃん。


 師匠に鍛えてもらうことと変人をイコールで結びつけないでほしい。


 相手は空から降って来て『痛い』で済ませるようなデタラメ人間なんだから。

 ちょっと鍛えてもらったからって同じ舞台に立てると思ったら大間違い。


「確かに面倒を見てもらってたけど、別にあのインチキスペックみたいなことはできるわけじゃないから。期待してたなら先に謝らせて?」

「いや、いいって。むしろそれ訊いて安心したっつーか……それよりオメー、そんなこと言っていいのかよ?」

「いいのかよ、って。俺はただ事実をありのままに言っただけなのに」

「嘘つけ。滅茶苦茶フィルターかかってんじゃねーか」


 そりゃあ鍛えてもらったんだから、少しくらい方は持つ。


 一方的すぎる電話くらいならまだ可愛い方。

 理不尽エピソードだって、その木になればそれこそいくらでもあるんだから。






「――なるほどね。盛り上がってたのはそのせいか」


 高校進学に合わせた引っ越し×3と、初日からの大遅刻。

 その他諸々の要素も相まって大注目だったことに気付いたのは、東雲先生に声をかけられた後のことだった。


 一応、魔法に関わることはできるだけ喋らないように気を付けた。

 小城も東雲さんも、それは同じ。東雲先生からも、特にそういう注意はない。


 こうしてわざわざ車に乗せたんだから、そのつもりなら言われてる筈。


「確かに、あの人は少し無茶苦茶が過ぎるからね。天条君の評価もあながち間違いではないよ」

「先生までなに言ってんすか。組織の中でもトップクラスの人っすよ?」

「小城も会えば分かるって。噂に聞くような完璧超人とかじゃないから。全然」

「オメーみたいに好き放題言えると思うなよ!?」

「別に好き放題ってわけじゃないんだけどな、これでも」


 師匠の話はそのまま続行。おかげでイリアはすっかり呆れ顔。


 何が原因って言われたら、全部なんだろうけど……仲が悪い。

 特にイリアなんて、まともに話そうともしないレベル。


 俺も何度も助けてもらってたし、できればどうにかしたかった。

 でも結局、師匠が別のエリアに向かうその日になっても関係が改善は叶わなかった。


「期待をするのはいいけど、程々にね。あの人、意外と面倒くさいところもあるから」

「お姉ちゃん、神堂零次さんと会ったことあるんだ……」

「前に、少しだけね。本当に昔のことだから、三凪は覚えてなくても仕方ないよ」

「えっ、私も……?」


 ああ、やっぱり。


 橘さんと知り合いって聞いた時点でそんな気はしてた。

 それも多分、師匠が今ほど有名になる前からの。


「んだよ、この中で会ってないのは俺だけかよ。……なぁ天条、オメーのケータイで話したりとかできねーの?」

「ムリムリ。あの人に普通に電話して繋がるわけない」


 非常事態ですら怪しいっていうのに。

 橘さんが駆けても繋がらない時はとことん繋がらない。……おかげで何度頭を抱えていたことか。


「まあまあ、いずれは会う機会もあると思うよ。……そのためにも、まずは今やるべきことをしっかりやらないとね」


 東雲先生の車が向かう先。


 それは俺達のよく知る、それでいて、初めて訪れる場所だった。


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